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コラム

ブランコを漕いでリボンを考える―学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと―

コンセプトのカギは“3K”にあり

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インサイトを伸ばす、逆転する、統合する

では、具体的にインプット(リサーチ)を元にどんなふうにコンセプトを導き出せばいいのでしょうか。これについても、決まった方法論のようなものはありません。だからこそ難しい作業ともいえます。

ただ、何もないと考えることができないので、「BranCo!」参加者向けに行ったコンセプトセミナーでは、インサイトを「伸ばす/延ばす」、「逆転する/解決する」、複数のインサイトを「統合する」という3つの方法を紹介しました。コンセプトは、完璧にしてからアウトプットに進むのはかなり難易度が高いので、現実的にはアウトプットのアイデアと行き来しながら考えていくのも大切でしょう。

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コンセプトセミナーの様子。まずは、よいコンセプトの例を紹介しました。

セミナー後のアンケートを見ると、捉えどころがないながら、やってみてわかる難しさを実感してくれたようです。「一言のコンセプトからも物語が想像できるものにする難しさを学びました」(東京大学 稗田有紗さん)といった学生スタッフの感想をはじめとして、「インプットにくらべてコンセプトは概念的で、捉えきれないところがあった。しかし、だからこそリボンフレームのなかで最も大事な部分であり、また人間だからこそ取り組める部分でもあり、そのためにかなり深い思考が必要なのだとわかった」、「抽象的なインサイトから、しっかり絞って、誰もがイメージできるような共有力のあるコンセプトを作っていくはずが、幅広いインサイト、曖昧なコンセプト、よくわからないアウトプットになってしまい、あやふやはあやふやを生むことを身を持って感じた」といった意見がありました。

学生の感想には、3つのKのなかで「共有力が難しい」と挙げた人が複数いました。「自分たちだけがわかる、独りよがりな内容では意味がなく、作り終えた後も客観視したり外部の意見を取り入れたりして、相手に分かりやすく説明できるコンセプトを何度も吟味することが大切なのだということを、フィードバックによって学べたことが大きな収穫だった」というコメントがありましたが、まさにその通りだと私も思いました。概念やイメージを共有することは、企画に限らず「共創」の基本ですから、それを体験するワークショップにもなったようです。

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ワークショップ中。毎回のセミナーではメンバーをシャッフルして行ったので、バックグラウンドがわからない人との共創の体験にもなっています。

コンピューターに代替できないコンセプトワーク

それにしても、セミナーをやってみて、コンセプトワークは教えるのが本当に難しいと感じました。

コンセプト立案には、あまり体系だった方法論がありません。その理由はいくつかありますが、よいコンセプトがひらめくときにはある種の思考の健全なジャンプが起きているわけで、論理的に積み上げて説明しづらいことが大きいでしょう。

のため前回のインプットの回でご紹介したような明確な手法(こちらも“正攻法”ではありませんが)があるわけでもなく、じっくりと材料(リサーチ結果)に向き合って、さまざまな視点からコンセプトへの収束を試してみるしかないというのが、実際のところです。

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ディスカッションする学生運営スタッフ。彼らは「BranCo!」の活動自体のコンセプトを熱心に生み出してくれました。

ダニエル・ピンクは、著書『ハイ・コンセプト』のなかで、コンセプトワークは、もっともコンピューターで代替が難しい人間的な仕事と指摘していました。それはコンセプトづくりがプログラムのように形式化やシステム化がしづらい事によるものです。私も含めて企画に携わっている人なら、仕事上でたくさんのコンセプトを見ていますから、コンセプトのよしあし自体はある程度わかると思います。ただそれも経験による暗黙知が蓄積されているわけで、形式知化されているわけではないでしょう。

そのため最後は経験を積むしかないというのが正直なところではありますが、よいコンセプト導出に少しでも近づくには、まずはとにかくコンセプト候補をたくさん挙げてみることがもっとも有効だと考えます。それを吟味しながらブレストしていくと、コンセプトのよしあしが見えてきます。「BranCo!」の本番の企画でも、参加者はコンセプト立案に粘り強く取り組んでくれたと思います。その模様は最終回でじっくりご紹介させていただくとして、次回5回目は、アウトプットについて解説します。


宮澤 正憲「ブランコを漕いでリボンを考える-学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと」
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