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コラム

いま、地域発のクリエイションが面白い!第2弾

その地の人々の暮らし方を、働き方を、そして生き方を良くするデザイン

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前回のコラム「1次、2次、3次、そして6次産業は、クリエイティブの力でもっと面白くなる!」ーー池端宏介(インプロバイド) はこちら

「これからの日本は、地域が元気にする!」――ネットの登場により、日本全国どこにいても、遠く離れた他の地域と、さらには国境を超えて広い世界と向き合うことができる現在。
地域で活動するクリエイターは、その土地の特性を生かしたプロダクトやサービス、表現を生み出すのはもちろんのこと、その魅力を世界に向けて発信することで、業界全体に大きなムーブメントを起こしたり、日本の、そして各地域の魅力を再認識してもらうきっかけをつくることもできるようになりました。
コミュニティの密度が高いからこそ実現する企画、その地に暮らしているからこそ発想できるアイデア。テクノロジーの発展によってそこに情報の発信力、メッセージの拡散力が加わったことで、地域で働くクリエイターができることの可能性は大きく広がりつつあります。
第1弾の好評を受けて実現した、この 「いま地域発のクリエイティブが面白い! Vol.2」には、広告のみならず、プロダクト、パッケージ、空間、建築と幅広い領域のクリエイター9人が登場。地域で働くクリエイターが感じている「限界」、そして「可能性」とは?
等身大で、自分の仕事の今と、未来に向けた思いを語ります。


井手 健一郎(リズムデザイン|rhythmdesign

初めまして、リズムデザインの井手健一郎です。

リズムデザインは、福岡を拠点に、都市や建築に関わる設計・デザイン・リサーチなどを行う設計事務所。「Think, seamless.|翻訳的に思考する」をコンセプトに、建築の設計やデザイン、リノベーションの仕事を多く手がけています。

地域でクリエーションに取り組むことに対する私の考え方を書いていく前に、まずは自己紹介を兼ねて、私が建築家を志すようになったきっかけや、建築家としての仕事のスタンスについてお話ししたいと思います。

私は、父が大工、母は建築金物店の娘という完全なる建築一家に生まれ育ちました。幼い頃から父の姿に憧れ大工になろうと思っていたのですが、大学3年生(20歳)の時に建築や設計の面白さに気づくきっかけがあり、建築家を志すようになりました。

2000年春に福岡大学工学部建築学科を卒業後、バックパックを背負ってヨーロッパに渡り、1年間で14カ国・97都市を旅して回りました。各国の建築や街、そこで暮らす人たちの生活に触れる中で感じた「自分たちが暮らす街は、自分たちのものだ!」という空気は、その後の私の活動や考え方を大きく方向づけてくれたように思います。

帰国後、福岡を拠点に活動する2人の建築家に師事し、設計の実務の世界に入りました。

最初に勤めた井本重美さんの事務所では、建築家としての心得のようなものを教えていただきました。井本さんがいつも口にしていた、「建築家が建築を設計するのは当たり前、それ以外のものをデザインする必要がある」「設計やデザインそのものよりも、それを(クライアントなどと)共有することに時間を割きなさい」「自分の価値観でつくるのではなく、まずは相手の価値観に飛び込みなさい」といった言葉は、現在の私のスタンスの根底にあります。

その後に勤めた松岡祐作さんの事務所では、設計のスタディ(検討)を進める時に、リサーチやそのデータ分析に多くの時間を割きました。自分たちの先入観を疑い、正確な現状把握や状況分析を大切にする、「スケッチを描くだけではない設計プロセス」は刺激的で、とても多くの影響を受けました。

建築的なスタンスで、建築以外のものをデザインする

そうして設計の実務に関わる中で、建築やデザインに関わる人たちの素晴らしさは、「色や形」を伴って出来上がった完成品(結果としての建築やデザイン)だけでなく、その建築やデザインが完成するまでに辿ったプロセスにこそある、と感じるようになりました。

世の中に存在するデザインの仕事のほとんどがクライアントワークです。設計の仕事も同様で、施主や、その建築・場所を使う人たちのために設計します。

そこには、設計者やデザイナーの存在に先立って、多くの状況や前提条件が存在する。それをどのように読み解くか、プロセスにおける「翻訳の精度」のようなものが、最終的な結果の質に大きく関わると考えています。

しかし、一般的に建築やデザインというと「完成品(色や形)」として捉えられ、「プロセス」はあまり注目されない。そこに問題意識を感じ、「建築的なスタンス(=翻訳的なスタンス)で建築以外のものをデザインしよう」と考え、井本さんの事務所を退職すると同時に「リズムデザイン」の活動をスタートしました。

当初は、高校や大学の同級生とともに、映像やグラフィックの制作を行うという任意参加の“クラブ活動”のような状態でしたが、2004年に独立して自身の事務所を構え、設計活動を本格化しました。

「なぜ福岡を拠点にしているの?」と聞かれるとうまく答えられないのですが、自分が生まれ育った好きな場所ですし、家族や昔からお世話になっている先輩や友人も多くいますし、そのような関わり合いの中で働くことを選びました。

「どこに生活の拠点を構えるか?」や「どこに軸足を置くか?」ということは、その選んだ場所へのひとつの共感の表明でもあると思うのですが、自分の活動や生活、時間を定着させる起点はここ福岡なんだろうな、と思っています。

次ページ 「自分たちの居場所を、自分たちでつくる」に続く