小西圭介(電通 マーケティングソリューション局コンサルティングディレクター)
顧客視点の価値への発想転換
ライフタイムバリュー(顧客生涯価値:以下、LTV)は、ダイレクトマーケティングの世界から生まれた考え方で、データベースに基づく顧客価値の定量的なモデル化が進展したことによって1990年代頃から注目されるようになった。
しかし、LTVの概念が単なる指標を超えて、今日的な重要性を持っているのは、従来の製品中心の短期的な「売上-利益」の発想から、一人ひとりの顧客視点で長期的な価値と収益を考える、という本質的なマーケティング発想の転換を意味するものであったからだ。
例えば製品中心の考え方では、新規顧客の開拓にマーケティングコストの大半を費やすことになりがちだが、LTVの考え方によって、「一見客よりも馴染み客を大切にせよ」といった古くからの商売の経験則が科学的に証明されるようになった。すなわち新規顧客の開拓よりも、一度顧客になった人との良好な関係を維持するほうが、企業にとってはるかに効率的で、長期にわたる安定した収益をもたらすことが明らかになってきたのだ。
LTV重視のマーケティングの前提として、フレドリック・F・ライクヘルドらが、顧客を維持することが企業にもたらす利益成長効果を分析した有名な研究がある。そこでは、顧客との継続的な関係の構築によって、①基礎利益に加えて、②購買・残高増利益(クロスセルなど)、③営業費の削減利益、④紹介による利益、⑤価格プレミアム利益などが上乗せされることが示されている【図1】。
