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コラム

ビデオコミュニケーションの21世紀〜テレビとネットは交錯せよ!〜

動画制作のクラウドソーシングから見えてきた!映像制作者は自分たち自身を価値付けせねば。

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映像制作は発注側からするとブラックボックス

ここから先は、映像制作、もっと大きく言えば制作事業に関しての私見です。

映像制作は、発注側からするとブラックボックスだと言われていました。どうして30秒の映像を作るのに何千万円もかかるのかわからない、とよく言われ、結局説明できていなかった気がします。一方で契約書もなしに何千万、何億円もお金が動いていた不条理な世界だった。

そしてこれまで、映像制作は“人”の価値をきちんと提示できてなかったと思います。撮影には莫大な費用がかかる。スタジオを借りてセットを組むとそれだけで何百万円、機材を駆使して大勢のプロを動かして何百万円、編集のために立派なスタジオを借りてまた何百万円、合計何千万円となってしまう。そこには別に嘘偽りはないでしょう。見積りにはその原価にX%のっけろ、と言われて利益を乗せる。ところが不思議なことに自分たちの人件費は曖昧です。申し訳なさそうに数十万円を計上する。値下げ要求が出たら削る対象は自分たちの人件費だったりしました。

つまり、映像制作事業では外注費用が利益の源泉で、自分たちの価値に値付けできてなかったのではないでしょうか。

制作会社は粗利X%を基準に利益管理していることが多いでしょう。その粗利とは、売上金額から原価を引いた金額の割合です。社内の人件費はその粗利でまかなうことになっていますが、社内人件費をきちんと管理把握していないことが多かった。でも映像制作は手がかかります。勢い、社内の若者をかき集めて徹夜して乗り切る。ほんとうは、その人件費をきちんと算出して社内原価として引いたら利益がなくなっているかもしれないのですが。つまり、若者をたくさん投入して収益性は“だましだまし”やってきたのです。

いまは違うでしょう。株式上場したところも多いですし、もっときちんとやっているとは思います。でも、体質として収益性をえいやっと乱暴に先送りにして若者人海戦術でなし崩し的にやってきた、その空気はまだまだあちこちに残っているんではないでしょうか。

現場気質は素敵です。とくに男性はそういう職人的な心意気を美しいとしてしまうロマンチックなところがある。でもそれで、自分たちのいい加減さを先送りして若者たちの「人の心を動かしたいっす」という青臭いけど美しい情熱を大量に投入して、ほんとに計算しなきゃいけないことから目を背けてきた。

それがいま、変わるチャンス、変えるタイミングが来ているのではないでしょうか。この先、ネットを中心に動画制作のニーズは増えます。一方番組やCMの制作は市場としてさらに縮小するでしょう。でもなくなりはしません。旧来型の映像制作が、Viibarのようなやり方に丸々取って代わられるのではなく、プロダクション機能は今後もなくならないし、新しいニーズにも対応すれば伸びる可能性だってあります。

その時のポイントが、単価の大小に問わずきちんと収益性を出す仕組みです。そのための、やりようはある。新しい考え方はある。Viibarの話にはそういう学びがあるのだと思います。ポイントは、原価に頼らず、自分たちの価値をきちんと提示することです。

ネットの時代になり、映像制作の現場がひたすら疲弊していくようではいけません。この世界を志す若い人たちのためにも事業の新しい見方にいまこそ、取り組むべきなのだと思います。


境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現・I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。ブログ「クリエイティブビジネス論」(http://sakaiosamu.com/)はハフィントンポストにも転載される。著書『テレビは生き残れるのか』(ディスカバー携書)株式会社エム・データ顧問研究員としても活動中。