父親のエゴサーチと、IoTブームの間

みなさんは、「エゴサーチ」というものをしたことがあるだろうか?

 

「自分の名前でググる」ということだ。

 

ぼくらのような「シェアさせてなんぼ」という仕事をしていると、自分たちが制作したキャンペーンに対して、世の中がどんなふうにレスポンスしてくれているか、高評価かこき下ろしているか無反応かを見るため、ひんぱんに作品と関連したワードでサーチを行う。

 

たとえば、先日「The Luxury Test」というコンテンツをリリースした。
ゲームの最後に診断結果をシェアしやすいしくみになっているので、Yahoo! リアルタイム検索でこんなワードで調べたりする。

そういうことを日常的にしていると、連鎖反応的に、ついつい自分の名前や、学生時代の友達の名前でも調べてみたりする。
「あれ、アイツいまあんなことやってるんだな」という発見があったりして楽しい。

 

先日、ふと思い立ち、親父の名前でエゴサーチしたところ、
度肝を抜かれた。

な、なな、

なんじゃこりゃぁぁぁああーーーーーッ!!

タミヤ的図面満載!!!

 

親父は、第1回「親の金を盗む〜」でおなじみ、
栃木のトンカツ屋(リタイア済)である。

 

いったい三千穂に、何が起きたのか。

 

本人に問いただしたところ、なんと親父は、
イノベーティブなキャベツの千切り方法
について特許を出願中だった。

具体的には企業秘密なので教えられないが、とにかく飛躍的にキャベツがみずみずしくなり、ボリューム感も飛躍的に増えるという、30年余の苦労から編み出した基礎技術だという。(※ご興味がある人はご連絡くだされば、親父につなぎます)

 

すごいぞ親父。

いったいどこに行こうとしているんだ親父。

親父、トンカツ屋の前は、某シューズ用品の特許取得に従事する、工業大学卒のド理系だったんですね。
だから、アイデアはプロトタイピングして特許取得、という方向に自然となるのだろう。

次ページ「さて、特許といえば、」に続く

さて、特許といえば、もうひとつ忘れられないことがある。

弊社が2012年に、はじめて一般お客さま向けのビジネスを行った
OMOTE 3D SHASHIN KAN」というサービスである。

ひとことでいうと、「あなたの3Dフィギュアをつくる写真館」という
この世界初のビジネスモデル、大成功ののち、

 

速攻で世界中からパクられまくりました。

 

んもう社員総じて、涙目である。

このあたりのことは、PARTY清水幹太の「お父さんは少し怒っています」を読んでいただきたい。

 

最近、類似のサービスをインドで発見した。
しかも、技術的な障壁が解決された、よりオシャンティーなサービスになっていた……。

まるで、自分が一目惚れして磨き上げた女優の卵が大ブレイクして、超人気アイドルグループのセンターをつとめたあげく、どういうわけかアダルト界に転向し「あっちもセンターで」的なキャッチコピーで世を賑わした3年後、バラナシの安宿街で、インドで大ブレイク中の彼女のポスターをオートリキシャーから見かけて、
「なんで君こんなとこいるの……」とひとりごちるような、悲哀に満ちた気分だ。

 

かように、
ぼくらはビジネスや権利問題に、ヒヨッコで無頓着なんである。

 

先日、虎ノ門ヒルズで「SENSORS IGNITION」というイベントに参加した。

 

驚いたのは、
展示ブースが、メチャクチャよかったんですね。
狭い業界なので、よく知る会社も多く、デジタル広告業界のプロダクションや、名前隠してるけど代理店でしょ、みたいな人たちが、テーブル1個のみ与えられたようなブースで、精一杯のホスピタリティを用いて、各社の新技術、サービス、遊具を体験できる展示だった。

技術力も非常に高い。

PARTYも、製作中のものがあったのだが、どうしても間に合わず、今回は展示できなかった。モッタイナーイ、と脳内でワンガリ・マータイさんが叫んでいる。

 

「あ、いいな」と感じた理由は、たぶんこうだ。

「あまりビジネスビジネスしてない」ところと、
「受け手の体験や、ユーザー同士のコミュニケーションが見える展示」が多かったこと。

スタートアップ系やテック系のイベントで、同様の展示を見ても、ちょっと趣が違う。
かたや「いや『ハイビジョンの32倍の解像度』はすごいけど、どうやって使うのそれ」とか、何のソリューションだかわからない横文字がとびかっている展示ブースの横で「資金調達にまたもや成功しまして。恐縮ですウフフ」などとたたずまっていたり。

こっちは、もうちょっとなんというか、
超ハイレベル文化祭みたいな感じなんですね。
おそらく、メイカーズ系イベントも、そのような趣ではなかろうか。

 

この理由はカンタンだ。
IoT – Internet of Things(モノのインターネット化)ブームの到来とともに、ビジネス畑、技術畑、表現畑のそれぞれにいたひとたちが、一見同じようなものを展示する同じ舞台に立ったからだ、とぼくは思う。

それぞれの畑から出てきたIoTは、似ているように見えて、
顔つきがちょこっとだけちがうのだ。

とくに、デジタル広告プロダクションの方たちは、もともとの広告モデルでおしごとが成り立っている余剰でやっている場合が多い、と思う。
資金調達や事業売却に鋭い目を光らせる必要もないいいっぽう、失敗しても広告ビジネスがある。

ぼくもふくめて、広告畑というのは、一般人にとっては、ある種ゴミというか「たいしていらないもの」を作っている自負、コンプレックスも通底している。
「広告じゃなくてコンテンツつくってます」とお恥ずかしながら言いたい。
ホントは、プリウスとか作りたいですよそりゃ。世の中の役に立って、社会に使われて人類の進歩に貢献するようなことをしたい。

子どもから、
「パパのおしごとってなあに?」と言われたとき、
「んー?パパはね、ゴミつくってるんだよ」というのではなく、
「パパは、世の中がもっとよくなるようなアイデアを日々考えているんだよ」とでも言いたいものである。

その、千載一遇のチャンスかもしれないんですこれ。

これからは、JINS 「MEME」のように、企業が単にブランド広告をつくるのではなく、イノベーティブなものを作ることが、ブランディングに一役買うことになる。広告宣伝費でプロダクトをつくってしまうのもアリになる。
そこでは、インタラクティビティだったり、コミュニケーションといった、従来はぼくらに任されていた領域が必要になってくる。

 

これは、超燃える展開である。

次ページ「ところが、今のままで本当に大丈夫かな、」に続く


ところが、今のままで本当に大丈夫かな、という不安もよぎる。

先日、某イベントでtakram design engineeringの田川欣哉さんがまさに、
「BTCのバランス」という論を展開していて、わかりやすかった。
スタートアップの企業の多くは、B – ビジネス / T- テクノロジー / C – コミュニケーション(クリエイティブ) が、正しく同居している企業がほとんどなく、本当はみんな近いところにいるのに非常にもったいない、という話だ。

 

たとえば、LINEスタンプ。
これ、人がコミュニケーションするかぎり、ニーズがほとんど途絶えることのない、BTCが完全に同居できているサービスかもしれない。

 

BとTだけだと、とりあえずお金として成立はするが世の中に使われないという空虚に陥るし、TとCだけだと、すごく面白いのにお金にならず、大きなものを動かせずに、先細りするのではないか?

 

ぼくはもちろん、後者側の人間だ。

 

ただでさえ、日本は西海岸に比べ、IoTがまったく成功しないモデルなんです現状。がんばって盛り上げても、事業売却かIPOしか出口がなかったら、せいぜいクラウドファンディングに出して、まあまあな結果を出し「ま、こんなもんか」で終わっちゃうのがほとんどだと思う。

「SENSORS IGNITION」のイベントで、接客展示をしていた、あの若者たちの人懐っこい笑顔、汗、ホスピタリティのことを思う。
彼らが将来「ああ、やっぱIoTって単なるブームだったのね。ムダだったのね」と天を仰いで悲しい顔にならないように、成功するモデルや道筋をつくってあげたいな、と強く思ったのです。

 

 

まあ私は、強く思うだけで

何も展示してませんでしたが。

 

 

 

PARTYでは、ビジネスディレクターと、ビジネスパートナーを募集中です。

涙目で。

 

中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)
中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

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