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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

「WIRED」創刊編集長ケヴィン・ケリー「バーチャル・リアリティで、未来の人間は何を得るのか?」

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私たちは「TRACKING」(追跡)される

3つ目のトレンドは「TRACKING(追跡)」です。

これは、人々の行動を“データとして捉える”ということです。現在でさえ、私たちの生活は、私たちが思っている以上に監視され、モニタリングされ、そしてデジタル化されています。

未来では、それがさらに進み、基本的に私たちの生活のほとんどがトラッキングされるようになるでしょう。そして、VRの世界は最もトラッキングされやすい環境だといえます。というのも、VR上に自分の分身としてのアバターをつくるためには、リアルな世界での自分の表情、手や指の動きといった全てをトラッキングしてもらう必要があるからです。

現代においても、私たちは自らをトラッキングしています。それは、健康という医学的な理由からです。すでにFitbitなどのさまざまなフィットネスデバイスが存在し、テクノロジーによって心拍数や脳波、皮膚の反応を記録できるようになりました。

未来では、生涯にわたって常にトラッキングすることが望ましいということになるかもしれません。現在のように1年に1回、健康診断のために病院に行くのではなく、毎日測定を繰り返すようにするのです。予防に効果的なだけでなく、病気になったときにもそのデータを元に治療できます。医療領域のプロトタイプは既に開発されているため、実現はそう遠くないはずです。

未来では、自分で自分をトラッキングするだけでなく、政府や企業も私たちをトラッキングするでしょう。さらには、Facebookのタグ付けなどによって、友人もトラッキングできるようになるかもしれません。そこは相互にトラッキングし合う世界です。

この状況の恐ろしい点は、“彼らは私について知っているけれど、私は彼らを知らない”という状況が起こり得るということです。自分では、どのような情報がトラッキングされているのかも分からないし、それが正確な情報かさえ分かりません。もし不正確だったとしても、それを訂正できないし、その情報が利用されたときに彼らに説明責任を求めることもできません。

つまり、情報の“非対称”という状況が起こるわけです。これは非常に不快です。

では、トラッキングにどのようなルールが必要でしょうか。

私が提案しているのは「コベイランス」(相互監視)です。つまり、情報を対称にするのです。誰かがトラッキングしてきたら、自分もその人をトラッキングできるようにするべきです。互いに監視し合うことで、不正な利用を防ぐのです。

これに関連して、もう一つ重要なポイントがあります。なぜ、われわれはお互いをトラッキングしているのかといえば、パーソナル化された待遇を求めているからです。

政府や企業から個別にパーソナライズされたサービスを受けたいという場合には、自分の情報を公開しなければなりません。友人が自分に特別に接してくれるのは、自分がオープンになることで友人も自分のことを知ってくれるからです。これと同様に、政府や企業にも同じことを求めるのであれば、やはり情報を公開していくしかないのです。

その一方で、プライバシーが必要な場合には、その選択肢が与えられなければならないでしょう。ただ、プライバシーを優先した場合は、パーソナライズされたサービスが受けられないということでもあります。

次ページ 「何かを始めるのに、今ほどいいタイミングはない」へ続く