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コラム

共感デザイニング

日本人の思いやりがタクシーを暴走させる?

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【前回の記事】「暴走するタクシーと、物言わぬ乗客のあいだ。」はこちら

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夏目和彦

アイ・エム・ジェイ/ディレクター/プランナー
愛知県新城市生まれ。2006年IMJ入社。デジタルマーケティングにおけるプランニングやディレクションを領域としながら、サービスデザインやプロモーション設計まで幅広く活動中。こう見えて1児のパパ。HCD-Net認定人間中心設計専門家。2014年度グッドデザイン賞「未来づくりデザイン賞」受賞など。


こんにちは。生後3ヶ月の息子と日々格闘中のIMJ夏目です。

当社にもどうやら育休制度というものがあるらしく、最近は男性社員でも取得する人が増えてきているようです。私も同僚やクライアント企業様のお許しをいただければ、ぜひ取得したいと思っています(^^)

というアピールはさておき、前回のコラムでご紹介した世界初ゆっくり走る「タートルタクシー」。
今回は、三和交通の吉川社長と出会い、その経営理念に心打たれた私たちが、三和交通さんと一緒に何か新しい試みをしたいと考え、同僚たちと日々議論を重ねていった過程をご紹介したいと思います。

安全より最速?

まず、タクシーってそもそも何なんだ?ということを考えてみました。
一般的に、タクシーは「目的地に早く着くための乗り物」として認識されていますよね。

私自身、タクシーに乗る理由の第1位は「お客さんとの打ち合わせに間に合わないから」です。そんな時は、少しくらい荒っぽい運転でもいいから、とにかく飛ばしてくれ!と思いながら乗りますし、むしろ運転手さんに「急いでいます!とにかくヤバイんです!」と伝えます。

ではいつもスピードを出してほしいか、というと、実はそうでもありません。
首都高を走っていて東京タワーが綺麗に見えた時とか、奥さんや子どもと一緒に乗っている時とか、あとは飲み過ぎて気持ち悪い時とか。そんな時はゆっくり走ってほしいなと思っています。

といった話を同僚にしてみたところ、「全然理解できないし常に飛ばしてほしいに決まってるでしょ?」と笑われ、まったく共感してもらえませんでした。そうか・・・と悲しい気持ちになりながらも、個人的にはここに顧客の隠れたニーズがあるんじゃないかという確信めいたものを感じていました。

そこで、白黒つけるべく簡単なアンケート調査を実施してみました。

調査の結果、76%の人が「ゆっくり丁寧に運転して欲しいと感じたことがある」と回答しました。
この結果を見て、皆さんは多いと感じましたか? それとも少ないと感じましたか?

多いと感じた方は、きっと都心で忙しく働いているビジネスマンの方で、主に仕事での移動手段としてタクシーを利用されることが多いのかもしれません。
一方、少ないと感じた方は、仕事以外のシーンにおいてもタクシーを利用される機会が多いのかもしれません。

私はこの調査結果を見て、76%は非常に多いと感じました。
それとともに、別の疑問が浮かびました。

「なぜ、ゆっくり運転してほしいと運転手に伝えないのか?」
「もし伝えられない理由があるとしたら、それは何なのか?」

この疑問を解き明かすことは、タクシーというサービスが持つ潜在的な課題を解き明かす大きなヒントになると、私は直感的に感じました。
そして、第1回のコラムで紹介した私の過去の経験(道を横断するベビーカーとママの話)で、「なぜ運転手に対して何も言えなかったのか」の理由を明らかにすることでもありました。

顧客の本音はどこにある?

乗客の気持ちを知るための一番手っ取り早い手段は、すごく当たり前ですが「乗客に直接話を聞いてみる」ことです。

私もそうなんですが、日々新しい施策やサービスを考える仕事をしていると、この当たり前のことをつい後回しにしてしまったりしますよね。
もしくは、ずっと同じ商品やサービスを担当していると「自分は顧客やユーザーのことをだいたい理解しているはず」と思ってきたりします。

残念ですが、オフィスの中にいても顧客の気持ちなんて永遠にわかりません!

極端に言うと、ものすごく経験豊富なマーケターやプランナーの方よりも、日々店頭で接客をしている販売員のほうが、顧客の気持ちを理解しているはずです。なぜなら、顧客のことを理解するための情報量が圧倒的に多いからです。

でも販売員よりも顧客のことを理解している人がいます。それは言うまでもなく「顧客自身」です。
もちろん、顧客全員に話を聞くことはできません。仮に顧客全員にアンケート調査を行えたとしても、回答が本音なのかどうかを判断することは難しいですし、アンケートの設問にないことまではわかりません。

ですので、当社では顧客やユーザーの本音を引き出すために、インタビュー調査をよく行っています。

(ちょっと専門的な話になりますが)調査は「半構造化インタビュー」という形式で行っています。1人につき1時間くらい話を聞くのですが、まず事前に用意した質問を投げかけ、その回答をさらに深堀りしながら話を聞いていく方法です。比較的手軽にできる上に、グループインタビューよりもはるかに有益なインサイトを発見することができます。

顧客やユーザーの気持ちを理解するためには、直接話を聞くだけでなく、ユーザーの行動をじっと観察したり(エスノグラフィー)、むしろユーザーから利用方法を教えてもらったりするような手法(コンテクスチュアル・インクワイアリー)もあります。

今回の場合は、いきなり知らない人のタクシーに同乗させてもらうのはさすがに難しそう(頑張ればいける・・・?)なので、ひとまず十数名のタクシー利用者を集めてインタビュー調査を行うことにしました。

次ページ 「日運転手に気をつかう乗客。」へ続く