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コラム

共感デザイニング

つくってみなきゃ、わからない。

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お金をかけない、シンプルな検証方法。

アイデアが決まったので、さあボタンを作ろう!と逸る気持ちを前にやることがあります。
それは「受容性評価」。簡単に言うと「利用者が気に入ってくれるか確認する」という行程です。

最近は3Dプリンターなども普及していますが、まずは紙でプロトタイプを作りました。

ゆっくりボタンのデザインを普通のプリンターで印刷して、その紙にボタン状に切り抜いたダンボールを貼り付けただけの粗末なプロトタイプですが、この段階では十分です。
ボタンの押し心地やデザインよりも、調査段階で出てきた「ゆっくり走ってくれと言えない」という課題を解決できるかどうかを、まず検証する目的だからです。

評価方法も超シンプル。会議室でイスを4つ同じ方向に並べて、助手席(ただのイス)に作成したプロトタイプを設置し、タクシーの車内を再現。私が運転手を演じて、被験者の方には乗客になりきってもらってサービスを利用してもらいます。

さて、ゆっくりボタンは利用者にどう受け入れられたでしょうか?

ポチっとされず。

見出しの通りなんですが、被験者の半分以上はボタンを押しませんでした。
だからといってこのアイデアはボツに・・・なりません!
目的は「ボタンを押してもらうこと」ではないんです。「利用者がアイデアを気に入ってくれるか」です。

下の図は、ボタンを押した人/押さなかった人それぞれの感情を、曲線で表してもらったものです。
曲線が上に行くほどポジティブになったことを表しています。

左側のボタンを押した人は、ゆっくり運転を体験することで、ポジティブな印象のまま降車しています。
一方、右側のボタンを押さなかった人は、ゆっくり運転を体験していないものの、このサービス自体に興味を持ってボタンの説明を読むことで、一時的にポジティブな感情になっています。

実際のタクシーの利用シーンを考えると、急いでいる時に利用する方が多いので、ボタンを押さない人の方が多いはずです。

そんなシチュエーションにおいても、この取り組みがポジティブに受け入れられたことは非常に大切なことでした。

一方、評価を実施したことでいくつかの問題も発見しました。

例えば、被験者のうち数人が「ゆっくり運転することで運賃が高くなるのではないか?」と心配していたことです。

実際のところ、タクシーの運賃は走行距離を元に計算されているので、渋滞などで停止時間が長い場合を除くと、同じ距離なら運賃は変わりません。でも多くの利用者はそのことを知らず、到着が遅くなった分だけ料金が高くなるのではと懸念していたのです。

他にも様々な気付きや改善点がありましたが、ひとつはっきりとわかったことがあります。それは、運転手の態度、話す内容、車内の掲示物、それらすべてがユーザーの体験を形成しているということです。ですので、

  • 運転手のオペレーションを一部変更する
  • ボタン以外の車内掲示物のデザインを統一する
  • 運転手に対して運転方法の講習を実施する
  • 降車時、乗客にサンキューカードを渡す

といった、ボタン以外の物事についても、三和交通さんと協議しながら見直していきました。

そしてその後は、試行錯誤しながらボタンをつくり、2013年12月に「タートルタクシー」は運行を開始しました。

次ページ 「ゆっくり走りはじめる。」へ続く