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コラム

藤村厚夫のメディア地殻変動

米国大統領選を動かした?“フェイク(偽)ニュース”とメディアはどう戦うのか

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ビジネスとしての「フェイクサイト」が出現

2016年11月、ドナルド・トランプ氏が次期アメリカ大統領と決まったことは、当のアメリカ国民だけでなく世界中に大きな衝撃をもたらした。

選挙期間中に大統領候補の両陣営の間では、「人格障害」「健康異常」「過去の(実業での)汚い取引」、ついには「ローマ法王が支持」「ISを生んだ原因」から「悪魔」といった汚い言辞まで、さまざまなデマ、スキャンダル(説)、陰謀論が飛びかった。だが、それだけだったら、歴史あるアメリカの大統領選のおなじみの風景だ。

今回の選挙で、特にメディアが果たした役割について強調しておきたい点は、大規模な「フェイクビジネス」がわれわれの眼前に出現したことだ。“出所不明”のデマや陰謀説が人々の口を通じて広まることはこれまでもあった。だが、今回の大統領選をめぐって起きた重要な事象は、

1.フェイクニュースサイトの誕生
2.そのサイトの記事がFacebookで大規模に拡散
3.フェイクニュースサイトへの大規模な流入で、広告収入を獲得

というスパイラルだ。

たとえば、米BuzzFeed掲載の記事「How Teens In The Balkans Are Duping Trump Supporters With Fake News(バルカンの10代の若者は、フェイクニュースでどのようにトランプ支持者をだましたか)」は、旧ユーゴスラビア・マケドニア共和国の片隅の都市Velesで、十代の青年が、「WorldPoliticus.com」「TrumpVision365.com」「USConservativeToday.com」「DonaldTrumpNews.co」、そして「USADailyPolitics.com」といった、いかにも政治メディア風のドメイン名を持つフェイクニュースサイトを100以上もつくり出し(いまもそのいくつかは閲覧することができる)、GoogleのAdSenseやFacebookページを通じて広告収入を得ていたことを、取材で明らかにしている。

同記事では、これらのサイトとは別に、40ものフェイクニュースサイトとおぼしきドメイン名が、同じVelesで取得されていることも確認したとしている。

図 1 「フェイクニュースサイト」の一例。刺激的な見出しやトランプ氏支持の記事が並ぶ

また、Guardianでも「How Facebook powers money machines for obscure political ‘news’ sites(Facebookは怪しげなニュースサイトにどのようにカネを稼がせているか)」という記事で、150ものフェイクニュースサイトを数えている。

米BuzzFeed記事「How Teens In The Balkans……」で、匿名を条件に取材に応じた若者が語るのは、彼らは両陣営のいずれかに肩入れしたいというわけではなく、単にトランプ陣営に有利なフェイクニュースが、バイラル(口コミ)効果が高く、結果的に若者たちが手にするカネが多くなるだけで選択したに過ぎないということだ。

皮肉にも、というべきか。彼らが学習し実践した手法こそが、“バイラルメディア”の手法であり、かつてBuzzFeedや数々のバイラルメディアが巨大メディアへと成長する手法として採用したアプローチに近似しているのだ。

次ページ 「メディア界のモラルハザードを打ち破れるか?」へ続く