コンサルティング系エージェンシーとの競争の行方
質問です。コンサル業界で成長著しいとされる米IBMは好調なのでしょうか。実は、2012年以降の売上と利益はともに年々下がり続けています。IBMはこの4年間、サーバーなどのハードウエアを起点のビジネスからコンサルティング中心にシフトさせ、また収益源をSaaS導入によって月額課金(サブスクリプション)モデルに変革している期間だったのです。この数年の景気が好調な時に、現状のビジネスをひたすら追いかけるのではなく、先を見据えて次の柱に投資をしておく。それができるのがIBMのすごいところです。
アドバタイジング・エージ誌が発表するエージェンシー・ランキング2016によると、そのIBMをアクセンチュア インタラクティブが追い抜きました。日本でも広告会社が参加するピッチにこうしたコンサルティング系エージェンシーが加わるようにいずれなるでしょう。もっとも、電通や博報堂にいるような鋭いクリエイターがアクセンチュアやIBMを目指して移動するような事態はまだ起こらないかもしれません。その代わり、コンサル系エージェンシーの強みは、企業トップとつながり、XaaSプラットフォームを知り尽くし、データの運用面からマーケティングを提供する部分で競合していく可能性があります。
組織とはつくるのか、育てるものか、組み立てるものなのか。こうしたテーマを考えるにもいい題材でしょう。M&Aを繰り返して急激に大きくなったアクセンチュア インタラクティブなどは、社歴が2年未満の人ばかりのはずです。日本人の視点では、組織は「いかに育てるか」と考える人が多いかもしれませんが、欧米ではテクノロジー系の人材は「Acqui-hireアクハイヤー(買収する-acquire-と雇用する-hire-の造語)」でチーム単位で増強する傾向があります。
旧態にとどまるか、革新へ向けて進塁するか
テレビ広告枠の取引やCM投下をオンライン自動化によって運用する「プログラマティックTV」についても視察します。Web動画よりずっと大きな約70兆円市場であるテレビ広告の取引を自動化しようという取り組みです。英語では「アドレサブルTV」ともいいますが、「アドレサブル(addressable)」とは、どれだけの人に個別にリーチできるか。もっと言えば、何人の銀行口座につながっているかということです。たとえば日経電子版には有料購読者が40万人以上いるといわれていますが、つまり40万超がアドレサブルということ。アドレサブルな視聴者が広がれば、ネット上でできていた視聴者別にダイナミックに広告を差し替え表示することがテレビCMでもできるようになってきます。
もっとも、こうした取り組みは今に始まったことではありません。米国でもグーグルがダブルクリックを活用してアドレサブルTVを試みたり、日本でも10年ほど前に電通が「CM GOGO」としてCMの買付けのオンライン化に取り組んだことがありました。技術的にはできないことでは無いはずが進まなかったのは、テレビ局側の理解が得られなかったからです。
米国では今年あたりから、ようやくテレビ局側が自らプログラマティック化の実行の段階に移りました。ケーブルテレビ配信のコムキャストが、傘下のNBC局のコンテンツについてプレミアム枠の一部をプログラマティック枠として開放する小さなステップを取りました。ケーブルテレビや衛星放送の普及率の日米差など環境の違いはありますが、ついに堰を切った動きが始まりました。
皆さんはニューヨークで最先端の取り組みを見ていきますが、現在の立ち位置から延長して勉強・研究をするのか、自ら新しい取り組みから逆算してチャレンジしていくのか、ぜひ考えていただきたいですね。野球に例えるなら、1塁に足をつけたままモノを考えるのか、またはリードを取って進塁するのか。最近、LINEがニューヨーク証券取引所にも上場し、こちらでも話題になりました。LINEが東京だけでなくあえてニューヨークで上場したのは、次の塁を狙いたいと考えたのではないでしょうか。(談)
榮枝洋文(さかえだ・ひろふみ)
デジタルインテリジェンス ニューヨーク代表
日本の大手広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長を経て現職。海外経営マネジメントと米系エージェンシーとの提携コンサルテーションを行う。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。ニューヨーク視察研修の解説を務める。
テーマは「いかに既存の枠組みを超え優秀なチームと手を組むか」。
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