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コラム

ビデオコミュニケーションの21世紀〜テレビとネットは交錯せよ!〜

「ネットのコンテンツだから安いよね」というイビツな常識をわれわれは叩きつぶせるか?

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【前回】「『逃げ恥』のヒットから考える「広告とはそもそも、心を動かすコンテンツではないか」という話」はこちら

ネット動画制作の低価格化は新たな商慣習になってしまうのか

ネットがもたらした一つの変化に、だいたいどんなことも安くなる、というのがあります。すべてがバーチャルだから。昔なら、こういう文章を皆さんに読んでもらうためには紙に印刷して配らなければならなかった。文章を原稿用紙に書いたら写植屋さんが文字を組んでデザイナーが貼って入稿して、校正もきちんとして印刷会社で刷ってもらう。それを販売店に置いてもらったり、配達してもらったり。

大変なプロセスだよなあと改めて思いましたけど、確かにやっていました。今もやっていますけどね。でも「活字を並べて文章に組む」なんて作業を、ついこの間まで人の手でやっていたなんて、今思えば信じられません。

それが今はWordで書いて宣伝会議の担当さんにメールで送ると、翌日あたりには「仮レイアウトしたので確認してくださーい」と言われて多少修正したら、もうこうしてあなたが読んでいる状況になるわけです。こんな風に大変な作業もなく、印刷という特別な機械も不要で、紙という物理的な媒体もいらない。だからネットは安いわけでしょう。

ところが、これが大きな副作用をわれわれの世界に引き起こすことになる。われわれというのは、「広くメディアやコンテンツに関わるわれわれ」のことを指しています。

われわれの世界でいうと、メディアにまつわるコストも安くなった。これはまあ、良しとしましょう。印刷や配布や電波の送信が要らなくなったわけですからね。ところが、それに引っ張られて、コンテンツの制作費も安くなりました。その理由は・・・あれ?おかしいですね。メディアが安くなる理由は物理的な要素が不要になったからで、はっきりしています。でもコンテンツ制作費まで安くなったのは、はっきり言っておかしい。

原稿を書いた後の作業は、物理的に不要な部分が出てきました。でも原稿を書くことそのものの労力は変わらない。同じようにカメラで撮影した後の工程はシンプルになっても、撮影する労力は同じ。映像制作なんて、手間はほぼ変わらない。

私がここで改めてくどくど説明するまでもなく、おかしな事態がコンテンツ制作の世界では起こった。起こったから怒るかというと、もうそんな気力もなく、流れに従うしかないよね、とみんなで諦めています。

でもやっぱり、おかしいなあ。おかしいですよね?

かつて私がテレビCMの制作に関わっていた当時、おおよそ1本のCMは3000万円くらいかけて制作されていました。Webムービーは、「あのめちゃバズったムービーは制作費300万円だったらしいぜ!」という感じです。この差が生まれるのは、どうしてでしょう?

その答えは商慣習です。それ以上でも以下でもありません。ただの習わし。しきたり。そうしてきたから。それが常識になっちゃったから。それだけなんです。

まずテレビCMはなぜ3000万円もかけられたのでしょう?制作費3000万円のCMはほとんどの場合、クライアントから「テレビに3億円かけたい」と言われたからです。全体予算のおよそ10%を制作費に回し、残った90%を媒体費にあてよう。なんとなーく、数十年間、そんな割り振りでやってきたからです。それが商習慣。

それはそれでおかしかった。本来は企画によって制作費はまったく違うはずです。でも、あらかじめ「3000万円で企画を出して」と言われる。

この企画だと制作費は1億円になります。じゃあ、3億円のうち2億円を媒体費にすれば良い。ほぼそんな話になることはなかった。全体の費用が3億円なのになんで1億円の企画を出すんだよ。そう言われる。

10%の壁。それがCM制作業にはありました。そんなもんでやってました。

ところがWebムービーだと、そもそも全体予算が10倍以上違う。1000万円しかないけどバズるWebムービーつくりたいんだよね。そんな話になる。さすがに10%とはならず、まあ映像なんだから300万円は必要かな。じゃあ残りの700万円で誘導施策やろう。そんな順番でしょう。

1000万円の全体予算があれば良い方で、「とにかく100万円しか予算ないけど、なんとかWebムービーをつくってほしい」とか、ひどい時には「20万円でつくれますよね?」とか言ってきたりする。「だってあっちの会社は20万円でやりますって言ってるんですけど」、なんて言われる。あっちの会社のことをよくよく聞くと、この間まで結婚式のビデオを撮っていたところだったりする。

Webだから仕方ないんですかね?これが新しい商習慣なんですかね?従わざるを得ないんですかね?

いや、そんなの常識じゃない!商習慣とは言えない!そう言いたいですよね。

ところが現実には、数年前から本当に低価格を標榜する「動画制作会社」という業態の人たちがニョキニョキ出てきました。そういう会社に行ってみると、それなりにイマ風の小洒落たIT企業っぽい若い人たちがいて、「動画広告ガー」とか「アドネットワークガー」とか、知った風に吠えてます。制作物を見ると、学生映画サークルみたいのが並んでいてゲンナリした。

CM制作費の10%ルールも、なんとなく長年の流れで決まった商慣習に過ぎない。でも一度定着した商慣習は簡単には覆せません。そうであれば、制作費の低価格化がこれからのネット動画制作の商慣習になるの?止められないのか、この流れは!

次ページ 「安さを武器にせず、志高く戦略的であるべき」へ続く