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レイ・イナモト×古川裕也「世界のクリエイティブはどこに向かうのか」

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●デジタルからインテリジェントの時代へ

—日本では現在、「働き方改革」があらゆる業界で最もホットなトピックになっていますが、世界における「働き方」の課題にはどんなことがありますか。

レイ:今後グローバルな会社でより課題になってくるのが、リモートワーキングです。オフィスを革新的に変える会社がある一方で、アメリカでは何百人ものメンバーがいてもオフィスを持たない会社も増えています。オフィスを持たない会社は、オフィスにかかる諸経費を削減できるし、ミーティングの回数が減って仕事が効率化しやすくなる。オフィスがないことによる障壁は、いまはあらゆるテクノロジーが解決してくれますからね。

古川裕也氏 電通 クリエーティブ・ボード/エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌライオンズ40回、D&AD、One Show、アドフェスト・グランプリ、広告電通賞(テレビ、ベストキャンペーン賞)、ACCグランプリ、ギャラクシー賞グランプリ、メディア芸術祭など内外の広告賞を400以上受賞。2013年カンヌライオンズ チタニウム・アンド・インテグレーテッド部門、2005年2014年フィルム部門はじめ、D&AD、クリオ審査委員長、ACC審査委員長など、国内外の審査員多数。D&AD President Lectureなど、国内外の講演多数。GINZA SIXローンチ・キャンペーン。ポカリスエット「潜在能力を引き出せ」。宝島社「死ぬときくらい好きにさせてよ」グリコ「smile!Glico」JR九州「九州新幹線」等。著書に『すべての仕事はクリエイティブディレクションである』がある。/Photo:GION

古川:まだちょっと先だと思いますが、一つの会社に属して一つの仕事だけをする以外のカタチも出てくると思います。いくつかの会社にゆるく所属したり、まったく違う仕事を同時に2つとか3つとか持って個人の中での相乗効果を期待するとか。

その背景に、今まで仕事じゃなかったことが仕事になるという流れがあると思います。遊びと仕事の境界は、あいまいになってきている。Emoji開発なんて、こないだまで仕事じゃなかったですし。日本の会社は、今は副業禁止にしているところが多いですが、それも変わってくるかもしれない。

レイ:これから世の中がどう変化していくのかを考えると、ここ15年はデジタルがさまざまな変化を起こしましたが、この先の15年はインテリジェントだと思います。ここでいうインテリジェントは、主にAIやアルゴリズム(機械学習)といったものなんですが、それらが水面下の見えないところで社会を発達させていく。そうした時代のなかで、最終的には会社としての形は崩れていくし、人間がやるべき仕事自体も変化してくのは確かですよね。

古川:歴史的に見ても、社会の進化というのは、職業がなくなって、また生まれるプロセスですから。デジタル・メディア・ビジネスのように、人間よりもAIの方が向いている分野も少なくありません。社員がやるべきか、アウトソーシングか、AIか。すべての企業に歴史が与えた新しい宿題だと思います。

レイ:それは僕自身も、アパレルの仕事をしていてわかったんですが、オンラインショッピングで衣類を買う場合の課題は、そのサイズが自分の身体にフィットするかどうかがわからないということですよね。アメリカのアマゾンやザッポス・ドットコムは、これまでその解決策を返却にしていたんです。フリーですぐに配送してすぐに返却もできるという、ある種強引に解決をしていた。

それがいまは、モバイルで自分の身体の写真を撮って、AIで寸法を測れるようになっています。その寸法を測るのも、人間が測るよりもAIで測るほうが正確なんですよね。人の身体のサイズはこれまで人間が測ったほうが正確じゃないかと思われていましが、そうしたものでさえ、結局AIのほうが精度が高かったと。

古川: 頭脳労働でもそうで、囲碁のようにある定型化された中での高度な思考・判断というものは、AIが加速度的に強くなる。ただそうでないこともたくさんある。理由のあるものはAIの方が向いているけれど、理由のないもの、筋道がわからないものは、人間の方が向いている、というよりそこが人間の能力の魅力的なところ。

そもそもすごいものには理由がない。ピカソにしてもモーツァルトにしても。どんな職業にもクリエイティビティが必要な部分はあって、また新たな職業やジャンルを生み出すことも、人間の仕事の一つですからね。重要なのは、AIと人間の能力とは対立関係では全くないということだと思います。

●「クリエイティブ・ディレクション」が生産性を高める

—「働き方改革」を考える上で、クリエイティブの仕事の生産性を高めるためには、どうすればいいのでしょうか。

古川:その質問に対しては、僕はいつも「クリエイティブ・ディレクション」と答えるようにしています。クリエイティブ・ディレクションが正確かつ高度であればとりあえず生産性は高まる。じゃあそのクリエイティブ・ディレクションは何かと言えば、やるべきことを狭めること。これは狭ければ狭いほどいい。それ以外は少なくとも今回は考えるのをやめようと決めることです。初期段階でそこをどれだけ正確にできるかどうかが、生産性を大きく左右しますから。

レイ:たぶん同じことなんですが、生産性を高めるためには2つの要素あると思っていて、「決めること」と「削ること」だと思います。良いものって最終的にはシンプルなものが多いじゃないですか。そのためには何をやるかを決めて、そこにプラスしていくのではなく、削っていくということが重要です。だから生産性が低い会社というのは、物事が決められない会社だと思うんですよね。

古川:日本の会社の会議でよくあるのが、物事を決めるために集まっているのに、継続審議となってしまうこと。それじゃあ、何のための会議かがわからない。

レイ:人間の仕事にはこれまで以上に生産性も求められていくし、また先ほどのAIの話もそうですが、人間がやるべき仕事は、人間でないとできない仕事にどんどん絞られていく。じゃあそれは何かと言えば、僕は「0→1」と「9→10」だと思うんですよね。これまでは人間が「0→10」を全部やっていたけど、これからは「1→9」はAIなどに任せればいい。

古川:「0→1」の理屈では説明できないアイデアを生み出す部分と、「9→10」の多分こっちのほうがくる、というような終盤の判断は、人間の方が今のところ優れていると思います。