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レイ・イナモト×古川裕也「世界のクリエイティブはどこに向かうのか」

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2017年5月、編集部は電通のクリエーティブ・ボード古川裕也氏とともに、レイ・イナモト氏が代表を務めるInamoto & Co.のオフィスを訪問。日本と世界を代表するクリエイティブディレクターの2人に、「世界のクリエイティブはどこに向かうのか」「クリエイティブの仕事の働き方改革」について聞いた。

●問われるのは、会社としての存在意義

左)Inamoto & Co レイ・イナモト氏、右)電通 古川裕也氏/Photo:GION

—今回は、お二人にまず「世界のクリエイティブはどこに向かうのか」についてお話をいただければと思います。

古川裕也:そのテーマは、レイさんの会社がまさに体現しようとしていることですよね。日本でも、電通から独立した岸勇希の刻キタル社は、それを体現しようとしています。2つの会社で共通しているのは、広告で培ってきたクリエイティビティを駆使して、広告以外のクリエイションをしようとしているところです。

レイ・イナモト:僕は独立して1年と少しですが、独立したことで経営者の方々と直接お話しをする機会が増えました。そこで感じるのは、今後会社をどうしていくべきかを迷っている方々が多いということなんですね。これはごく最近気づいたんですが、今後の会社の方向性を考える上で、3つのデザインがあると思うんです。

一つはマーケティングのデザイン。デジタルの時代になってもうしばらく経っていますが、まだいわゆるテレビ広告から抜け切れず次世代の方法論がはっきりしていません。これからの時代のマーケティングのデザインをどう考えればいいかということ。

もう一つは体験のデザイン。対消費者との関係性の体験をどうデザインしていくかということ。そして最後は、それらのデザインを実行する会社としてのデザインです。世の中はものすごいスピードで変わっていて、それに対応できる会社自体の仕組みをどうデザインするかということですね。

古川:相談を受けるのは、「要するに、この会社がどうなればいいか」ということです。世の中から見て、「ひとことで言うと、こういう会社だよね」というのをどう構築してどう認識してもらうか。どんな商品やサービスを提供するか以前に、フィロソフィーやビジョン、つまり、企業としての存在意義が世の中から問われているんだと思います。それは広告を創る上でも最初に思考すべきことです。

レイ:そうした流れもあってか、ビジネスそのものがクリエイティビティの重要性に気づき始めたんですよね。それはここ5~6年で顕著に感じていて、クリエイティビティやヒューマニティこそが大事なんだと、経営層の方々にもようやく理解されるようになった。

古川:結局それがないと、リスペクトもされず収益も上がらないことに、多くの会社が気づいたということですよね。僕らの仕事は簡単に言ってしまえば、課題を発見して、それに対するアイデアを考え、形にして解決するということ。そして最近は、広告で培ってきたクリエイティブの力をあらゆる種類の課題解決に応用していくことが求められているとリアルに感じます。

●クリエイティブディレクターが強い理由

レイ・イナモト氏 Inamoto & Co. ファウンディングパートナー/クリエイティブディレクター
Creativity誌「世界の最も影響力のある50人」、Forbes誌「世界広告業界最もクリエーティブな25人」に選ばれるなど世界で最も注目される日本人クリエイティブディレクターの一人。米・大手デジタルエージェンシーAKQA社に2004年から2015年までCCO(クリエイティブ最高責任者)として在籍し、Google、Nike、Audiといったグローバルブランドのデジタルマーケティング戦略の立案と実行をリードし、2015年にInamoto & Co.を設立。/Photo:GION

レイ:アメリカの広告関係の人の間でここ数年話題になっているのは、やはりコンサルティング会社のクリエイティブ業界への参入です。コンサルティング会社がまずデザイン会社を買って、最近はクリエイティブの会社を買収しているじゃないですか。

こうした動きって、実はクリエイティブの業界にとってはチャンスだと思うんです。クリエイティブの会社は、コンサルティング会社がやってきたビジネスの仕組みをどうするかという領域を具現化できる。クリエイティブディレクターが強いのは、メッセージとして言葉にしたり、見えなかったものを可視化できることで、最終的に何かしらの形に落とせることですからね。

古川:結局クリエイティブの仕事のほんとの主役はカスタマーですからね。「人々との接触面を設計できる」ことが、僕らクリエイティブの人間が強いところだと思います。クライアントに対するプレゼンがゴールではない。世の中の人の反応だったり、どれだけ世の中が動いたかといったことこそが重要で、それがあって初めてクライアントの評価もついてくる。

コンサルとクリエイティブの仕事の決定的な違いは、最終的なアウトプットで実際に世の中を動かす能力の有無だと思います。その重要な前提として、的確な他者認識機能がある。僕らは、いままで広告で培ったクリエイティブ能力を応用することで、コンサルティングがこれまでやってきた経営課題の解決まで含めて全プロセスをカバーできるはずです。

これは企業活動にとって、今まで以上に「世界」と「他者」が決定的になってきているということを意味しています。内部では解決しない。「閉じている」ということが不成立になっているのです。そうなってくると、「クリエイティビティという能力によるコミュニケーション」ということが、すべての企業にとって極めて重要な種目になってくると思います。

レイ:そうなんですよ。僕らは、コンサルティング会社がこれまでやっていたような上流にも昇っていけますからね。

古川:最終的に世の中にどう伝えればよいかといったことやそのコミュニケーションの形というのは、少なくとも今までコンサルの種目には入っていなかった。だからさまざまなクリエイティブ・エージェンシーやデザイン・ファームを買収しているんだと思います。要は、価値を外部化社会化する技術。そこには、巨大な需要があります。

次ページ 「クリエイティブ・ディレクションこそが仕事の生産性を高める」へ続く