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世界には愛しかない。絶対に知っておくべき豪州ソーシャルグッド4選

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#コアライオン 〜南半球から世界を揺るがすアイデア〜

nobuhiri.arai

荒井信洋(COPYWRITER / TBWA\Melbourne)

博報堂入社後、TBWA\HAKUHODOを経て、2017年よりTBWA\Melbourneへ。TwitterやUstream などSNSのエンゲージメント企画からキャリアを開始したソーシャルネイティブなコピーライター。”体験をコピーライティングする” 企画力に武器に、国内外120以上の広告賞獲得(Cannes Lions Gold/London Gold/Clio Grand Prix/ACC グランプリ/文化庁メディア芸術祭グランプリ など他多数)。最近の企画に、オーストラリア政府観光局”GIGA SELFIE” / キングレコード縦型MV ”RUN and RUN” など。

 

「カンヌ到着!」そんな書き込みがタイムラインに溢れる裏で、このコラムを書いています。おそらく今年のカンヌは、GRAHAMという名前の奇妙な人間が席巻していることでしょう。(サイバー部門、ヘルス&ウェルネス部門グランプリ。

このGRAHAMの出身地は、私が勤務しているオーストラリア。比較的小さなマーケットに関わらず、実は世界で3番目に多くの広告賞を受賞している隠れたクリエイティブ大国です。特に、「DUMB WAYS TO DIE」(2013年PR部門はじめ5部門でグランプリ)や「GAYTM」(2014年アウトドア部門グランプリ)のように、新しいアプローチで社会を変えるソーシャルグッド大国とも言えるのではないでしょうか。

今回は、どうしても食わず嫌いな人も多いソーシャルグッド系事例を紹介しながら、「課題を解決させる道は決して1つじゃない」ということをお伝えできればと思っています。もちろん、ものを売る広告にも生かしていただければ幸いです。

1-1. 「完全」をデザインして、気づきを与える。

 

「MEET GRAHAM」は、オーストラリア・ビクトリア州の交通安全協会TACが安全意識向上のために、絶対に事故で死ぬことのない人類の進化系を科学的に実体化した施策です。この記事が掲載される頃には、散々紹介されていると思うので、簡単に2つだけポイントを書かせていただきたいと思います。

1つ目は、新しい感情デザインであること。
恐怖という、安全系広告では使い古された感情を、従来と真逆のアプローチでデザインしています。つまり、事故死(=傷)ではなく、生存(=無傷)を通じて、交通事故への恐怖を強烈に植え付けています。

2つ目は、新しいプロトタイプ手法であること。
「こんな商品あったらいいでしょ?」というような商品のプロトタイプを通じたコミュニケーションはよくありますが、これは人類のプロトタイプ。フィクションの現象を科学する「空想科学読本」というシリーズのようなアプローチです。

絶対に死なない、人類の完全進化系をプロトタイプする。傷も出血もなく、ただ椅子に座っている彼。しかし、その姿は、自分たちのもろさに気づきを与え、今までにない恐怖で交通意識を無視できなくさせる。それが「MEET GRAHAM」のアプローチでした。

1-2. 「不完全」をデザインして、気づきを与える。

 

それとは対照的に、Airbnbの「Until we all belong」は「不完全」を形にすることで気づきを与えた事例です。動画をみていただければわかる通り、左手の薬指にはまっている欠けた指輪がアイデア。西洋の国で唯一同性愛が認められていないオーストラリアの現状に 抗議するAirbnbブランドの姿勢を可視化しています。

この欠けた指輪は、eBayで実際に購入することができ、同性愛の方はもちろん、Airbnbの思想に賛成する方が実際に着用することができます。マスメディアでのPR効果はもちろんのこと、日常生活において「何その指輪?」というリアルなバズを生みました。

最新の科学とテクノロジーから誕生した GRAHAMとは反対に、シンプル、低価格、ローテクでありながら、社会的課題を強く「見える化」しています。しかしどちらも、目にした瞬間に違和感を与え、動画に触れることで一気に気づきと深い理解が生まれる強いアイデアです。

2-1. 「便利」をデザインして、行動を変える。

 

続いて紹介するのは、西オーストラリア州のウォーターレジャーに関するNPO LIWA Aquaticsによる利便性を通じてプールでの安全意識を高めたシンプルな事例です。

パスワードを使った禁煙方法をご存知でしょうか?「Quit smoke(タバコやめる)」というような自分へのメッセージをパスワードにすることで、無意識のうちにリマインドされ生活習慣が変わるというもの。これは、そんな「記憶のハック」を活用したアイデアです。

メディアは、プールでの公共Wi-Fiとポスターのみ。パスワードに「watch_me_swim (ちゃんと僕を見ててね)」といった親への警告メッセージを設定。子供が遊んでいる最中に、ついついスマホの方にばかり集中している親に対して、気づきと行動の変化を与えています。さらに、定期的にパスワードが変わることで、リマインド効果も生んでいます。

ユーザーに対して便利なユーティリティを提供し、全く行動のハードルを上げることなく、意識を変えて、最終的に命を救うという究極の行動変容を起こす。シンプルで、低予算で、誰でも真似できる力強いアイデアです。

2-2. 「不便」をデザインして、行動を変える。

 

それとは対照的に、あえて「不便」な環境をデザインすることで命を救うことに挑んだ事例もあります。オーストラリアの隣国、ニュージーランドの鉄道安全週間にデザインされた社会実験です。

ニュージーランドの地方には踏切のない横断道があり、不注意による事故が絶えることがありません。そんな中、低コストでデザインされたのが「CONSCIOUS CROSSING (=絶対に意識してしまう横断道)」です。

仕組みは非常にシンプル。線路に対してまっすぐ渡れないようなバリケードを設置しました。そのバリケードは、人をわざと遠回りさせる導線をつくり、あらゆる横断者のスピードを緩め、鉄道の横断を意識させます。

さらにこのアイデアのポイントは、インタラクティブであること。あらゆる人がバリケードを操作することができ、その迷路をリデザインすることができます。決して1つの決まった導線ではなく、変化し続けることによって継続的に安全意識を保つことができるのです。

低予算で気づきを与え、変化し続けることで忘れない。同様の効果を生んでいる2つの事例ですが、そのアプローチは全く正反対であり、課題解決の方法は1つじゃないことを痛感させられます。

事例にない、事例をつくる。それが使命。

散々紹介した後ですが、正直なところ個人的に海外の広告賞で見かけるソーシャルグッドは好きではありません。一時期「社会的弱者 x テクノロジー = カンヌゲット!」のような、賞しか見てないような事例が多かったせいかもしれません。でも、それらを食わず嫌いすることなく見てみると、ものを売る広告マーケティングにも活用できるアイデアのアプローチだったり、視点が見えてきます。

また、今回4つほどアイデアのアプローチを紹介しましたが、「こう企画すれば、いい企画が生まれる!」といったテクニック論を紹介したいわけではありません。この記事が出る頃、クリエイティブの企画ミーティングではカンヌで見たようなアプローチの企画がテーブルに溢れていることでしょう。どうか後追いではなく、次の一手に挑戦しているような企画を出していきたいですね。「0→1」を生み出すことこそが、クリエイティブの存在意義ですから(自戒も込めて)。