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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

電通 髙崎卓馬×長久允×尾上永晃「拝啓、コンテンツつくってますか!?」(前編)

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【前回】「「アンチ・デザインシンキング」-輸入した考え方に踊らされないための方法論-坂井直樹×倉成英俊【後編】」はこちら

今回の 電通デザイントークは、映画「そうして私たちはプールに金魚を、」で 第33回「サンダンス映画祭」ショートフィルム部門のグランプリを受賞した電通の長久允さんを迎えます。さらに、広告とコンテンツの境界を行き来しながら話題をつくってきた髙崎卓馬さんと、ウェブとリアルを縦横無尽に遊びながら、強いコンテンツを生み出している尾上永晃さんも登場。デジタルテクノロジーの進化で世界中の誰もがコンテンツを制作できる時代に、広告のプロとしての自負や、心に響くコンテンツのつくり方について考えます。

「サンダンス映画祭」で評価された理由

髙崎卓馬
2010年、13年クリエイター・オブ・ザ・イヤー、TCC賞グランプリ、ADC賞、ACC賞など国内外の受賞多数。TOYOTA WHAT WOWS YOU /TOYOTA GAZOO Racing 、JR東日本 / 行くぜ、東北、サントリー /オランジーナ /オールフリー、全日空、日本郵政などのキャンペーンを担当。
著書に『表現の技術』(電通)、小説『はるかかけら』(中央公論新社)など。

髙崎:長久くんから「サンダンス映画祭」ショートフィルム部門のグランプリを受賞したという知らせをもらって、すごくびっくりしました。

映画に憧れたことのある人なら、誰でもサンダンスと聞くと震え上がるわけです。まさか自分の後輩がグランプリをとるとは、夢にも思ってもいなくて。

長久:実は、すごいんですよ(笑)。「サンダンス映画祭」は、インディーズ系の映画に特化した国際映画祭の中で最も規模が大きく、格式もあります。

若手映画監督を発掘することで有名でデイミアン・チャゼル監督も短編映画「セッション」の受賞をきっかけに、長編映画として再構築した「セッション」をつくりヒットさせています。「ラ・ラ・ランド」でのブレークは、サンダンスから始まっていると言っても過言ではありません。

髙崎:今回の映画「そうして私たちはプールに金魚を、」は、どういう経緯で企画したんですか。

映画『そうして私たちはプールに金魚を、』本編をVimeoで公開している。

長久:もともと僕は、映画の専門学校を卒業しているんです。今はCMプランナーとして広告をつくっているので、なかなか映画を撮る機会はありませんでした。しかし、「MOON CINEMA PROJECT」という、ウェブ投票で1位になった企画に出資するコンペを見つけて挑戦したところ、おかげさまで1位になれて映画がつくれました。

髙崎:僕も投票しました。「そうして私たちはプールに金魚を、」は実際に埼玉県の狭山市で起きた事件をモチーフに映像化したんですよね。

長久允
2007年電通入社。CMプランナー兼ディレクター。商品開発から、POPのコピーまで手掛けることも。ヤングカンヌフィルム部門で日本人初メダリスト。OCC賞最高新人賞。2017年 「そうして私たちはプールに金魚を、」がサンダンス映画祭でショートフィルム部門グランプリ。受賞をきっかけに、監督としての活動がメインに。NHK「東京ミラクルシティ」などを手掛けたほか、現在長編映画、海外ドラマなど準備中。

長久:はい、2012年の夏祭りの夜に4人の女子中学生が「金魚すくい」の金魚400匹を盗んで、自分たちが通う学校のプールに放ったという事件です。

髙崎:そういうローカルなモチーフがグローバルな場で評価されたポイントはどこにあると思いますか?

長久:自分では、日本の女子学生の考え方や、祭りのエキゾチックな雰囲気が評価されるんじゃないかと期待していました。ただ実際は、映画のテーマがグローバルな課題に通じていて、それを新しい映像表現で描いたことが評価されました。僕は狭山市という、すごく限定的な地域の物語として描いたつもりだったので、グローバルなテーマと言われたことにびっくりしました。

髙崎:あの子たちのいる世界は、特殊なものではなくて、誰しもが持つ感情を描いていたからなんでしょうね。

長久:狭山市は1時間もあれば、東京に行くことができる地域。そこで暮らす大半の人は都会に住むことなく、一生を終えます。主人公の少女たちも、狭山市で一生を終えていくことに対して「嫌だ」「脱出したい」とは言うけれど、それはできないだろうと諦めています。それが、なぜグローバルかというと、世界の多くの人たちも狭山市と同じように大都市近郊で暮らしながら、閉鎖された環境に鬱積した思いを持って人生を送っている人が多いそうです。

髙崎:事件を知って、テーマを発見した感じですか。

長久:いえ、事件を知ったことがきっかけではありませんでした。もともと僕が“諦念”して生きていたんです。例えば、すごくストレスを感じても、逆にそれはそれで面白いかなと認識している。いわば“諦めのポジティブ”みたいな性格だったんです。

髙崎:テーマとは自分の中にすでにあるもので一つの事件がそれに輪郭を与えてくれたんですね。

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