「悲観もしない、楽観もしない、ただ起きたことを受け止め、次の一手を探るのみ」というマインドセット
そうしたなかで、勝利条件についての認識の違いから、夫婦間でときに衝突や不和が起こってしまうということは「子育てあるある話」ではないでしょうか。子育てのように、そのプロジェクトが特別な行為であるとの思いが強いと、その分だけ、過度に期待をしたり、不安や失望を感じたりということの振幅が大きくなるように思います。
私の場合、ちょうど昨年の末頃に、第二子の出産がありました。当時の経験から、プロジェクトにおけるマインドセットのあり方についての気付きがありましたので、ここでお伝えできればと思います。
その気付きのきっかけになったのは、予定日の2ヶ月ほど前の検診で、切迫早産との診断がなされた時です。かなり前倒しのタイミングで胎児が下に降りて来ていて、早産の可能性が高いということでした。第二子以降の妊娠では、そこまで珍しい話ではないそうですが、初めて直面する当事者としては、当然ながら非常に動揺しました。人によっては、診断された直後に2ヶ月丸々入院生活だったとか、色々と不安な話も耳に入ってきます。
そこからさらに予想外の事態が起こります。危ういラインを行ったり来たりしながらも、結局生まれないまま当初の予定日を迎えることになったのです。それだけでなく、最終的にはそれを大きく超えてしまい、帝王切開かどうするか、という局面にまで至ったのでした。
あのときの早産の不安とは、一体なんだったのか・・・という思いを巡らせる暇もなく、次々と、発生する状況に対して、対策を打っていくわけですが、その2ヶ月の間、常に、「もう大丈夫」という安堵と「今度こそシビアな状況になってしまいそうだ」という危機感の往復があり、夫婦ともども、精神的に消耗してしまったものでした。破水が始まってからの48時間を超える戦いでようやくクライマックスを迎えるのですが、そのときには「悲観もしない、楽観もしない、ただ起きたことを受け止め、次の一手を探るのみ」というマインドセットを身に付けていました。
そこで思い出したのが棋士である羽生善治氏の座右の銘「八面玲瓏」でした。羽生さんは、著書のなかで、将棋の次の一手を指すその瞬間、心中にわだかまりがなく、清らかに澄みきって曇りのない境地を理想とする、ということを語っています。遠く及ばないかもしれませんが、蓄積する疲労と気力が尽きた果てに、あくまで必要なものとしてこの境地が降ってきた実感がありました。
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