コラム

デザイン思考の事業創造 〜関係性をデザインする、これからのブランド戦略〜

物流と都市の概念を拡張する、トヨタの新ビジョン 事業構造はカタチを変える-②

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1回目のコラムでは、今起きている産業構造の変化の輪郭を、トヨタ自動車CES2018における発表内容「e-Palette」を題材に触れて来ました。2回目は、その「e-Palette」が実現する様々な概念の融解、拡張に関して引き続き触れていきたいと思います。

このコラムでは、「e-Palette」発表内容に含まれていた様々な利用用途を以下3つに分類しています。

1つめは、移動を多様化すること。
2つめは、店舗と物流を融合すること。
3つめは、街や都市の定義を拡張すること。

1つめの「移動を多様化すること」は、1回目のコラムで触れていますので、そちらをご覧ください。

1回目コラム:事業構造はカタチを変える-① トヨタが示した新ビジョン、モノつくりからサービスブランドへ

また、e-Paletteの発表内容は以下映像をご覧ください。

全体概念

 

個別機能

 

では、残り2つに触れていきたいと思います。

2つ目の、店舗と物流の融合について考えていきたいと思います。今現在、店舗を軸に事業を展開している企業は、直営、販売代理店制、フランチャイズ制に関わらず、オムニチャネル化に対する課題を抱えています。

Eコマースが買い物行動の主軸になる中、どうやって店舗の価値を再定義するのか、オンラインとオフラインをつないだ購買体験をどうデザインするのかという課題を、様々な既存企業が抱えているのです。既存店舗で培った接客能力が対EC企業に対して強みになる一方で、広がり過ぎている店舗ネットワークという固定費を抱え、新しい流通システムへの対応は喫緊の課題となっています。

トヨタ自動車が「e-Palette」で発表した店舗と物流の形態は、あくまでも未来の社会においてですが、流通形態における一つの究極の形であると感じます。トヨタ自動車は「e-Palette」を使って目指す流通形態を、「On Demand Retail Experience」としています。

この中で「e-Palette」は、移動型の店舗、またはショールームとして街を回遊します。それは利用者の都合の良い時間に、利用者の都合の良い場所にやってくる「モバイルe-マーケットプレイス」です。

例えば利用者がスニーカーを購入するとします。利用者はまずEコマースにアクセスし、自分が気になっているスニーカーを幾つか選択し、試着を希望します。すると、WEB上で選択された幾つかのスニーカーを載せて、「e-Palette」が利用者のもとへとやってきます。

「e-Palette」の車両室内は小さな店舗になっており、利用者が選択したスニーカーがまるでリアル店舗のように綺麗に陳列されています。利用者は「e-Palette」に乗り込み、スニーカーの試着を行い、気に入った商品があればそのまま車両から出て行くだけで決済も含めて完了します。

このサービスで、Eコマースの購買体験では実現できなかったリアルな商品の確認や試着というサービスが、Eコマースの一連の購買体験フローの中で完結しました。もしも車両内のスクリーンでスタッフと利用者をライブで繋ぎ接客を行えば、高い接客品質を強みにする既存企業からしても利用価値のあるサービスになるかもしれません。

「e-Palette」を利用したこれらのサービスは現時点では極論ですが、いずれこの様なサービスが実装される可能性を見据えながら、企業は今後様々なサービスを考えなくてはなりません。新しいサービスを実装するタイミングは早すぎても顧客がついてきてくれませんし、遅いとシェア争いに乗り遅れてしまいます。

流通領域で「e-Palette」はもう一つ新しいコンセプトを提案しています。それが、「Mobile Personal Shops」です。これは、移動型フリーマーケットと定義されています。「e-Palette」が出品者の商品を集めてフリーマーケットを開くというコンセプトです。

この時出品者は、自分が出品する商品を、複数の出品者の商品を回収してやってくる「e-Palette」に積むだけで完了します。様々な出品物を積んだ複数の「e-Palette」が一箇所に集まることでマーケットを形成し、そこに買い物をしたい人々が集まってきます。集まった人々は自分が欲しい商品を見つけたら顔認証でオンライン決済をしてそのまま商品を持ち帰ります。

これは、商品を積んだ「e-Palette」が買いたい人の場所に行く移動式店舗とは逆の発想で、「e-Palette」は売りたい人の所に行き、買いたい人は複数の「e-Palette」が集まるマーケットにやってくるという考え方です。

売りたい人からするとオンラインで完結する販売手法で、買いたい人からするとオフラインで買い物をするリアルな購買体験となります。オフラインに位置付けられる店舗自体が移動するという考え方は、オムニチャネルが更に進化した時代の一つのアイデアと言えそうです。

続いて3つ目、街や都市の定義を拡張する、です。この概念は、「e-Palette」の個別モードや機能を切り替えて実現するのではなく、これまで紹介してきた様々な形態に変化できるという「e-Palette」の特性を使うことで描ける、新しいコンテクスト(文脈)と言えます。ここでは、「On Demand City」として紹介されています。

例えば建物もインフラも無い広い平野で音楽イベントが開催されるとします。そこに様々な形態を搭載した「e-Palette」が集まってきます。例えば、小さなレストラン、コーヒースタンド、ビアバー、たこ焼き屋さん、ピザ屋さん、お寿司屋さん、ラーメン屋さん、Tシャツ屋さん、金魚すくい、ゲームセンター、小型ラウンジ、カラオケ、ホテル、散髪屋さんなど、これらが軒を連ね人々で賑わうと、それは街となり、都市であるといえます。

そういった都市が、オンデマンドでどこにでも現れては消えて行くのです。様々な産業が集い、そこに人が集まり、消費活動を行い、寝泊りもできる。それらが土地に固定された建築物で行われているのではなく、移動できる箱で行われているということを除いては、機能としては都市として成立しています。

現代でも、地場産業の発展と衰退と共に数十年単位で現れては消えていく街はあります。「e-Palette」で描かれた街が、人の動きに合わせて3日で消えて、また別の場所に現れたとしても、時間の短さを理由に街ではないとは言えません。

動く街や都市がインターネット上で可視化されることで、さらそこを目指して人が集まるという、巨大な人のサーキュレーションを起こすことも可能です。ここで描かれた街は、既存の概念の中で定義された街や都市の様に沢山の建築物が土地に固定され、人が暮らし、コミュニティを持っている状態という常識を融解し、拡張しています。

ここまで見てきた3つの変化「移動の多様化」、「店舗と物流の融合」、「街や都市の定義の拡張」を通して、トヨタ自動車が掲げたモビリティ・サービスの考え方が、単に自動運転車によりMaaS(移動のサービス化)を実現することではないという事が解りました。

そしてもう一つ大切なことがあります。それは、トヨタ自動車はこの構想を、自社の力だけで実現しようとはしていないことです。トヨタ自動車と言えば、かつては自前主義の会社でした。支配することで巨大になった企業が、この構想を参加型のオープンプラットフォームで実現しようとしていることに、新たな時代に対応する新たなビジョンに向けた決意を見ることができます。

上記オープンプラットフォームの内容は、次回コラム(7月3日)で触れていきたいと思います。

室井淳司
Archicept city 代表/クリエイティブ・ディレクター/一級建築士

新規事業・サービス開発、ブランド戦略、空間開発などにおいて、企業のトップや事業責任者とクリエイティブ・ディレクターとして並走する。表参道布団店共同創業経営者。広告・マーケティング界に「体験デザイン」を提唱。著書『体験デザインブランディング〜コトの時代の、モノの価値の作り方〜』を宣伝会議より上梓。2013年Archicept city設立。博報堂史上初めて広告制作職域外からクリエイティブ・ディレクターに当時現職最年少で就任。東京理科大学建築学科卒。これまでの主なクライアントは、トヨタ自動車、アウディ、日産自動車、キリンビール、トリドール、ソニーなど。主な受賞はレッドドット・デザイン賞ベスト・オブ・ザ・ベスト、アドフェストグランプリ、グッドデザイン賞、カンヌライオンズ他国内外多数。


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