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コラム

デザイン思考の事業創造 〜関係性をデザインする、これからのブランド戦略〜

ブランドは「人として振る舞う」時代へ

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<最終回>

これからのブランドは、人として振る舞うことが求められます。これまでのブランドは、自分らしさを自ら規定し、それを、メディアを通して顧客に訴え続けることで「ブランドイメージ」を顧客の記憶の中につくってきました。インターネットが普及し、SNSというツールが生まれ、ブランドは顧客と直接的なコミュニケーションツールを得ても、規定したブランドイメージの通りに発信していました。しかしこれからのブランドは、顧客とリアルタイムに会話し、物理的に交流し、それにより姿を変えていく「人」として振る舞うことが求められます。

9回目のコラムでご紹介した、アリババが展開するファーマーションシェンの事例にあった様に、ブランドが、顧客に提供する価値に基づき、事業の構造、チャネルを組み立てる時代です。人として振る舞いコミュニティに属する為に、顧客と会話し交流し、姿かたちを整えていくようなものです。従来のように事業構造やチャネル等の姿かたちを決めた後に、顧客にとって価値となりそうな強みを軸にブランドイメージを規定し、発信していくという順序ではありません。

顧客と交流する為にどの様な価値を提供するブランドとなるかというビジョンがあり、それを実現するために事業構造やチャネル戦略を整え、姿かたちをつくっていきます。つまりこれからのブランドは事業そのものであり、どの様なサービスで顧客と繋がっていくかという、関係を築く為の「人」でなければなりません。ブランドが「人」になっていくとすると、これからの時代に企業が必要な視点を一筋のコンテクストにおさめることができます。

ブランドは、人です。人なので、自分が何者なのか自分で自分を把握し、整理し、相手に伝えようとします。人なので、相手に自分を良く見せようと考えます。しかし、自分以上の自分はいずれ剥がされ、相手の失望を生みます。

人なので、相手とリアルタイムに会話ができなければなりません。人なので、相手の意思に反応し振舞わなければなりません。人なので、コミュニティにも属します。コミュニティでは互いを尊重し、コミュニティに属する人として誠実に振舞わなければなりません。人なので、周りと良い関係を保つ為に自分も変わり続けなければなりません。人なので、相手と会話し、相手の特徴を記憶し、相手のパーソナリティを前提とした適切な会話をしなければなりません。人なので、お互いの信頼関係が大切です。信頼できる人として、誠実に振る舞い続けることで、継続的で良好な関係が成立します。

人なので、金銭的な関係で支配し、支配される関係ではありません。常に対等で、接続しあう関係です。人なので、学習し、新しい能力を身につけ、相手が関係を継続することに魅力を感じてもらえる様に努力をします。人なので、夢を持ちます。その夢をコミュニティに公開し、共感してもらい、応援してもらうことができます。人なので、大きな夢を語り、周りから注目されることもあります。人なので、行動が失敗することもあります。それでも夢に向かって行動する姿勢は、周囲の人たちから応援されます。

人なので、応援し続けてくれる人たちの期待に応えようとします。その為に、自分本位に陥らず、周囲と協力し、夢や行動を実現しようとします。

ブランドは人です。自分を高く売る為に都合よくイメージをつくる時代は終わりました。今は、自分にとって都合の良いイメージは、すぐに剥がされます。

これからの時代、全ての企業はサービス業へと変わっていきます。モノを売る企業でも、モノがもたらすコトを継続的に利用してもらえるサービス業へと変わっていかなくてはなりません。モノは顧客のデータを吸い上げ、それらをAIが分析することにより顧客と継続的でパーソナルな関係が始まり、顧客の問いかけにリアルタイムに適切に答え、要望に応えられるように常にアップデートし、それら一連の行動が全て、誠実で信頼できる行動でなければなりません。

顧客との信頼関係、絆が強い企業ほど、その評判は周囲のコミュニティへと広がり、よりたくさんの顧客やパートナーへと繋がることができます。人の社会では当たり前の行動です。しかし企業はこれまで自分を大きく見せ、情報戦略で顧客のイメージや評価を上げることに莫大なマーケティング予算を投下してきました。これからは、人として振る舞い、人としての評判を上げることで、周辺との良い関係を築き、新たな接続を生む時代です。それは、従来の様に広告で実現することはできません。誠実な事業で実現することであり、行動でのみ実現できる時代になってきています。

 

室井淳司
Archicept city 代表/クリエイティブ・ディレクター/一級建築士

新規事業・サービス開発、ブランド戦略、空間開発などにおいて、企業のトップや事業責任者とクリエイティブ・ディレクターとして並走する。表参道布団店共同創業経営者。広告・マーケティング界に「体験デザイン」を提唱。著書『体験デザインブランディング〜コトの時代の、モノの価値の作り方〜』を宣伝会議より上梓。2013年Archicept city設立。博報堂史上初めて広告制作職域外からクリエイティブ・ディレクターに当時現職最年少で就任。東京理科大学建築学科卒。これまでの主なクライアントは、トヨタ自動車、アウディ、日産自動車、キリンビール、トリドール、ソニーなど。主な受賞はレッドドット・デザイン賞ベスト・オブ・ザ・ベスト、アドフェストグランプリ、グッドデザイン賞、カンヌライオンズ他国内外多数。

 

室井淳司さんのコラム「デザイン思考の事業創造 〜関係性をデザインする、これからのブランド戦略〜」は今回で終了となります。今までご愛読ありがとうございました。


<コラムが書籍になりました>
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