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コラム

行動広告学入門~ルノアールからこんにちは~

リアルなものが面白い理由(わけ)

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【前回コラム】「言いたくなる心理」はこちら

中高大と一緒の荒井というやつから
ボルヘスの『伝奇集』を薦められたのは大学の頃。
彼は中学からチャップリンや落語を嗜み、
それを薦められた当時の僕は
「んな古臭いもん面白いはずがないでしょう」と笑い飛ばし、
僕は僕でくるりの『ワンダーフォーゲル』を
同級生に薦めたところ「スピッツのパクリ」と言われて
「スピッツは俺も好きだけど、それとはまた違うだろ」と
ブチギレたり忙しい青春を送っていました。男子校です。
薦めたり薦められたりとは、なんと難しいことか。

大学生になってからようやく
チャップリンと落語に追いついた僕は、
ボルヘスをスルッと受け入れました。
結果、この本は僕の人生の3冊の1つです、今や。
特に、「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」
という短編が新鮮でした。
主人公(ボルヘス的な人)が、ブリタニカ辞書の中に偶然見つけた
「ウクバール」という国家について調べていくうちに、
伝聞や他の書物からの引用で「トレーン」という言語体系などが
浮かび上がってくるというお話。今でいうモキュメンタリーです。
と、書いてみて人生の3冊とか言っときながら
ほとんど話を覚えていない自らの軽薄さに衝撃を受けています。
(Wikipediaを見て思い出しました)

いいフィクションには、リアリティがある。
とはよく言われること。
セリフや表情、演技などなど。映像でもよく言われます。
がそれは大概、具の話であって、ガワの話ではない。
ボルヘスは、ガワからリアリティを作っています。
何を言うかも大事ですが、
何をやるとリアリティが出るか。
(※リアリティ=ほんとのことっぽさと解釈してます)

前回の記事で紹介した日清のどん兵衛「どんばれ屋」閉店告知では、
このリアリティが効きました。
本当に店長が書いたかのような書き置きがある。
という演出が、リアリティを感じさせて
人に言いたくなってしまう。
なので、手紙の内容も、自分が本当に店主だとしたら
という気持ちで書きましたし、文字は日清の方が書いています。

日清のどん兵衛「どんばれ屋」

最近フィクション的な広告が効きづらいように感じます。
ゼクシィ「結婚しなくても幸せになれるこの時代に…」や
ゴディバ「日本は、義理チョコをやめよう。」は、
何を言うか以上に、何をやるとリアリティがあるか
でメッセージが考えられており、大きな話題を生みました。
あれ、僕がやったことにならないかなと日々思っています。
かといって、全部ドキュメンタリーとか
メッセージが主体の広告ばかりになるのもいかがなものか。
フィクションにリアリティをもたらす方法もあります。

日清チキンラーメン「アクマのキムラー」という仕事では、
そこを強く意識させられました。
「アクマの」なんで、ひよこちゃんをアクマにしよう。
となって、魔女あるいは悪魔崇拝の集会である「サバト」で
どんぶりを掲げたひよこちゃんに
アクマが憑依して太陽が卵になって落ちてきて
地球大爆発という変化CMを社長やCD東畑幸多さんの元で企画しました。
…は?とお思いの方はこちらの映像をご覧ください。

これをどうすると、ほんとのことっぽくなるのか。

探偵ものは、犯人の動機こそがリアリティを生みます。
今回はなぜひよこちゃんが、サバトに参加したのか?
という動機への共感を生み出したい。
そこで、悪魔崇拝に走るようなことをやらされてないか
と調べていたら、キャラクターブックで
卵炒めさせられてるんですね。(かわいそう…)
トンカツ屋の看板の豚ばりに辛い、共食いの宣伝。
余談ですが、かまぼこ屋さんと仕事をしたときに
「未来のかまぼこって何思い浮かべます?」
って聞いたら海のプランクトンから合成食品を作った
アメリカのSF映画『ソイレントグリーン』って言ってました。

人がぶちぎれる瞬間は、基本いきなりです。
(僕が中学時代に奥山くんにぶん殴られたのもいきなりでした)
なので、ひよこちゃんのアカウントで
「やってられっか!」
「ひよこにチキンラーメンの宣伝させるなんてどうかしてる」
と、突然グレてるツイートを始めました。
そうすると、なんで?となるのが人の常。
サイトでは「いいこをやめます」っていう辞表を出しました。
昨今すべての面で善である必要を求められすぎて、
マスコット的な人やキャラ大変ですから、そんな気分で。
あとグレたら何やるってだいたいバイク盗むか落書きをするので、
日清の他の商品サイトに落書きしまくりました。
この時点で結構ニュースになり、
その上でアクマになるCMを公開しました。

そうすると、ひよこちゃんいきなりどうした?
って疑問符を生むよりも、
あー!なるほどね!とか、気持ちわかる!といった
感嘆符よりの感想が多く出てきました。
地上波で見ても検索したらすぐニュースが出てくるので、
伏線が回収されてスッキリできます。
(奥山くんに殴られた理由も、授業中ずっと彼の椅子の下板をコツコツつつき続けていたからでした!)

リアリティは表現物の内側だけでなく、
周辺でも作ることができます。
そして、人はフィクションとわかりきっているものよりも
リアルさを感じるものの方が広めやすい。
多分、リアルなものを事実として広めてウケなくてもダメージを受けませんが、
フィクションを「好きだから」と自分の好みを絡めて広めてウケないと
ダメージが大きいからです。
キャラクターや商品そのものになりきることで、
リアリティを作る方法を考えやすくなるのでオススメです。

こち亀の40周年キャンペーンでやった
亀やしきというイベントも
両さんが実際にいたら
というリアリティでやりましたが、
また量が多くなってきたので次回に。


過日のルノアール:
あら、あなた戦争体験してないの?
若いわね~
と言うおばあさま方の会話が聞こえてきました。

尾上永晃(電通 CDC プランナー)

東京理科大学大学院理工学部建築学科卒業。2009年電通入社。デジタルを核に、企業広告からまちづくりや日本酒のブランディングまで臨機応変なコミュニケーション設計をしている。最近の主な仕事は、大塚製薬「すすめ、カロリーナ」/日清食品「アクマのキムラー」「10分どん兵衛」/東急電鉄「池上線フリー乗車デー」/スクウェア・エニックス「ドラクエ落語」「トリバゴ」/集英社「こち亀40周年&終了キャンペーン」など。TCC新人賞やACCグランプリ、カンヌ、メディア芸術祭など受賞。毎日8時間睡眠を画策している。