【前回】愛を語るより口づけを交そう — “タンジブル”なマーケティングのススメこちら
ブランドの起源はどこまで遡れるでしょう。古代ローマの学者プリニウスの「博物誌」には、今日でいうワインの「ボルドー」やコーヒーの「モカ」などの「産地ブランド」が、すでに登場するそうです。
企業ブランド、つまり商号や屋号でお店の信頼性を保証するという形のブランドは、日本でいえば江戸時代に登場します。
産業革命と合わせて梱包と流通の技術が発達すると、商品を開封して実際に使用するまで品質の確認ができなくなったことで、ブランドが保証する対象は商品にまで拡大しました。
その後の、いわば近代ブランドの歴史は、メーカーと流通の覇権争いの中で展開していきます。1970年代にウォルマートなど大手流通企業が覇権を握ると、J・Wトンプソンのスティーブン・キングは有名な“What is a brand?”というエッセイで、今日も広く支持されているブランド論を打ち出します。
ブランドキャラクターを中心として、一貫性のあるコミュニケーションを続けることでブランドは構築される、というものです。
家電量販店はじめ専門量販店がメーカー系列店の牙城を崩しはじめた1990年代には、デイヴィッド・アーカーにより、ブランドは資産である、という新しい考え方が提唱されました。その考え方にのっとり、アーカーはブランドを単体ではなくポートフォリオで管理することの重要性を訴えます。同じく今日まで続くブランド論の屋台骨です。
このように、ブランディングは常に小売・流通とメーカーの力関係のなかで発展してきました。極論すれば、流通対策が完璧ならブランディングは不要なわけです。
塩が専売だった頃、塩のブランドはなく、スーパーには塩がただ「塩」として売られていました。生活必需品で陳列せざるを得ない塩を、専売で売っているというのは、小売・流通を100%コントロールしている状態です。
マーケティングとは、顧客・パートナー・社会全体にとって価値のある提供物を、創造し・伝え・届け・交換する、活動・組織・プロセスである。
というのが全米マーケティング協会によるマーケティングの定義です。高度に抽象化されていますが、ポイントを3つに分けるとわかりやすい。
1. 顧客相手が必ずしも前提ではない。寄付や宗教の信徒獲得のマーケティングもある
2. 専門の組織を必ずしも前提としない。マーケティング部や宣伝部がなくてもマーケティングは実行されるべき
3. 価値を創って、伝えて、交換する
このうちアドタイ読者には1と2はあまり関係ないので、3にだけ注目します。この3を、お客さんからのプル、お客さんに自ら探して買いに来てもらうことにより達成しようとするのがブランディング。流通・小売を通じてプッシュしていくのが流通対策。筆者はそう考えています。
もちろんこれは裏か表かではっきり分かれるものではなく、川がやがて海になるような連続したプロセスです。その中間地点、川だか海だかわからない領域もあります。たとえば小売の棚を押さえてそれにより認知を取る、というのは、ブランディングと流通対策の合わせ技です。
ブランディング論全盛の現在ですが、ブランドが語られるとき、この流通対策や流通支配力の視点は忘れられがちです。極論すればブランディングが不要なケースもあるわけですから、まずは競合の状況もあわせて、自分たちが流通に対して何ができるかを考えていく必要があります。
参考文献:『ブランド戦略論』(田中洋・2017年)
井上大輔
OFFICE pianonoki マーケター
ヤフー、ニュージーランド航空、ユニリーバでデジタルマーケティングの責任者を歴任し現職。advertimesコラムニスト。
ツイッター:@pianonoki | 著書に「デジタルマーケティングの実務ガイド」
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