福岡に初めて赴任したのは1982年、28歳のときだ。天神地下街の北半分と博多大丸はあったが、三越、ソラリア、イムズはなかった。もちろん福岡タワーもドームもなく地行・百道の浜は埋め立て中だった。
福岡のまちは未だ「地方都市」の面影を色濃く残していた。スーパーに行った妻が「うまかっちゃん」しか見つけられず「サッポロ一番」や「明星 チャルメラ」はどこにあるのか途方に暮れていた。(現在はパルコになっている)岩田屋や(いまはなき)玉屋も、天井が低い「地方都市の百貨店」の風情で、私が勤務していた支店のオシャレ女子は3カ月に1度東京に「買い出し」に行くのを楽しみにしていた。
今では東京からの転勤者が(よほど高尚あるいは特殊な趣味がある人は別として)「ものがない」と困ることはないだろう。また、転勤者向けの情報はネットに溢れている。住居・食事・交通・観光・教育等々実用的な個々の情報はそちらにお任せする。この稿では、それらの断片的な情報に振り回されないよう、「基本」をいくつか解説したい。
衣食住のうち、「衣」については知見を持ち合わせないので、「食」から始めよう。7月にミシュランのご当地2019年版が出た。世界中でこのガイド本は賛否両論で、地元民からは「調査不足」「地元老舗の良さがわかってない」等々。福岡在住が長くなった私もミシュラン懐疑派だ。選定に色々疑問があるし、ご当地版は毎年出るわけではないので、店とガイドの緊張関係が緩い。前回星をとった店の質が明らかに悪くなった例はたくさん見聞きする。
昭和の終わりに2年間だけ住んだベルギーのブリュッセルでも、地元の友人たちはミシュランに載っていない美味しい店でミシュラン批判を展開していた。でも実は、我が家も妻と2人になるとあの赤いガイド本片手に星付きレストランを探検した。当時は30代、滞在は2年のみのフランス語もおぼつかない外国人。よそ者の我が家が、元来旅行ガイドであるミシュランを利用しない手はない。みなさんも地元民の批判にめげず、大いに利用すればいい。


