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コラム

出張・転勤前におさらい!ご当地マナー

よそ者によるよそ者のための福岡転勤者講座 その①(初級編)~~基本を理解しよう~~

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出張や転勤などで、馴染みのない土地でビジネスをすると、「え、そんなしきたりがあったの?」と「ご当地ルール」に驚かされることがあります。地元の人にとっては「当たり前」のマナーでも、よそ者はまったく知らなかったということも少なくありません。本コラムでは、住み慣れないまちに足を踏み入れるときの心得やマナーについて紹介します。第1回は福岡。西日本新聞社取締役石井 歓さんにご自身のエピソードを交えながら、福岡への転勤者のためのアドバイスをしてもらいました。

1980年当時は埋め立て中だったももち浜から市内を望む(写真提供 福岡市)

福岡に初めて赴任したのは1982年、28歳のときだ。天神地下街の北半分と博多大丸はあったが、三越、ソラリア、イムズはなかった。もちろん福岡タワーもドームもなく地行・百道の浜は埋め立て中だった。

天神地区には岩田屋、三越、大丸、パルコなど多くの百貨店・ファッションビルが立ち並び、夜は屋台が出て風景がガラリと変わる(写真提供 福岡市)

福岡のまちは未だ「地方都市」の面影を色濃く残していた。スーパーに行った妻が「うまかっちゃん」しか見つけられず「サッポロ一番」や「明星 チャルメラ」はどこにあるのか途方に暮れていた。(現在はパルコになっている)岩田屋や(いまはなき)玉屋も、天井が低い「地方都市の百貨店」の風情で、私が勤務していた支店のオシャレ女子は3カ月に1度東京に「買い出し」に行くのを楽しみにしていた。

今では東京からの転勤者が(よほど高尚あるいは特殊な趣味がある人は別として)「ものがない」と困ることはないだろう。また、転勤者向けの情報はネットに溢れている。住居・食事・交通・観光・教育等々実用的な個々の情報はそちらにお任せする。この稿では、それらの断片的な情報に振り回されないよう、「基本」をいくつか解説したい。

衣食住のうち、「衣」については知見を持ち合わせないので、「食」から始めよう。7月にミシュランのご当地2019年版が出た。世界中でこのガイド本は賛否両論で、地元民からは「調査不足」「地元老舗の良さがわかってない」等々。福岡在住が長くなった私もミシュラン懐疑派だ。選定に色々疑問があるし、ご当地版は毎年出るわけではないので、店とガイドの緊張関係が緩い。前回星をとった店の質が明らかに悪くなった例はたくさん見聞きする。

福岡といえば「食」という人も多いが、もつ鍋やラーメンだけでなく、餃子や焼き鳥、寿司、など福岡の地元民がこだわりの料理は多くある(写真提供 福岡市)

昭和の終わりに2年間だけ住んだベルギーのブリュッセルでも、地元の友人たちはミシュランに載っていない美味しい店でミシュラン批判を展開していた。でも実は、我が家も妻と2人になるとあの赤いガイド本片手に星付きレストランを探検した。当時は30代、滞在は2年のみのフランス語もおぼつかない外国人。よそ者の我が家が、元来旅行ガイドであるミシュランを利用しない手はない。みなさんも地元民の批判にめげず、大いに利用すればいい。

外食する金なんかない?心配ご無用。買ってくればいい。長浜や柳橋に行けば完璧だが、そこまでしなくても近くのスーパーで充分。店先に並ぶ食材の品質の良さに妻曰く「手間暇かけて料理する気がしない。そのまま食べるのが一番。」

次に「住」。地元デベロッパーに入社して、マンション開発部門との最初の会議で驚いたことがある。

当地のマンション販売で重要な要素の一つが「校区」なのだ。「修猷館校区」とか「西高宮小校区」とかいう通学区域だ。首都圏と比べて公立校の人気が高い福岡では、住処を決めるのに「校区」が一つの重要な要素だ。例えば西新は人気の高いまちだが、その一つの要素がこの校区だ。とすると独身者・夫婦もの・単身者などは教育の要因で住宅価格が高くなっている地域を避けてみるというのも一つの手だ。西新は本当にいい所だが、家賃はとても高い。

また、地元民は土地の格に関し(歴史が反映された)一つの観念を持っている。土地のブランド感覚とでもいおうか。もちろん東京にもあるが福岡のほうが概して強いと感じる。不動産仲介業者も多くは地元の人なのでこれらの固定観念を無意識に持っている。住宅価格や家賃にもそれは反映される。

2011年に福岡に移住してきた時、千早駅からほど近い賃貸マンションに2年ほど住んだ。地元民の一部からは「石井さんが千早??」という反応もあった。でも都心からの距離・便利さは西新とそう変わらない。とても住みやすい所で転勤者にも人気と聞く。

ほかにも例えばアイランドシティも近年開発が進み、環境が整ってきている。もっと郊外のコスパの高い所もある。住居に関しては、地元のブランド感覚にこだわらず、よそ者ならではの柔軟な発想で決めるのもアリかも知れない。どっちにしても首都圏に比べれば大した通勤時間にはならない。

最後に「転勤者の心得」について若干の忠告を。自社のもので恐縮だが、これを見て頂こう。

「場がしらける」福岡ではやってはいけない“タブー”転勤者のミスを誘う宴席のワナ
(2017年4月19日 西日本新聞)

記事も動画も参考になるが、ちょっと脅しが効きすぎている。手一本の席に初めての人がいる場合、迎える人たちは通常こんなに意地悪ではない。まずは手一本の「練習」をする。やり直しはだめでも練習はOKだ。(よそ者の私はそう勝手に解釈している。)よそ者も要領を得てからようやく「では本番」となる。

また、「博多祝い唄」の音頭とりを人前でやるという機会は、よそ者である限り滅多にあるものではない。私も銀行員時代、若手行員・課長・支店長、福岡在任通算7年間でただの一度もなかった。2011年の移住以降はさすがに皆無ではないが、それでも数えるほどだ。大抵はその他大勢で唄うだけ。初めは口パクでOK。そのうち歌詞も流儀も覚える。

あまり怖がらずどんどん人の輪の中に入っていって欲しい。健闘を祈る。

石井 歓(イシイカン)

事業構想大学院大学福岡校特任教授。西日本新聞社取締役(ビジネス開発局管掌)。日本ピストンリング社外取締役。3足のわらじで老骨に鞭打つ。日本政策投資銀行に33年間勤務の後、倒産したJALの再建に参画。2011年福岡に移住後は福岡地所、続いて西日本新聞社の経営に携わる。