CESにおけるアップルの問いかけ「最高プライバシー責任者」は誰か?
2020年最初の大きなイベントと言えば、米・ラスベガスで開催されるCESではないでしょうか。今回のCESの目玉はアップルの幹部の登壇。正式参加は1992年以来ということで話題になっているようです。
今回はアップルお得意の製品発表でも、来場者向けの体験型ブースの出展でもなく、カンファレンスでの登壇のみ。ですが、この登壇テーマが非常に2020年らしいものになっています。そのテーマとは「Chief Privacy Officer Roundtable: What Do Consumers Want? (最高プライバシー責任者ラウンドテーブル:消費者の求めるものは何か?)」です。
最高プライバシー責任者を謳うアップルは、2019年の6月にiOSのアップデートの際にティム・クックCEO自らが「個人情報で商売はしない」と宣言しています。しかも、グーグルやフェイスブックのアカウントのサインインに対抗して「サインイン・ウィズ・アップル」をすでに発表しています。これは独自のサインイン形式ながら、個人情報を保護するためというグーグルやフェイスブックとは一線を画する立場を表明しています。
米国では折しも2020年の1月からカリフォルニア州でCCPA(California Consumer Privacy Act:カリフォルニア州消費者プライバシー法)が施行されました。これによって、多くのテクノロジー企業において個人情報の扱いの標準が変わっていくでしょう。CCPAはカリフォルニア州の規制ではありますが、多くのグローバルテック企業がカリフォルニア州にあるため、ここでの水準がおそらく世界的に標準として広がっていくことが想像できるからです。
プライバシーの問題は世界半数の個人データに影響する
同時に、このようなテクノロジーに関わる個人情報の課題を解決していくうえでは、企業側の意識だけでなく、日常的にスマートフォンを使っている一般の人たちの間でどれだけ真剣に問題視されているかも大切になります。だからこそ、アップルのようなグローバルに影響力があるテック企業が進んで「個人情報保護」をテーマに自らに厳しいポリシーを課すことに意義があるのです。
なぜ、いまオンライン上で取得される個人情報の扱いが、こんなにも問題になっているのかと言えば、スマートフォンの世界における保有台数はすでに2016年時点で40億台と言われ、世界の半数以上の人口がインターネットやデジタルを通して個人のデータを提供することになっているからです。
そして、今や必須のデジタルツールを使う際に、グーグルやフェイスブックやアップルのようなグローバルプラットフォームを使うことを避けるのは、ほぼ避けがたい状況と言えます。そのため、これらの企業が個人のプライバシー保護に対する態度は、その他のテクノロジー企業にも大きく影響するという意味で重要なのです。
プライバシー問題は国家の価値観の違いを反映する
同時に個人情報をどう扱うかには、それぞれの国の政治的な価値観も反映されます。北米のような自由主義経済国家は、個人の権利や自由を保護することが国の価値観でもあります。ですが中国のような共産国家は個人の権利よりも国家の利益を重視することもあり得るとすると、同じようなテクノロジー企業でもアリババ、バイドゥ、テンセントといういわゆるBAT企業は、アップルのような道を進むとは限りません。
もちろん、彼らも北米でビジネスをする際にはプライバシー保護を守る必要はありますが、今後個人データに関する態度については変わってくる可能性もあります。実際にカリフォルニア州のサンフランシスコでは顔認証技術を使用することが禁止されましたが、中国のテクノロジー企業は顔認証については民間企業だけでなく公共の技術として進化しつつあるからです。
プライバシー保護は顧客を第一義にするかどうか
日本は北米やヨーロッパのように個人情報保護に関しての世論が強いわけでもなく、かといって中国のような国家中心の価値観が強いわけではありません。日本は社会と個人が対立するような個人主義的な価値観よりも、共同体中心とした価値観のほうが強いため、今後テクノロジー企業がビジネスをしていくうえではより明確な立場の選択を迫られるかもしれません。なぜなら個人の権利を保護していくというプライバシーの視点はビジネスにおける「意思決定」において、顧客を第一義にすることだからです。
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