人口減の日本の将来予測をもとに注目されるファンマーケティング
最近のマーケティングの議論のなかで盛んになっている話題のひとつに、いま日本が迎えている人口減少などの状況に合わせて、いかに既存顧客を維持し、育成していくかがあります。このコラムでもちょうど1年前に「熱狂的ファン層はブランドにどう役立つか?」)という記事の中で語りました。こうした考えは「ファンマーケティング」とか「ブランドに対する熱量」という形で語られます。
また、このコラムでは反対意見としてアレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ氏のロイヤルティ施策に対する批判も併せて紹介しました。ですが、今の日本ではバイロン・シャープ氏がいうような成長のために新規顧客を獲得するアプローチよりも、そもそも市場が成長する要素が少ないので、減りゆく人口のなかでファン層をより熱狂的にするという考えのほうが受け入れやすいのかもしれません。
あわせて日本に留まらず、世界中で消費者とブランドの関係性は、従来の経済的な意味合いだけでなく、より倫理的な社会的な課題も含まれるようになっています。経済的合理性が高ければ、選ばれるブランドになれるわけではなく、いま消費者は社会において環境的にも持続可能なビジネスであるかどうか、というサステイナビリティの視点を重視して、ブランドを選択するようになっているのです。
「プライバシー保護の先にある、真に顧客が求めるものとは何か? — 2020年のマーケティング展望」の回で書いたように、今後はマーケティング目標にもとづいて「好感度を上げる」のではなく、そうした視座が社会における企業活動の前提となっていくことでしょう。
マーケティングが、こうした世の中全体の流れの影響を受けることは当然のように思えます。そのうえで、ここでは今まで語られてきた「ファンマーケティング」の文脈のなかで、当然のようにいわれてきた、ブランドに対する愛情や熱狂というものを見直すべきなのではないかということについて考えてみたいと思います。
ブランド愛はロイヤルティの梯子を上げることができるか
まずブランドに対する愛情にどのような価値があるのかについて、いくつかの点から分析してみましょう。もっとも一般的なのは既存顧客すなわち、認知があり過去に購買経験がある顧客の数が増えれば、総体としてのロイヤルティも高まり、収益性が高まるという指摘です。ここでの判断の根拠は、いわゆるパレートの法則であり、2割の顧客が8割の売り上げを占めるという、比較的少数の顧客がブランドの大きな部分を担っているという考えです。
これに対する批判者の急先鋒は言うまでもなくアレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ氏です。彼は繰り返し「既存顧客を対象にしたロイヤルティプログラムは投資に見合ったリターンが少なく、成長に寄与しない」とあからさまに否定しています。
たとえば顧客の購入数のレベル別を図式化した「ロイヤルティの梯子」もしくは「ロイヤルティのピラミッド」について、「ロイヤルティは特定の戦略によって変えることができるという考えは間違っている」と断言します。
〇 ロイヤルティの梯子が示す、特定のロイヤルティの顧客層を狙うべき、という考えは誤りである。
〇 ロイヤルティの梯子が示すロイヤルティレベルの割合によって、強いブランド、弱いブランドと考えるのは誤りである。これは単にブランドの市場サイズの反映にすぎない。
〇 ロイヤルティの梯子を知るために市場調査やレポートをするのはお金の無駄である。多くの微妙な変化や違いはサンプリング上(もしくは、ほかの要因による)の誤差に過ぎない。
〇 ロイヤルティの梯子では100%ロイヤルである顧客がブランドにとって最も価値が高い顧客と言われるが、より数多く購入するのはそのカテゴリーのヘヴィな購入者であり、彼らは通常数多くのブランドを複数またがって購入している。
仮に、まったく新規顧客が増えず、既存顧客しかいない状況を想定すると、顧客の離反率をゼロにすることは、ほぼ不可能ですから、論理的には残った既存顧客全体の購入数が増えない限り、売上は徐々に減っていきます。仮に8:2のパレートの法則が真実だとしても(バイロン・シャープ氏はこれも現実的には2割の顧客が売上に占める割合は6割程度であると批判していますが)、2割の全体購買量がその減少をカバーしながら増えていくようなことはあり得ないわけです。
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