熱狂的ファン層との関係づくりが今のマーケティングの関心
従来のマーケティング手法の行き詰まりに対する反省かどうかはわかりませんが、最近のマーケティングにおける取り組みの主眼は、目新しいクリエイティブやメディアを見つけることから顧客層とどう関係をつくり上げるかに移り変わりつつあるようです。
実際、昨年話題になったブランドやヒット作品を振り返ってみると、その背後には、熱狂的なファンの存在という共通点が見えてきます。「よなよなエール」で有名なヤッホーブルーイング、広告をしないことで有名なアウトドアブランドのスノーピークのような企業が話題となったのは、そのブランドを支えるファン層とどうつながりをつくるかを常に意識してマーケティング活動をしている点が注目されたからです。
しかしファン層がブランドの成長に寄与するモデルは、先に上げた長期的なブランド構築を要するメーカーのようなカテゴリーよりも、短期間にどのくらい稼ぐことができるかが重要となる、エンタテインメントビジネスを例に分析すると、その過程がわかりやすいと言えます。
なぜなら、ファン層の支えがどうヒットにつながったかが比較的、追跡しやすいからです。2018年にヒットした上田慎一郎監督のインディーズ映画『カメラを止めるな!』は、その代表的な例でしょう。
『カメラを止めるな!』のヒットを、熱狂的ファン層はどのように支えたのか
境治氏が「アドタイ」のコラムで、このヒットの過程を分析していますが、境氏は数年前の『シン・ゴジラ』や『君の名は。』の映画のヒットと同様の現象だと最初に考え、特にソーシャルメディア、Twitterでの動きに注目していました。『カメラを止めるな!』でも、最初はそのことに特に注目してヒットに結びついた芸能人のツイートを評価していました。
境治氏のコラム
『カメラを止めるな!』はなぜ爆発的にヒットしたか、考えられることを考えてみる
ですが、そのような目立ったソーシャルメディアの拡散は、むしろすでにムーブメントが起きている時にその拡散を加速させたものであり、境氏は珍しく『このカメラを止めるな!』については続編のコラムを書き、初期の動きに注目して分析しています。
続編
『カメラを止めるな!』は、なぜ爆発的にヒットしたか?関係者に聞いてわかったこと
境氏のコラムを読めば、ソーシャルメディアがヒットに貢献したことは間違いないのですが、いくつかの異なるターゲット層が「熱狂的ファン層」として動いたことに原因であることがわかります。それはインディーズ映画を常習的に見ているコア映画ファン層、つまり新聞がきっかけとなった年配の映画ファン層がいて、実際に無名の監督やスタッフや役者などの関係者だったり、ファンとなったパーソナリティのラジオを聴いている人だったり、Twitterでつぶやいてくれた芸能人だったりしているわけです。
これらの熱狂的ファン層とは、皆が同じような役割を果たしているのではなく、マルコム・グラッドウェルの著書『ティッピング・ポイント』にあるように、それぞれが①通人(メイヴン)、②コネクター(媒介者)③セールスマンの3つの役割を担ったことがヒットにつながったと言えると思います。
通人とは、そのカテゴリーの知識を持っている、いわゆるヘビーユーザーであり目利きであり、彼らがまずこの映画に真っ先に気が付いて、この映画の良さを伝えます。彼らは決して宣伝が上手でも、また多くの人々に伝える手段を持っているわけでもありませんが、単館の映画館を満席にするくらいの力はあります。
そしてその現象を目にして、それを広める手段をもつ新聞やラジオやソーシャルメディアがコネクター(媒介者)として登場します。のちに、この映画をTOHOシネマズで拡大公開することにしたアスミック・エースの担当者も同様のコネクターの一人でしょう。通人も媒介者も伝え方そのものが優れているわけでもそれだけ熱心なわけでもありません。その魅力を伝えるにはセールスマンが必要なのです。
そして、それを通して映画に感銘した芸能人や、映画のスタッフがセールスマンとして、せっせとソーシャルメディアでの拡散や口コミでの話題の広がりに貢献することになったのです。
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