【前回コラム】「社長の腕組みは絶対NG! 企業ブランドにふさわしい経営者のポートレートとは」はこちら
人前でスピーチやプレゼンをするとき、自分がどのようにマイクを持っているかご存知だろうか。実は、マイクの持ち方ひとつで人に与える印象は変わる。
マイクを持つ手はギュッと硬くしすぎず、しかし決してユラユラさせず。
喋るときは、マイクを持つ腕の肘を60〜80度くらい内側に曲げ、その腕から手首にかけて体に軽く沿わせて安定させる。
1月8日に行われた、日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン氏の記者会見の一コマだ。質疑応答の場面で、ゴーン氏はマイクを持った右手首の内側を、胸の少し下あたりに軽く沿わせるようにしていた。
さらに細かく説明すると、マイクのある位置は、体の中心よりも少し右側。マイクの頭はネクタイのノットの少し下にきていた。
なぜこの位置か。
自分の口元も、襟元も、体の中心にあるネクタイも、マイクやそれを持つ手で邪魔することがなく、「隠すことは何もない」かの如く、自らを堂々と強く見せることができるからだ。その上、体の中心までマイクをもってこないことで、体を小さくシュリンクさせずに済むので、プレゼンスに余裕さえ感じさせることができる。
これは誰もが取り入れられる、真似すべきテクニックのひとつだ。
上着の前ボタンは「トランプ式」で手を自由に
筆者は年明け早々、トップによる特徴的なスピーチをいくつか目にした。そのうちから2つ日本と関係の深いものを挙げてみよう。ひとつは、すでに冒頭でも取り上げたゴーン氏の記者会見。もうひとつは、全米最大の展示会CES(1月7日~)でのトヨタ自動車CEO、豊田章男氏のプレスカンファレンス・スピーチだ。
まず今回は、ゴーン氏の会見について、グローバルブランディングの視点から分析・解析していく(豊田氏は次回)。なお、話の内容や思想の正誤云々には一切触れない。それを語るのは筆者の役目ではないと考えるからだ。
日本時間の1月8日午後10時にスタートしたゴーン氏の会見。
会見場に登場したゴーン氏は、薄めの赤・織り柄・遠目無地で光沢のあるジャガードのネクタイを締め、日本でいうところのセミワイド・スプレットのドレスシャツに濃紺のスーツを合わせていた。さすが、サイズもシルエットもぴったり。特に肩から胸のラインがビシッと合っていて滑らかだ。
まず前半は、1時間以上にわたって英語によるスピーチが行われた。スピーチの間、ゴーン氏は常に姿勢良く胸を張っていたため、実寸はともかく体が大きく見えた。声は大きく抑揚があり、話し方も断定的だ。
こうしたゴーン氏のパワーを伝えるのに、薄い赤系のネクタイは一役買っていたと言っていって良いだろう。真紅だったとしたらあの場ではあまりに強烈すぎる。しかし、薄い赤であれば、それを目にする人々にも最初から拒否感や違和感を抱かれることもない。
それに、あの記者会見は謝罪会見ではなかった。自信を持って「自分は正しい」と宣言し、同情を訴えるのではなく「勝ちにいく」にあたり、当然赤は必須要素であり重要なツールなのだ。
上着の前ボタンは、米トランプ大統領同様に開けたまま。両手の可動域が広がるため、自由に力強く両手を使ってジェスチャーをしていた。もし前ボタンが閉じられていたらここまでの動きは不可能だし、ゴーン氏の熱量は伝わりにくかっただろう。
いわゆるスーツの装いルールからは外れているが、この記者会見の目的は“きちんとした人”に見えることではない。日本からの逃亡劇という、暴挙とも言える行動をとった型破りな自分の英雄感と、その正統性をドラマティックに熱をもって伝えることだ。そのための演出として、上着の前ボタンは外し、自由に大きく動ける方法をとったのだろう。正に戦略だ。
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