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コラム

NYから解説!日本企業のグローバルブランディング

ゴーン氏が会見で駆使した、スピーチを成功させる強者のテクニック

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ジェスチャーに負けない顔の動き

ゴーン氏は、演台がありながら、これだけのジェスチャー・ポスチャーが可能ということを見せつけてくれた。そして何より、常に顔が動いていた。実は、身振り手振りを豊かにするには、それと同量以上の顔の動きが先に必要なのだ。少し考えてみてほしい、無表情なのにジェスチャーだけが大きく多い人がいたら、きっとロボットの様、否、不気味だろう。

そして同時に、日本人が日本語でスピーチする場合には、欧米人の様な大きく多くのジェスチャーをつけるのは所詮無理な話だ、と誰もが気づくはずだ。なぜなら日本語には英語のような音の抑揚がない。音の抑揚がないと、当然表情はついてこない。

発音もしかりで、体(特に腹部)や顔全体を使って発音をしなくてはならない英語とは違い、日本語は唇だけで発音できてしまう言語だ。体も顔も使う必要がない=筋肉を使わない=当然顔の筋肉は動かない=表情が自然には出づらい、ということになる。

音を完全に消去した状態でゴーン氏の会見を見ていたら、本当に表情が豊かだ。もちろん顔のパーツの大きさや凹凸による立体感もある。しかし、それだけの話ではない。目力もさることながら、あの特徴的な眉。はっきりしており、とにかくよく動く。口から出る言葉をさらに強調する働きがある。

また、欧米人にありがちだが、顎をあげて発言するその姿は、不遜だけれど自信がみなぎっているように見えるのだ。「常に顔は斜め上を向いている」といった感じ。明らかに「強さ」を示している。

指先まで自信とパワーがみなぎらせ

ゴーン氏は、時々原稿に目を落としながらも、左右の手を自由自在に動かして表情を付けていた。日本人の様に振り付けされたような、または体操の様なガチッとした動きではなく、大きく自然なそのジェスチャーは違和感がなかった。

特に注目すべきは、ジェスチャーをつける手元。指先まで自信とパワーがみなぎっているかのようで、びしっと神経が行き届いていた。手首はぶれず、指は真っ直ぐにのび、そして揃っている。当然ぎこちなさもフラつきもない。

両手で左右揃ったジェスチャーをするときの動きは正に“強調”であり、伝達のインパクトが何倍にもなる効果が見えた。その上、非常にリズミカル。グイッと引き込まれる要素が満載だ。

また、「指し示したい」「強調したい」事柄を話すときの手の動きは、必ず肩よりも上に手(指)を上げ、体の幅よりも外側に手(腕)が広げられている。体本体からポーズを取る手がはみ出た瞬間、存在が一回りも二回りも大きくみえ、パワフルなプレゼンスとして聴衆の目に映る。これは「強調したい」「多くの人に知らせたい」という伝達の熱を顕著に表していた。

日本人としては複雑ながらも、グローバルブランディングの視点からは、何とも気づきの多い見応えのある会見だった。

「いつか必要になった時に」ではダメ

社長の言葉を通して企業ブランドやメッセージを発信する、プレスカンファレンスやスピーチ。これほど重要な機会は他にないにもかかわらず、日本企業が世界の舞台に立つにあたり、非常に不得手としていることのひとつだろう。

基本的に日本で育った日本人の場合、社会人になるまでの間に、人前でのスピーチやプレゼンの機会が、欧米諸国の人々と比べて圧倒的に少ない。経験値が根本的に少ない=慣れていないのだ。

その上、就職した後も自分の価値を試される様なスピーチをする機会はあまりないだろう。そして、「企業プランドを背負ってメディアやパブリックの前に姿を晒し、喋らなくてはならない立場」の人となると、ほんの一握り。わかっている様でいて、実際どれだけ重要かを実感できないのだろうと想像する。

だから、「いつか必要になった時に」とか「直前に集中して練習すれば」などと考え後回しにして、普段からスピーチの練習に時間を割かない傾向にあることも、悲しいけれど事実である。これは、スピーチをする社長やキーパーソン自身の努力不足ということだけではなく、彼らの周りを取り巻く人々による、社長やキーパーソンが話す内容を早期にフィックスさせ、そのための練習に充てる時間を捻出するという、準備的に関する意識も含めだ。

プレスカンファレンスやスピーチで登壇する方、そしてその準備をする広報などの方は、今回紹介したゴーン氏の会見に隠れているヒントを参考に、是非とも普段からトレーニングを重ねてほしい。

一足飛びに理想的なスピーチやプレゼンスが構築できたら誰も苦労しない。「ローマは一日にして成らず」なのだ。だから、気づいたら1日も早く始め、継続し、自分のものにしたら、微調整とブラッシュアップを続ける。これがブランディングとマネジメントの鉄則だ。そして「備えよ、常に」を忘れるべからず。