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コラム

『ガラスの仮面』に学ぶマーケティング

『ガラスの仮面』に学ぶマーケターのヒント⑥「事業会社と代理店の関係」篇

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【前回コラム】「『ガラスの仮面』に学ぶマーケターのヒント⑤「完成イメージを固めてから取り掛かる」篇」はこちら

事業側のマーケターが代理店に求めるものは主従関係ではない

『ガラスの仮面』からマーケターの仕事のヒントを紹介する本連載。最終回となる今回は、『ガラスの仮面』の中でも、特に私が好きな台詞を取り上げようと思っています。それは後ほど紹介するとして、私がそこからどんな仕事のヒントを得たのか。それは、ずばり「事業会社と代理店の関係性」です。

私は代理店側・制作会社から、事業側へ転職しました。事業側に転職して感じたのは、事業側と代理店側では互いに対して求める関係性に乖離があるということでした。制作会社にいた当時の私は、クライアントに求められたことをやり遂げて結果を残すことが重要だと考えていました。ですから、語弊があるかもしれませんが、事業側と代理店側には主従関係があると感じていました。しかし事業側に移ってみて思うのは、決して代理店側に求めるのは主従関係ではないということです。昨今、多くの企業で広告やマーケティング予算の効率化が求められ、これまでよりも少ない予算でより効果の高い施策の実現が求められています。そして、この“矛盾した”結果が求められる状況を乗り越えるためには、事業側と代理店側はこの時代にふさわしい関係性を築かなければいけない。では今の時代に必要な関係性とは、どのようなものなのでしょうか。私は、その答えが『ガラスの仮面』の中にあると思っています。

それでは、私が好きな『ガラスの仮面』の台詞を紹介しながら、今回マーケティングの仕事において、非常に壮大なこのテーマについて語っていきたいと思います。

同じ目的に対し、個性・能力を認め競い合う、ライバル関係

ずばり今の時代の事業側と代理店側にふさわしい関係性こそ、『ガラスの仮面』の主役ともいえる北島マヤとライバルである姫川亜弓、この2人の関係だと思います。(そこでマヤと亜弓を出して語るか、とツッコミました? でも書いている当人は至ってまじめなので、最後まで読んでください!)

貧しい家庭環境で育った北島マヤと大女優と有名映画監督の間に生まれた姫川亜弓は、これまで過ごしてきた環境は違いますが、どちらも驚くべき才能と個性にあふれています。彼女たちは舞台が好きで、観客により多くの感動を届けようとしています。そのためにもお互いの個性や才能の違いを受け入れ、それをリスペクトし合ったうえで、自分だけのものをさらに開花させようと競い合っているのです。彼女たち2人の関係性を表わす台詞で、私が特に好きな2つをご紹介します。

まずはひとつめ。北島マヤはある事件に巻き込まれ、芸能界から抹消させられそうになります。さらに自分の母親も失い意気消沈し、舞台への意欲も失いかけます。そんな時ある舞台で突如欠員が出てしまい、マヤに1日だけ出演のオファーが来ます。これに出演して引退しようと思ってその舞台に臨むのですが、なんと主役はあの姫川亜弓。ここで起こるのが『ガラスの仮面』で特に有名な「泥団子事件」なのですが、それによってマヤは再び舞台への意欲、情熱を取り戻すのです。(ここ“すっごい”シーンなのですよ。これだけでもじっくり解説したい、なんなら自分で演じて見せたいくらいなのです。)そしてその終演後、亜弓はわざわざマヤにこう声をかけるのです。

「まってるわよ」

出典:美内すずえ『ガラスの仮面』第17巻(白泉社)

亜弓はマヤが陰謀に巻き込まれて失意のどん底にいたことを知っていました。そしてマヤの舞台への情熱はそんなものでは消えることはないと分かっていたのです。そのうえでまた一緒に戦おう、その日まで私は待っている。独自の解釈が入ってしまいますが、私はあなた(マヤ)をライバルだと思っているから、また一緒に競い合える時まで私は待っていると、亜弓なりのエールを送ったわけです。そしてこの台詞の後から、マヤはもちろん亜弓まで、芸を磨くことにより一層精を出し始めるのです。ああ、このシーンの説明を書いているだけで、感極まって涙ぐんでしまいます。

そして時は流れ、それから2年後。様々な経験を積んできたマヤは姫川亜弓が主演する舞台『ふたりの王女』のオーディションに挑むことになります。(この短い6回の連載の中で、ほぼ半分このシーンをネタに書いているのですが、この第6回目でも登場することになりました。)そのオーディションに参加させてほしいと直談判するマヤに、プロデューサーは問いかけます。亜弓はすごい才能の持ち主で、今回はそのライバルを探すオーディションである、その自信が君(マヤ)にはあるのかと。それに対してのマヤの回答がこちら。

「実力では…負けないつもりです……!」

出典:美内すずえ『ガラスの仮面』第22巻(白泉社)

ずっと亜弓には敵わないと思い込んでいたマヤが、初めて“実力では負けない”と認識し、ついに口に出したこのシーン。亜弓と比べて自分を卑下したこともあったけれど、いろいろな経験を積み重ねた末、亜弓と肩を並べられる女優は私しかいないとマヤ自身が自覚したのです。この台詞のすぐ後のコマで「そうよ!負けないわ!」とやる気を漂わせて心の中で叫ぶことからも、マヤが自覚することで数レベル強くなったことが分かります。

次ページ 「主従関係や優劣関係ではない、対等な関係で同じものに取り組む」へ続く