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コラム

NYから解説!日本企業のグローバルブランディング

新型コロナでNYCは外出制限  非常時に「芸術の力」を活かすアーティストたち

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【前回コラム】「新型コロナで外出自粛が進むNY メトロポリタン・オペラの粋な計らい」はこちら

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、米ニューヨーク市では、公立校の休校やレストラン・バーでの店内飲食の制限などが行われている。そして現地時間18日現在、クオモ州知事が行政命令によって、食料品や医療など重要な事業を除く企業の従業員に対し、在宅勤務を義務付けると発表。同命令は、20日から発効されることになる。ショッピングモールや遊園地、ボーリング場など屋内施設、映画館やカジノ、ジムも一時閉鎖だ。

このような状況になるよりも前から、大小問わずコンサート、ライブ、パフォーマンスなどを中止・延期せざるを得なくなるケースは増えている。筆者の身近にも、一方的にそれを言い渡された芸術家の方々がたくさんいらっしゃる。

NYCではコンサート、ライブ、パフォーマンスなどを中止・延期が続く。    ©123RF

歌いたくて歌ったからこそ評価された

以下は、ネットで話題になったイタリアのテノール歌手、マウリツィオ・マルキーニ(Maurizio Marchini)氏の動画。自宅の窓を大きく開けて外に向かってオペラ「(Turandot)」のアリア「誰も寝てはならぬ(Nessun Dorma)」を歌う場面だ。

 
彼はとにかく歌いたくて歌ったのだろう。

もちろん人々に見て・聞いてもらいたいと思うからこそ、窓の外に向けて歌い、映像にしてSNSに投稿しているのだろう。「見る人が1人でも多く楽しんでくれたら…」という願いとともに。ただ、そこには余計なうんちくも恩着せがましさも感じられず、受け手も遠慮なく受け取ることができる。

そのため、この動画は掛け値なしの評価とともにネット上で拡散され、メディアも取り上げ始めた。芸術家としての発信力やブランド力を感じる好例だ。

ほかにも、コールドプレイのクリス・マーティンやジョン・レジェンド、キース・アーバン、ピンクなどのトップアーティストたちが、SNSに自宅でのライブ映像を配信して話題になっている。

「芸術の力」は受け手の気持ち次第

新型コロナの影響が深刻になるにつれ、ネット上では日本の芸術家たちから「こういう時こそ芸術の力が必要なのに!」という声が多く聞こえてくるようになった。しかし、誤解を恐れずに言わせていただくと、この発言は腑に落ちない感じがする。

今回のような非常時においては、芸術分野以外の仕事でも突然のキャンセルや期限不明な延期は山のように発生している。NYではいつまで続くかわからない行動制限が施行されることになり、様子を見ながらライブができたり展示会ができたりする日本とは比べ物にならないくらい、すべてが完全に“無し”になってしまっている。

日本でもNYでも、今は「何より感染者を増やさない・死者を増やさない」ことが重要である。「芸術の力」は確かに存在するが、それがなくても肉体的に死んでしまうことはないのは事実だ。危機の時に最優先事項になることはない。

それに何より、「芸術の力」の効力は受け手の気持ち次第であり、受け手の評価である。「芸術の力が必要」と言うことが許されているのは発信する芸術家側ではなく、受け側だけではないだろうか。

芸術家たちが「ここから先どうなるのだろう?」と不安になるのも十分理解できる。キャンセルを宣告される方も絶望的な気持ちになるだろうが、キャンセルにせざるを得ない主催側も身を切るような思いのはずだ。しかし、もし芸術の力を心から信じているのであれば、マウリツィオ・マルキーニたちのような発信ができるのはないだろうか。こういう時だからこそ知恵を使い、様々な手段を用いて発信することは大事だ。彼らの動画を見ればわかる通り、特別なお金はかかっていないのだ。

ただ、忘れてはいけないことは、非常時だからといってあれもこれも無償でやらねばならないわけではないということである。

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