映画製作の現場から、未知で困難なプロジェクトの切り拓き方を紐解きます!
監督×スタッフ。手足だけでなく、脳みそも借りる方法
押井:
アニメにしろ実写にしろ、映画のスタッフの意思を尊重することが重要。意思を尊重するっていうのは、言うこと全部聞いて、通してあげる、ってことじゃないよ。彼らが話す言葉を、いったん全部聞いてあげるってこと。
聞く耳を持たないっていう態度を最初から示しちゃうと、誰も監督の味方なんてしない。当たり前だよね。色を塗ってるスタッフに至るまで、何か言いたいことあれば全部聞いてあげる。聞いてくれる監督だって思ってもらわないとだめ。相手にしてくれてんだ、っていう。私はお茶を持ってくる人にも「ありがとう」って言う。
本当言うと、監督は全員の名前を覚えなきゃいけないんだけど。ナポレオンもそう言ったからね。名前と顔を全部覚えろって。中隊長は自分の部下を全部覚えられるはずだって。大隊長になったら無理だろうけどさ。人間が覚えられるのは、200から300人だっていう説があるけど、要するに中隊規模だったらできるはずだ。それが士官の絶対条件だって。
私はでも現場でさ、顔と名前が常に一致しない男だったから。5、6回付き合いのある原画マンでもさ、「あなた誰だっけ?」ってことがしょっちゅうあった(笑)。「前お会いしましたよね!」「あの映画もこの映画も、散々一緒に苦労したじゃないの!」って言われることもあるけど。ひとつの現場で7、8人しか覚えられないから。
後藤:
そこで嫌われずに、愛されるっていうことも大事ですよね。
押井:
それはその場ですぐに謝っちゃうから。ごめん誰だっけ、って言ってさ。「あん時これやったんですよ!」って言われたら「ああそうだったそうだった。ごめんごめん」って「今度こそ覚えるから」って言ってさ。覚えらんないんだけど(笑)。そういうふうにフランクに付き合うっていうのは、意図的にやってるわけじゃなくて、楽チンだから。
私は幸いにして誰とでも付き合えるんで。冗談も好きだし、おしゃべりすること自体も好きだから。人の話聞くのも苦痛じゃない。でもただ聞いてるだけじゃなくて、「それはちょっと違うんじゃない」とか「こうなんじゃないの」って必ず言うから。言うことも好きだから。だから苦労でもなんでもない。おしゃべりする、っていうか、スタッフと話すために現場に行ってるようなもんだよ。半分以上は。それが一番大事なことだから。
