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コラム

“推し”が生む圧倒的な熱量と消費―キャラクタービジネスのこれから

1人あたり消費額は約10倍!人々が熱狂する“推し”とは?

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「推し」キャラが生み出す数百億円規模の経済圏

あなたは「推し」と聞いたときに何を思い浮かべるだろうか。

“推し”とは言葉の通り、“推しているもの”を指すが、昨今ではその対象は幅広く、アイドルや俳優、アニメ・ゲームキャラクターなどさまざまなジャンルにわたっている。単なる“ファン”とは違い、「自分が最も好きなもの」が“推し”となるため、ユーザーの熱量は何よりも高く、その人物やキャラクターの応援には全力を尽くす。グッズ購入、ライブ・イベントへ参加、さらには投げ銭など投資・消費はいとわない。

言葉の起源は1990年代後半頃「モーニング娘。」のファンの間から生まれたとと言われているが、実際に注目され始めるのは2011年5月「AKB48」の前田敦子が1位に返り咲いた第三回総選挙前後。特定のワードがどれだけ検索されているかがわかるGoogleトレンドのピークがそれを示している(図1)。

同時期にゲームからアニメ、舞台へとメディアミックスで展開している『うたの☆プリンスさまっ♪(うたプリ)』で、女性ユーザーが男性タレントに対し「推しメン」という言葉を用い、徐々に浸透が始まっていき、直近では「萌え」を超えて「オタク」のような一般ワードとほぼ同列で使われるものになっている。

(図1)オタクワードのGoogleトレンド比較

対照的な関係にあるのは「萌え」だろう。1980年代のオタクの誕生とともに生まれ、2000年前後に「2ちゃんねる」によって広がり、主にアニメなどの“架空の”女性キャラクターへの疑似恋愛感情のような使われ方をしてきた。用語としてのピークは2004~05年の『電車男』でここからはそれほどネガティブな表現とみなされなくなり、徐々にトレンドも落ち着いていく。2005年にはユーキャン流行語大賞にも選出され、最近の2018年になって『広辞苑』に収録される段階になると、もはやコモディティ化しすぎて、用途を見失ってきた感もある。

「萌え」は衰え、「推し」は成長している。その違いはこの本コラムを経て、詳細を説明していくものの、ともかくこうした「推し」「萌え」といったコンテンツが市況を賑わしていることは確かである。

図2はキャラクター・タレント別の経済規模であり、ジャニーズ・タレントであれば音楽コンサートチケット、舞台・演劇、グッズといった収益から生み出される年間収益を指す。ガンダムのようなキャラクターであれば、ゲーム、プラモデル、アニメDVDなどの販売総量である。驚くべきことに、マスマーケット向けで誰もが知っている『ワンピース』や『アナと雪の女王』といったキャラクターよりも、ユーザー数でいえば1桁少ない『アイドルマスター』や『ラブライブ!』といったニッチな“萌え”キャラクターのほうが、何倍も高い経済規模を築いていることがわかる。これはつまり、1人あたりが消費する額が1桁多い、ということになる。

図2)キャラクター経済圏の市場規模とユーザー数

“ニッチな”コンテンツも大手企業とのコラボが当たり前に

なぜ「推し」「萌え」産業がこれほど大きいのか。私自身もブシロードで類似コンテンツに関わっていると「一般」との溝の大きさに愕然となる瞬間がある。

当社の『バンドリ!』というコンテンツは、いまや携帯アプリゲームでいえばMAU(月に1回以上プレイしているユーザー)が200万人を超え、日本でプレイされているアプリゲームのなかでトップ10位に入るほどの大規模なものになっている。『モンスターストライク』や『LINEツムツム』『ドラゴンボール』といった誰もが知っているアプリと並んで、毎日100万といったユーザーが遊んでいる巨大コンテンツなのだ。

だが、MBA(経営管理修士)を学ぶ学生50名に聞いても、プレイした人が1割、課金者はゼロ。私の大学時代の先輩・同僚など同世代となると、名前すら知らず、キャラを見せると「なんか見たことある」レベル。それもそのはず、『バンドリ!』を一番遊んでいるのは10代~20代前半の学生や新卒に近い社会人なのだ。アプリゲーム業界ではヒットタイトルであっても、いわゆるマーケティング業界で誰もがコラボしたいキャラクターコンテンツとなるのにはそれなりに時間を要する。なぜなら大手企業のマーケティングの責任者は、だいたいが40~50代の部長・本部長だからだ。

『バンドリ!』のコラボの話が出始めた初期には、200万人がプレイしているゲームのはずなのに、ほとんど知られていないところからスタート。幸運にも「うちの娘がハマっていて」と身近なサンプルがいる方からご縁があったり、一度音楽ライブを見てみたらあまりの熱気と若者ユーザーへのキャッチの強さに驚いて、といった多かった。だが、3周年ともなる最近になって、ようやく大手飲料メーカー、大手アパレルメーカーといった「ナショナルクライアント」とのコラボも珍しくない状態になってきている。

売りたい人間と買いたい人間の距離-これはマーケティング業界における永遠の課題だろう。新興産業の新興キャラクターに自社製品のブランドを預ける覚悟は、それなりに身近なマーケターであっても不安はつきまとう。本コラムではこうした熱量の高い“推し”を生む「コンテンツ」が、なぜこれほどまでにユーザーの心をとらえるのか、について追究していきたい。