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コラム

好奇心とクリエイティビティを引き出す「伝説の授業」採集

1時間目:「1週間が8日に増えたら、その1日何をしますか?800字以内で書きなさい。」

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1時間目:
「1週間が8日に増えたら、その1日何をしますか?
800字以内で書きなさい。」

イラスト:萩原ゆか

人との出会いと同じで、問題にも出会いとか縁とか、そういうものがあるんだと思う。出会っていなければその後の人生が違ってくる、運命の出会いが。

僕の人生にとっては、この問題がそうだった。もし出会ってなければ、「変な宿題」というプロジェクトを作ることもなければ、教育の事業や研究所を立ち上げることもなく、その問題を使った僕の授業を受けた人の人生が変わることもなかっただろう(よくも悪くも?)。そして、あなたが今読んでいるこの連載もなかった。

せっかくなので、読み進める目を止めて、読者のあなたもまずは考えてみるのが面白いかもしれない。この作文の問題。あなたなら、どう書きますか?

(実際に800字書いてみる人は、20〜30分。書かないけど、こういうこと書くと考えてみる人は5分。ぜひ考えてみてください。)

さあ。みなさんにも実際考えてみてもらったところで、話を前に進めます。

この問題との出会いは、1998年、電通クリエーティブ塾の入塾問題。その第一問目が、これだった。

当時僕は、工学系の大学院を休学し、宣伝会議コピーライター養成講座に通っていた(ここが宣伝会議のWebメディアだから言っているのではなく、事実です)。どうやったら広告業界でコピーライターとして仕事を始められるか、もがいていた。就職活動をしてみるも全滅。10社受けて10社落ちたところだった。

そんなある日、講座に一緒に通う友達が「電通がクリエーティブ塾ってのをやってて学生を募集してるよ」と教えてくれた。「受講料も安いよ!」と。

HPを見てみる。履歴書と作文を送ってくださいと書いてあるが、そのお題が、見たことのない類のものだった。

「1週間が8日に増えたら、その1日何をしますか?800字以内で書きなさい。」

応募してみるか。何より…面白そう。

その問題に魅せられた僕は、すぐに着手する…はずもなく、郵便の消印有効の締め切り日まで寝かして、その当日ギリギリに取り掛かった。たぶん、夕方だっただろう。

テーマはすぐに決まった。カレーにした。僕はカレーが好きで、その週毎日食べていたということもあり。

内容はこうだ。
「僕はカレーが大好きである。カレーという食べ物は、ご存知の通り、煮込めば煮込むほどおいしくなる。だから、1週間が8日に増えるんだったら、1日余計に煮込むに決まってるじゃないですか。云々。(後略)」

これを800字に引き伸ばし、書き終えた。完成。

しかし、風の噂に電通という会社は面白い会社だと聞く。もっとスパイスを効かせてもいいかもしれない。

そう思った僕は何気なく冷蔵庫を覗き、使いかけの固形のカレーのルーを発見。文字通り、このスパイスを作文に使うことにする。

カッターでルーを切り刻み、ティッシュで包んで、糊で原稿用紙に貼り付ける。表紙にインド人の絵を描き、その吹き出しに「匂いつき作文」と書いてみる。

ルーを刻んでの匂い付き作文を制作(再現)

ここで時計を見て、気づく。
もう23:40じゃないか!

封筒に入れ、住所を書き、最寄りの大きな郵便局、目黒郵便局へ自転車で急ぐ。

深夜の目黒郵便局(22年ぶりに来てみた)

時間外窓口に到着、時計を見る。23:58。

窓口の人に念のため聞く。
「今日の消印って、押されますよね?」「はい、大丈夫です」

封筒を渡し、ほっとする。文字通りの、滑り込みセーフ、っていうやつだった。

そして待つこと2週間。

ポストに届いたのは…合格通知だった。

側から見れば、問題も回答もおバカなやりとりに思われるかもしれない。しかし、この通知が届いたとき、僕には2つの大きな学びがあった。

1つは、正解のない問題の存在を知ったこと。そして、その面白さ。さらには「答えのない問題を出されたー!」というそのインパクトにより、もしかして学校の問題にも正解はなかったんじゃないかと気づく。

数学の証明も、作文も(先生がお決まりの教科書っぽい口調に直したがるのに抗う勇気さえあれば)、部活で県大会で優勝する方法も、進路も。正解があるという雰囲気に飲まれていただけじゃないか。

2つ目は、これ面白いと思うんですけどー、と自分なりの回答を世に投げたら、面白いじゃん、とキャッチしてくれる大人がいた、ということ。

みなさんはどうだろう?若いとき、大人ってつまんなそう、って思ってなかっただろうか?

僕は、14歳の頃、大体青春って18歳くらいで終わっちゃうんだろうな。それからつまんなくなるんだろうな、って思っていた。けど、どうやらそうじゃないぞ。面白い大人は世の中にいそうだぞ、と思わせてくれたのがこの合格通知。(「大人は楽しい」と大人が若者に伝えていない、また背中でも見せられていない現代の問題ついてはまた別のところで述べよう。)

大きな学びがあったものの、実はまだ合格していない。この作文は1次選考。ハガキには2次選考の案内が書いてある。当時東銀座にあった電通本社ビル近くの別棟、えとビルへ向かう。

そこで待っていたのは面接と、こういう類の正解のない問題がさらに10問!これを1時間半で解け、と。

どんな問題があったかというと、あまりにも時間との戦いで、うろ覚えだがこれはあった気がする。

(考えてみたい方、ぜひやってみてください!)

頭が痛い、けど面白い。そんな出題は、電通に入社してからも続く。新入社員全員が受ける、クリエーティブ局への選抜試験もこの類で、通称「クリエーティブテスト」と呼ばれているということがこの頃にわかる。覚えてるのはこんな問題。

(この時、帰りがけの同期に、なんて書いた?って聞いたら「アニマル柄のブームは去年だった」って言っていて、うわあ、こういうセンスの奴らがいっぱいいるのか、困ったなと思った)

こういう試験をパスして、なんとか2000年、電通クリエーティブ局にてコピーライターとして働き始めた。

いったん、職を得て、めでたしめでたし、なのだが、この遊び心がありつつ解く人の発想力に挑戦してくる問題たちの存在は、強烈に僕の心に残り続けていた。

そして思っていた。もっと、子どもの頃からやればいいのに。と。

だからその後、広告や企画について講演や授業をして欲しいという依頼をもらうようになった時には、これはチャンスとばかりに、クリエーティブテストをいろんなところで出すようにした。どこで出しても、反応がよく、頭をもたげつつも、やっぱりみんな好きだということがわかり。その流れで、古今東西の面白い問題を「伝説の授業採集」と称して集めて解析し、「変な宿題」を始めるに至る。

つまり、この「1週間が8日増えたら?」の問題と出会ってなかったら、僕が教育に携わることもなかった可能性は高い。(それ以前に、コピーライターになれてなかったかもしれない)

そんな始まりの1問を、連載1回目に紹介した。

さて、最後に、問題の意図について触れたい。
今後、いつか後述することになると思うが、僕が集めた授業には共通項がある。

 

面白そう!と思って、やっていると、その裏にある出題者の「これを学んで欲しい」という意図を無意識のうちに、いつの間にか体験して、学んでいる。そんな設計になっている。

では、このクリエーティブテストの意図は何か?

問題の答えがたくさんあるように、その解釈も無限にある。何を答えるかも、何を学ぶかも自由。この問いから、あなたは、何を学んだだろうか?どんな意味を、見出しただろうか?

クリエーティブテストには別に答え合わせがあるわけでも、出題者が解説してくれる機会があるわけでもないので、明かされたことはないが、「発想力」と「客観性」を問うている、というのが僕の見立てである。

なぜなら、これは広告クリエーティブの選抜試験だから。発想が狭くてもいけない。それでは見る人がつまらない。逆に、飛びすぎていてもいけない。広告は、見る人にわかる、共感されるものじゃないといけないから。実業の世界は常に、二項対立のバランスを求められるのである。ただ、客観性の前に、発想を問わなくてはいけないため、問題自体が、常に奇抜気味になっている。だから面白い。

あともう1つ、クリエーティブテストの大事な効能がある。それは、見た人が、楽しくなる、ということだ。何を今さらと言われそうだが、これはとても大事だ。

自由に発想するって、楽しい、と思う。答えはたくさんあっていいってことを思い出す。
答えは1つじゃないってことを思い知る。

正解だけを求められがちな世の中で。1+1はもちろん2ではあるんだけど、見方を変えれば、1+1=0.1だっていいし、1+1=5になることだってあるじゃんと、教えてくれる。

答えが1つではないから、誰もが間違いではない。Creativeは、そんな失敗を許容する広い心から生まれる。

既存に縛られない、自由な心を呼び戻す。今、一番大事なそんな社会的意義が、クリエーティブテストにはあると思う。

1時間目の授業は、この辺で。ではまた次回。