※本記事は株式会社マスメディアンの『advanced by massmedian』に掲載された記事を表示しています。
奥深い発酵の世界
小倉さんが、ぬか床の研究をしていたときに「もしかすると、ぬか床を男の人と女の人が混ぜるのとでは、(味が)違うかもしれない」という研究データが出てきたそう。「(つくる人が)男性か女性か。また、女性でも妊娠しているときなど、“人生のステージ”によって微生物の生態系が変わっていく」と話します。
人間の体にもさまざまな微生物がいて、「年齢によって、それらの性質が変わっていきながら体のバランスを保っている。しかも、発酵食品を食べることによって、微生物の相互反応が起きてお腹のなかがいい感じになる」と語ります。
微生物によって味の美意識が変わる
話を聞いているうちに「人間と発酵の関係性」に興味を持ったハヤカワさん。小倉さんは、「人間は発酵技術を使って微生物的な生態系を改変しているとも言える」と話します。
例えば、お酒の約99%は酵母(サッカロミセス・セレビシエ)という微生物によってつくられていると言い、「お酒は(世界中で)つくられているので、この酵母が地球史上かつてないほど繁栄している。酵母の立場から言うと、人間が好きな“アルコール”へ中毒にさせる物質を出すことで、人間をコントロールして増えている…という考え方もできる」と説明。
ほかにも、さまざまなケースがあると言います。例えば、コウジカビ(麴菌)と呼ばれる日本特有の菌については、「1000年ぐらい前からずっと培養して、改変し続けている会社があるんです。僕が確認しただけで全国に8~9社ぐらいある」と小倉さん。
続けて、大昔に毒を持っていたと言われるコウジカビにまつわる一説を紹介します。「あるとき、人間が突然変異を見つけて“有用カビ”として使うようになった。さらに純粋培養して、毒性のないものにしていった結果、数百年をかけて人間に悪いことをしない菌に育てていったのでは…という説もある。どこまでが本当なのか、かなり歴史が長いのでわからないのですが」。
さらに「お米や麦は、もともと殻が硬くて食べにくかったものを、系統選抜して食べやすくしている。それと同じことを微生物に対してもおこなっていて、“人間になつく菌だけを大事にしている”という側面もある。一方で、どんな微生物がいて、人間にどのような影響や恩恵を与えるかによって人間がコントロールされている…という側面もある」と話します。
