1954年創刊の月刊『宣伝会議』は昨年に通巻で950号を超えるまで刊行を重ね、まもなく1000号が近づいてきた。
2020年は歴史に残る1年ではあったが、日本においてマーケティングが花開き、進化してきた約年を『宣伝会議』の歴史とともに振り返るとき、常にマーケティングはその時々の苦境に対応し、新しい手法を生み出してきたことがわかる。
経済が大きく成長し、需要が急拡大した時代にはマス・マーケティングが進化を遂げ、市場全体のパイが拡大しない時代においては、差別化の戦略が。競争環境がさらに激化すると、競合ではなく顧客に向き合い満足度を高めるロイヤル化の戦略が登場している。コミュニケーションに携わる人たちならではのアジリティの高さは、どのような環境を前にしても、顧客との変わらない関係性を維持することに貢献してきたといえるだろう。
それでは消費価値観が大きく変わり、産業界におけるルールチェンジが起きている今、マーケティングはどこに向かうべきなのだろうか。ひとつの方向性として、社会全体が混とんとしている時だからこそ、コミュニケーションの力で社会に新しい「ものさし」を提示するということがある。誰かがつくった「土俵」でシェア争いに明け暮れていては、気づけば消費者の意識と乖離していたということになりかねない。自らが社会に新しい課題を提示し、その課題を解決するためのアイデアを提示していく。広告だけで実現することではなく、広報を始めとするコミュニケーションの知見を総結集することで、新しい土俵、新しいルールをつくるようなマーケティング戦略、さらには企業戦略が求められている。
こうした流れはマーケティングにおいては顧客接点別、企業全体でいえばステークホルダー別に分かれているコミュニケーション部門の再編成を促していくことになるだろう。近年、よく聞く企業の声に、消費者を対象としたマーケティングとパブリックリレーションズの活動の境目がなくなっているということがある。
この背景には消費者がモノを選ぶ基準に、商品の機能性だけでなく、企業自体の社会に対する姿勢も重要な要素として加わっていることがあるだろう。加えて企業を取り巻くステークホルダーは、実はひとりの人がときに顧客、ときにメディア、ときに株主と複数の顔をもって企業を支えてくれている可能性が高いという気づきが、こうした流れを生み出しているのではないだろうか。
マーケティングにおいても従来の消費者理解だけでは事足りず、企業を取り巻くステークホルダーを多面的な顔を持つ、ひとりの「人」として理解し、いかにして関係を育んでいけるかが、これからの課題だ。消費者を対象に人の気持ちに寄り添うコミュニケーション力を磨いてきたマーケティングの知見が、企業の持続的成長に貢献する力として機能する2021年が始まった。
出版・編集取締役
月刊『宣伝会議』編集長
谷口優
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