9時間目:チーム分けは学年別。上級生vs下級生で戦うルールの「下克上体育祭」。

【前回コラム】「8時間目:薩摩の「究極の選択問題」 vs 肥前の殿様参加型「無礼講ディスカッション」」はこちら

(イラスト:萩原ゆか)

面白い話は大体、お茶飲んでる時から始まってる。今回もその類。

さらに言えば、自分も通えたかもしれない面白い学校の話を聞くといつも「自分が子どもの頃に教えて欲しかった!」となる。今回はその類、でもある。

2016年の秋だった。

「働き方のカンファレンスを立ち上げた人がいて、つないでいいですか?」と知人より。そしてお会いしたのが藤本あゆみさん。

働き方改革の波が起こった瞬間に、これは私がやらなくてはいけないことだと、まず虎ノ門ヒルズの600人入るホールを個人で押さえ、いろんな人を巻き込んでカンファレンスをいち早く開催、一般社団法人at Will Workを立ち上げた、すごい方である。

at Will Workのカンファレンスで、代表理事としてオープニングトークをする藤本さん。2019年、テーマ「働くをひも解く」の回。

集合場所は、目黒のスタバ。その頃は朝からそこで人に会いつつ、色々仕事を捌いてから出社することが多かったから。

コーヒー片手に、その働き方カンファレンスのことを聞いているうちに、元気な人だなあ、面白い人だなあと、どんどん引き込まれ、逆につい色々聞いてみたくなってしまった。何なんだこの行動力は!?と思って。まだ会ったばかりなのに、こんなことを聞いた。

「藤本さんって、なんでこんな風になったんですか?なんの影響?」

ご両親の影響かな?と想像していたのだが、答えは違った。

「たぶん、通ってた学校の影響ですね。」

先生の影響とは聞いたことはあっても、学校の影響とは珍しい。へー、どんな?とさらに聞くと、これまた予想をはるかに超える答えが続々と出てきて、ますます盛り上がってしまった。

「変わってるんですよ、うちの学校。」

仕事は後回しにすればいいが、面白い話が聞けるチャンスは後ろにずらすと、人生の化学反応が遅れてしまうことになる。面白おかしく生きたい自分としては、それは、大罪。結局その日は、出社前に仕事を捌くどころか、昼までスタバにいることになった。

「例えば、象徴的なのは体育祭で。学年対抗なんですよ。」

「んんん?どういうことですか?」

「普通の学校では、学年が混ざって縦割りでチームに分かれて戦うと思うんですけど、うちの学校は、学年ごとにチームを組むんです。高1 vs 高2 vs 高3、みたいな。」

「へー。それって、下の学年が勝てるんですか?」

「勝てない。勝てないから、どうやったら勝てるか必死に考える。上も必死ですよ、負けないように。」

なるほど。これは面白い。学校による、“考えさせるためのデザイン”が施されている。

この朝の出会いから、藤本さんとはツルみ始め、年に何度も顔を合わせるようになるのだが、「メディアで見たあの人、うちの学校っぽいなあ…と思ってプロフィール調べたら、やっぱりそうだったんですよね」なんて続報も教えてくれた。

活躍する女性たちに行動力を宿らせた、特別な校風を持つその学校とは。東京都調布市にある、桐朋女子中・高等学校である。

ここで、藤本さんにご登場いただく。改めてzoomで根掘り葉掘り聞いて、伝説の体育祭を再録する。

2021年2月24日の回で、at Will Workのカンファレンスは最終回。その直前のお忙しいところで時間いただいて、ありがとうございました、藤本さん。

倉成「まさかあの時の雑談からこうなるとはね。」

藤本「雑談から生まれる企画はいつも最高ですよ。」

倉成「では改めて、あの時聞いた、学年別体育祭について教えてもらえますか。」

藤本「はい。まず中1から話すと。入学直後の5月にいきなり体育祭があるんですが、この初年度は、訳もわからず放り込まれて、先生に言われるがままいろんなことが進み、先輩たちがワーってやってて、これは何が起こってるんだろう?もう何が何だかわかんない!という混乱の最中に、ボコボコに負けます。

やっぱり私たち最下位なんだ〜。って思い知らされつつも、たまにスター選手がいて高3を抜いちゃうみたいなのがあったりもして。意外といけるかもという希望を垣間見たりもします。」

倉成「高1から高3だけじゃなくて? 中1vs 高3でも戦うってこと?」

藤本「はい。中高一貫なんで。なので例えば、走るのも常に6レーンあって、中1から高3までが一切ハンデなしで競います。」

想像以上に競わせるなあ…。

藤本「そして中2になると。先生はほぼタッチせずに、全部生徒に託されるようになります。

ルールとして、当時は基本1人1種目しか出れない。つまり、運動に長けてる子が活躍するんじゃなくて、みんなが何かに1個参加しなくてはいけないようになっていて。

基本的には、自分が出たい競技に手を上げるんですが、決めるための選考会があります。その選考をやったり戦略を練るコアのリーダーたちも挙手制。やりたい子がやる。

そうやって諸々決めた上で、チーム編成や練習の仕方とかを自分たちで考えます。

去年よりすごく速くなった陸上部の子をどうやって活かすか、とか。玉入れの例で言うと、投げる子と、玉を円の外に出す子(その外からしか玉を投げられない)と2つ要るので、選考会で役割を決めて、勝つための練習方法も編み出す。ノルマを課したりもして、今日は何個入れられたらお昼食べれる、とか。」

倉成「競技は、何か特別なのがあるんですか?」

藤本「『足の歴史』っていう競技があって。それは3人4脚から始まって、2人3脚、2人2脚(背中合わせでふたりの足を固定する)、1人1脚、とリレーでつなぐんですが、足が速ければ勝てるわけじゃないから、これ考えた人すごいと思う。『団体徒手』 っていうのは、新体操の道具がないバージョンの団体競技で、同級生にシドニーの新体操オリンピック選手がいて、一緒にやった時は、歓声で空気が割れるってのを初めて経験しました。『応援交歓』っていう、体育祭の目玉は、マスゲームみたいな、学年の色を最大限に生かした演出をやるんですが、これは演劇部やダンス部の子が中心になって考える。」

遠くを見ながら語る藤本さん。働き方について話してる時と同じ位、いやそれよりも熱く、かも。

藤本「下克上を常に考える体育祭ですね。上に負けたとしても、次は絶対勝つんだ、とみんなで燃える。最後だからと高3に華を持たせるなんて一切ないし、実際に高3が勝てなかった年もありました。そういうジャイアントキリングがたまにあるんですが、その時は大変…。」

倉成「藤本さんの時は、どうだったんですか?」

藤本「私たちは、高3でちゃんと優勝しました!もう号泣ですよ、みんなで。」

実際の体育祭の様子。後ろのスコアボード注目。中一(M1)から高三(H3)まで並んでいるが、確かに低学年の方が高得点の競技がある。桐朋女子中・高等学校に、写真提供いただきました。ご協力ありがとうございました!

倉成「ちなみに、その間、先生は何してるんですか?」

藤本「先生たちは『どう思いますか?』と相談しに行く先としてあって。職員室は常にドアオープンで、『ドア開けて、失礼しますと言いなさい』とかない。せんせー!って聞きにいく。中は生徒たちのたまり場になってる。

逆に先生からも、煮詰まってる絶妙なタイミングで『最近どう?』って声かけてくれるので、ちゃんと見てくれてたんだろうなと思います。」

倉成「いい雰囲気。楽しそう。体育祭以外はどうなんですか?」

藤本「普通の学校にあるいろんなものがなくて。テストのランキングがないんですよ。順位が張り出されて誰が1位とかそういうの、ドラマとか漫画の世界でしか見たことない。

通信簿もない。先生と話して自分で成績をノートに書いていく、っていうすごい謎のスタイルで。単に成績を伝えるんじゃなくて、先生はスコアを見ながらフィードバックしていく。『理数系目指すならもうちょっとこうしたほうがいよね』とか『ここのところは何も言う必要ないわ』みたいに、人によってカスタマイズして。

数値はあるけど、それ自体に意味がある感じじゃないので。上がった下がったじゃなくて、なんでだっけそれ?と原因を追求する会話を先生とする。自分は何をすべきとメモしたり、そもそもそれって点数上げなきゃいけないんだっけ?とかまで話す。 先生とのそんな会話が記憶に残っていて、数字に捉われている記憶がない。」

いま企業で流行してる1on1ミーティング的なものが、ここでは既に中学から行われている。

藤本「時間割も自分で作ります。高1から単位制で、時間割が人それぞれ違う。大学と同じようにシラバスがあって、将来どっちに進みたいからと、自分で選択と集中ができる。

ほんとすんごい違いますよ、人によって時間割が。なぜか私、政治経済取った時があって、その授業、私1人でした。なんで先生と私、1対1なんだろう!?って思いながら授業受けてた。大学入った時には、みんな授業を選択してやったことないの?っていう反対の戸惑いがありましたね。

なんとなく全部押し並べてやって大学受験の時にさあどうする?ってなるんじゃなくて、高1から考えられるのは良かった。やってない教科もあるから凸凹はあるけど、全部自分で選んでるから、納得感がある。」

倉成「そんな学校から、藤本さんが学んだことって、何ですか?」

藤本「社会は公平ではないけれど、公正な場はありますよね。チャレンジする機会は平等で、努力次第でチャンスを掴み取ることはできる。

だから、この学校で、自分から手を上げることを学べて良かった。やりたいですという意思表示を尊重してもらえて、やりたい人がやる。そして、やりたい人を全力で応援する。みんながリーダーじゃなくて良くて、みんながそれぞれの役割を果たして結果を出す。

どうしたい?どう思う?とすごく聞かれて、こうしなさいと言われないんですよね。私はどうしたいんだろうと考える瞬間が多い学校でした。

そしたら。私みたいに。こうなる。笑」

たった1時間zoomで話を聞いただけだったけど、まるで研究発表授業の1日に参加したかのようだった。そして、その中にいくつもの好例を見た気がしている。

自分で考えて行動する人を育てたい。そんな学校や企業は多いだろう。ではどうしたらいいだろうか。自分で考えろと言う?それだけではいけない。裏側に、自分で頭を動かし、動くようにする設計が要るのである。

また、いいアウトプットが欲しい時。皆さんの周りでは、どうすることが多いだろうか?どこかで聞きかじってきた方法やソリューションをあれこれ持ってきて、すぐ成果を求めたり、なんてしてないだろうか。

理想の結果を求めたいなら。プロセスをそこに向かうように変えればいい。因果応報。結果が変わるはずである。

ただし普通のではなく。常識に縛られないやつを。既視感のある常識的な道のその先は、既視感のある常識的なゴールにしか繋がっていないだろう。

学年対抗で競わせる体育祭。成績よりも未来への方向性を重視するフィードバック面談。高1から選択制の授業。

日本で屈指の値が張る600人の大ホールを誰に頼まれたわけでもなく自主的に押さえ、集まった仲間たちと日本の働き方改革にいち早く一石を投じた、若き女性が生まれた裏には、まさにこういう人を育てるための独自の教育プロセスがあったのである。

プロセスを工夫すれば面白い未来が来る。そのことを、この人の存在が証明している。

倉成英俊 (Creative Project Base 代表取締役/ アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所所長)
倉成英俊 (Creative Project Base 代表取締役/ アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所所長)

2000年電通入社、クリエーティブ局配属後、多数の広告を制作。2005年に電通のCSR活動「広告小学校」設立に関わった頃から教育に携わり、数々の学校で講師を務めながら好奇心と発想力を育む「変な宿題」を構想する。2014年、電通社員の“B面”を生かしたオルタナティブアプローチを行う社内組織「電通Bチーム」を設立。2015年に教育事業として「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を10人の社員と開始。以後、独自プログラムで100以上の授業や企業研修を実施。2020年「変な宿題」がグッドデザイン賞、肥前の藩校を復活させた「弘道館2」がキッズデザイン賞を受賞。

倉成英俊 (Creative Project Base 代表取締役/ アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所所長)

2000年電通入社、クリエーティブ局配属後、多数の広告を制作。2005年に電通のCSR活動「広告小学校」設立に関わった頃から教育に携わり、数々の学校で講師を務めながら好奇心と発想力を育む「変な宿題」を構想する。2014年、電通社員の“B面”を生かしたオルタナティブアプローチを行う社内組織「電通Bチーム」を設立。2015年に教育事業として「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を10人の社員と開始。以後、独自プログラムで100以上の授業や企業研修を実施。2020年「変な宿題」がグッドデザイン賞、肥前の藩校を復活させた「弘道館2」がキッズデザイン賞を受賞。

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