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コラム

「ことば」のことは、プロに聞け!

ネーミングのプロに聞く! “耳に残る”言葉を生み出すには?

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コピーライターの登竜門と呼ばれる「宣伝会議賞」。応募者の皆さんはグランプリを目指し、「言葉」ひとつで熱い戦いを毎年繰り広げています。
しかし、「言葉」で勝負しているのはコピーライターだけにとどまりません。各業界で「言葉」を武器に活躍している方々は、「言葉」についてどのように考えているのでしょうか。
本コラムでは、「コピーライティング」という枠組みにとどまらず、「言葉」というものについて多角的な側面からアプローチ。各領域にプロの方々に「言葉」についてのご意見を伺います。
第一回目のテーマは「ネーミング」。第59回「宣伝会議賞」でも審査員を務めるこやま淳子氏に、「耳に残る言葉」を生みだす秘訣について聞きました。

こやま淳子

コピーライター/クリエイティブディレクター
早稲田大学卒業後、コピーライターへ。博報堂を経て、2010年独立。最近の仕事は、プラン・インターナショナル・ジャパン「13歳で結婚。14歳で出産。恋は、まだ知らない。」、江戸川学園おおたかの森専門学校「もう、介護や保育を、愛のせいにしてはいけないと思った。」、日経ARIA、カネボウ、今治タオルなど。著書に共著『コピーライティングとアイデアの発想法』『ヘンタイ美術館』ほか。

 

ネーミングが得意な人は、ダジャレが得意?

ネーミングが得意な人は、ダジャレが得意な人が多い。
ものすごく決めつけた一文から入ってしまいましたが、これは私が若い頃、考えていたことです。その頃、ネーミングは私にとって苦痛な仕事でした。コピーを考えるのは楽しい。コンセプトを考えるのもやりがいがある。なんというか、それは「考える」作業で、あれこれと時代や人の思考を分析し、新しい価値を発見する仕事は最高の遊び、という感じがありました。

けれど、ネーミングはちょっと違います。もちろんコンセプトは大切ですが、短いフレーズの中にどんなに深い意味を込めるかというよりは、どちらかというと、ちょっとダジャレにも似た感覚的な側面が大きい気がする。さらに「商標チェック地獄」というのもあって、たとえよいアイデアを出してもNGになる可能性が高く、結果的に千本ノックになっていくことが多い、非常に苦しい作業なのです。

その頃、近くにいた先輩で、とてもネーミングの得意な方がいらっしゃいました。

「ネーミングって楽しいよね。だって広告は終わっても、ネーミングはずっと残るんだよ」

それがその方の口癖でした。そして、その方が大のダジャレ好きだったのです。ネーミング仕事が嫌いだった私は、嫉妬心も入り混じり、その先輩のダジャレに「ちょっとバカみたい」と冗談まじりにツッコミを入れ、「ネーミングの得意な人はダジャレが得意」という説を吹聴するようになったのです。

古来から使われてきたダジャレ言葉

しかし、それから20年近く経ち、気づけば私も数々のダジャレネーミングを手がけてきました。「hadakara」というボディソープは「肌から日本を美しく」から。「IROKA」という柔軟剤は「色香」から来ていますし、「コモレビズ」というオフィス緑化プロジェクトは、「木漏れ日」と「ビジネス」と組み合わせたもので、「つぶより野菜」は選りすぐりという意味の「つぶより」と、つぶつぶの食感をかけたものです。
あの「イクメン」という言葉は博報堂の丸田昌哉さんというアートディレクターがつくった言葉で、私が「それいいかも!」と一緒にプロジェクトを組み、広げていったものなのですが、彼もやはり、普段からちょっとバカみたいなダジャレを連発する人でした。

実際、いいネーミングというのは、ダジャレ由来のものも多いように思います。「サントリー」が「鳥井さん」を逆さにした名前というのは有名ですが、他にも「クラシエ」(暮らしへ)、「アスクル」(明日来る)、「キュキュット」、「熱さまシート」などダジャレネーミングは数多あります。また、ダジャレでなくとも、「セブンイレブン」のように、韻を踏んでいたり、言葉の一部がつながっていたり、「準ダジャレ」と言ってもいいようなものや、「プッチンプリン」のようにいい感じで擬音や濁音が入り、耳で聞いて心地いいものも非常に多い。
このコラムのタイトルも、宣伝会議の方からいただいたものですが「耳に残る『ことば』を生み出すには?」。ネーミングのような短い言葉は特に、「音」が非常に重要な要素であるのは確かで、ダジャレが得意な人というのは、きっとこの「音」への感性が強い人ではないかと思うのです。

そしてこれは広告だけの話ではありません。古来から、日本の文化にはたくさんの言葉遊びが散りばめられていました。「花魁」というのは、吉原の妹分が「おいらん(私の)姉さん」と呼んだことからきているというし、歌舞伎の演目である「仮名手本忠臣蔵」というのは、四十七士だから「仮名手本(47文字)」だといいます。和歌の「かけ言葉」って要するにダジャレだし、落語の下げなんて、ほとんどダジャレ。日光東照宮には「三猿」というありがたい猿の彫物が施されていますが、これも「見ざる」「聞かざる」「言わざる」というダジャレがあるからこそ、こんなに広く知られているのかもしれません。

「ほほう」と「ちょっとバカみたい」の組み合わせ

なぜダジャレや言葉遊びはこうして多用され、浸透しているのか?
ここからは私自身の考察です。もちろん「音」を覚えやすいというのは大前提としてあると思うのですが、さらに考えるとダジャレネーミングというのは、「ほほう」という感動と「ちょっとバカみたい」な感じが組み合わさっているからではないかと思うのです。
「ほほう」は、「ほほう、上手いこというね」というやつですが、それだけだと人はすぐ忘れてしまう。けれど「ちょっとバカみたい」は、強い。いまの芸人さんブームを見てもわかるように、人間はちょっとバカみたいなものに好感を抱き、惹き寄せられてしまう性質があるように思えます。
もう少し長い文字数を使えるコピーだと、「意味」で人を感動させることができるのですが、ネーミングや、コピーでも短いものになればなるほど、この「ほほう」と「ちょっとバカ」の組み合わせが威力を発揮するのではないでしょうか。

こう考えると、人の心に残る言葉の仕組みって、何百年も変わっていないのかも。そしてあのとき先輩が言っていたように、短い言葉やネーミングは、長く使われることも多いもの。「ちょっとバカみたい」な言葉が何十年も何百年も残り、人々の心を捉えていくって、素敵なことだなあと思うのです。
 

「今年、誰がいちばん言葉に愛されるか。」
第59回「宣伝会議賞」応募のご案内

 
宣伝会議賞」は、広告表現のアイデアをキャッチフレーズまたはCM企画という形で応募いただく公募広告賞です。1962年の創設以来、「コピーライターの登竜門」として長年にわたり、若手のクリエイターやクリエイターを目指す方々にチャンスの場を提供してきました。昨年は60万点近くの作品が集まり、“日本最大規模の公募型広告賞”として進化を続けています。
「今年、誰がいちばん言葉に愛されるか。」グランプリを獲るのは、あなたかもしれません。
 

 
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