人間の判断に自然と入り込んでいる「ノイズ」と「無知」
この20年間でデジタルマーケティングが主導してきたアプローチのなかで、「顧客に関するデータをなるべく多く集めて、顧客一人一人についての理解を深めていくべきだ」という主張はいまだに強いと考えられます。その背景には顧客に関するデータが増えれば増えるほど、ターゲティング精度が高くなるだけでなく、ターゲットに対する深い理解につながるので、マーケティング活動の精度が高まるというマーケターの信念があるからでしょう。
顧客に関する複雑で多様な情報が集まれば、顧客の解像度が上がる。それだけでマーケティングが目指す売り上げの達成などの目的を達成する精度が高くなると誰もが思うはずです。しかしながら、実務における売り上げに対するマーケティングの貢献度、その精度は、もしかすると、そのような努力にも関わらず、あまり高いものではないかもしれない、と言ったら皆さんはどう感じるでしょうか。
そんな疑惑を感じさせる提言を、『ファースト&スロー』でノーベル賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンを含む、行動経済学者のキャス・R・サンスティーン、『賢い人がなぜ決断を誤るのか?』の著者、オリヴィエ・シボニーの3名の共著である『ノイズ』(ハヤカワ書房 2021年刊)を取り上げながら、していきたいと思います。
