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コラム

賞味期限付きのSNSコラム

インターネットミームを企画にする

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SNSという大海から企画のヒントをどう引っ張り出すか?

SNS文脈に乗っかったコンテンツを企画するときの思考の一部を野に放ってみる。とは言いつつも、圧倒的な武器を披露できるわけでもなんでもないので、ポケモンでいうピーピーエイドくらいの感覚で扱える“ヒント”の話をしたい。

前提として、SNS上でバイラルさせるためのクラフト力は一定の法則・再現性を持ち合わせているように思える。クリエイティブの内容・クリエイターのこだわりによって差異は出てくるものの、冒頭数秒の惹きつけ・シズルの凝縮・1フレーム単位での地道な仕掛けづくりなど、TIPSはあちらこちらに蓄積されている。もちろん実際のものづくりに勝る学習はないが、体系化の余地が存分にあるタイプの技術ではないだろうか。

そのようなクラフト・作り込みの手法論に比べると、企画の種を発見する手法は属人的でふわふわしている。10代の頃にアイデア発想法と称したHowToモノを読み漁る時期があったが、いまでも身体に染み付いているような優れものは特に見当たっていない。

SNSという大海から企画のヒントをどのようにして引っ張り出すのか。音楽であればSpotifyの「Weekly Buzz Tokyo」と「New Music Wednesday」のプレイリストを毎週なぞっておけば最低限のキャッチアップは可能かもしれないし、映像コンテンツだったらNetflixを、漫画だったら『ジャンプ+』のランキング上位をひととおりかじっておけばブレスト会議で疎まれることはない。それに対して、トレンド欄を毎日眺めたとて手に入るヒントの少ないSNSはどうにも扱いがむずかしい。

たとえばの話。
最近4分割された1枚絵の画像投稿をよく見かけないだろうか。
それぞれをタップすると情報量たっぷりの縦型グラフィックが出てきて…みたいなやつ (名称がまったくわからない) 。「たしかに!よく見るあれを広告でやってみよう!」みたいな、SNS上のフレームを借りてきては広告に落とし込んでいくアプローチはめずらしくない。

サントリーほろよいとキャラクターを紐づけて画像に落とし込むのが流行っているらしい、あのようなUGCの考え方をなにか企画に反映できないか。
#ミリしらのハッシュタグがよくタイムラインに流れてくるから、それでアイデアを考えてみよう。

こうしたアプローチは、自分もよくやるので有効な手であることに間違いはないのだが、わかりやすく可視化された・ユーザーが意識的に乗っかっているトレンドを果たして「文脈」と言ってしまっていいのか。目に見えない・読み取らなくてはならないものが「文脈」なのだとしたら、あともう一歩だけ「無意識のゾーン」のようなものに踏み込まなければいけないように思える。

目に見えない「文脈」をつかむためのヒントは、「言葉」にあり

以前にある柔軟剤の広告で「あの人のマフラーになりたい」というマフラー目線WebCMを作ったことがあるのだが、喜ばしいことにこれが多くの反響を呼んだ。

2020年に展開した「あの人のマフラーになりたい」キャンペーン。

なんだそれ…?と思っている人も多いとは思いつつ話を前に進めると、この企画は推し文化のなかで多用されていた独特な言い回しが原液になったアイデアだったりする。「〇〇くんのストローになって噛まれたい…!」「〇〇ちゃんのスニーカーに踏まれるガムになりたい…!」などなど、推しにまつわる物体への転生欲求が「○○になりたい」というきまった言い回しでよくタイムライン上を流れていたのだ。

なにが言いたいかというと、目に見えない「文脈」をつかむためのヒントは案外「言葉」にあるのではないかということ。SNS上の言葉をただ拾っていくだけではいくら時間があっても足りないが、その言葉の集合体・クラスタとも言える「SNS構文」を発見することならむずかしくない。どこかのだれかがふとした思い付きで発した言い回し・言葉尻が第三者からの模倣を繰り返された結果、SNS構文として習慣化・癖化の一途を辿っていくわけだが、これはれっきとしたトレンドの尻尾だと思う。SNSトレンドを掴もうなんて思うとハードル高く感じてしまうが、SNS構文を見つけるためのアンテナを張っておくくらいが実は最もとっつきやすいアプローチなのかもしれない。

話は少し逸れるが、そして悪趣味なことは承知のうえで、自分は人のいいね欄をのぞきながら企画を考えることが多い。それはいいね欄そのものが「無意識の宝庫」だからである。だれかに見られていることを意識していいねを押している人はきっと少ないはずだから、本当にいいと思った・おもしろいと思った「無意識」が蓄積されているとも捉えられる。

(C)123RF

もちろん、SNS構文によっては意図して投稿するタイプのもの、おそろしいほどに意味を持たないもの、ただの悪ふざけなものも存在するが、無意識性の高いミームの種が奇跡的に紛れ込んでいたりもする。それを発見できたときにはじめてSNS文脈との歯車が合致した強い企画が生まれる予感がする。
なぜ人は二郎系ラーメンの写真を載せながら「スタバなう」とつぶやくのか。なぜ二項対立に幻のポケモン・ダークライを混ぜ込んで、半年ぶりのことを2億年ぶりと嘘をついて、朝から号泣するなどするのか。わけのわからないことだらけだが、そういったものもぜんぶひっくるめてSNSなのだと考えるととんでもなく愛おしい。

最後に、自分の推し構文について少しだけ話したい。これを読んでくださっている読者のみなさん、一度騙されたと思って「現象に名前をつけたい」とTwitterで検索してみてほしい。

「本屋にいるとトイレに行きたくなる現象に名前をつけたい」「トマトは苦手なのにミニトマトは食べられてしまう現象に名前をつけたい」などなど、名の付いていない現象が日々タイムラインに追加されていっているのだ。

天才的なコピーライティングの力が備わっているタイプの人間ではないのでひとつひとつにアンサーしていくような遊びは自分にはむずかしい。だからこそ、このSNS構文の活かし方をみなさんと一緒に考えたい。宣伝会議さん、いっそこれらをお題にコピーの登竜門でも作りませんか?深夜番組のディレクターさん、ラジオの作家さん、とにかくいろんな現象に名付けをしていくだけのニッチな番組を一緒につくりませんか?企業のマーケティング・宣伝担当のみなさん、貴社の商材に絡められそうな既存ツイートを見つけては拾いあげてみませんか?2022年になってもまだ名前の付いてない現象があるって本当に素敵なことだし、ある種のロマンではないだろうか。ご一緒してくれる方、ぜひぜひTwitterのDM(@coppeqn)にご連絡お待ちしております。よろしくお願いいたします。

※ピーピーエイド:ポケモンシリーズに登場する基本的な回復アイテムの一つ
※ミリしら:「1ミリも知らない」の略で、とある物事や作品についてほとんど知識がない人が、詳細を自由に想像し、アウトプットすること。