明治時代の創業から、130年以上青山で店を構える山陽堂書店の5世代目 萬納嶺氏にインタビュー。アイデアの宝庫である書店で働く視点から、その店ならではの特徴やこだわりを紹介する本連載。さまざまな思いを書店員が語る。日々新しい出会いを求めて書店に通う人、自分好みの書店に出会いたい人、とにかく本が好きな人に向けて、新たな書店の楽しみ方を提案する。
周囲との情報交換がアイデアに、本の制作過程も発信
――創業は明治時代とお聞きしました。
1891(明治24)年、明治神宮も表参道もない時代に山陽堂書店は創業しました。うさぎ年に開店したので、ちょうど干支を11周しました。僕で5世代目になります。
昭和50年代、近隣に美容院が増えた影響もあり、雑誌が飛ぶように売れていたと聞いています。かつては雑誌の売り上げが全体の7割を占めていましたが、現在は書籍が7割、雑誌は3割ほどとなっています。
――山陽堂書店ならではの特徴を教えてください。
2階にギャラリーを、3階では喫茶(不定休)を営業しています。ギャラリーでは本や青山の“まち”にまつわる展示をご覧いただくことができ、喫茶では本をゆっくり読むことができます。
店舗には昔から馴染みのお客さまや、近隣に居住している方の来店もあり、お客さまとのコミュニケーションも活発で、最近の街の様子などちょっとした情報交換も盛んです。喫茶で生まれる会話から本について教えてもらうことも多く、ギャラリーや喫茶でのイベント開催につながっていることもあります。
以前、ブックデザイナーの藤田知子さんにおすすめの一冊を共有いただいたことから、現在毎月開催している読書会「山陽堂ブック倶楽部」のアイデアも生まれたんです。
イラストレーター 和田誠氏がデザインを手がけた同店のブックカバーから生まれたオリジナルマグカップ(全8種類)は、1階で発売中。また、『中央公論』『考える人』など雑誌の編集長を歴任した河野通和氏の蔵書の中から選書された古書の販売を「河野さんの本棚」と題し、展開している。
――選書のこだわり、棚づくりの工夫を教えてください。
選書は当店で働いている皆で行います。それぞれがいいと思った本や、お客様との会話で気になった本などをセレクトして展開しています。本の魅力を伝えることや、作り手の熱量を感じられる書籍を置くという点も常に心がけています。


