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『anan』前編集長 能勢邦子氏が考える ビジネスに生きる編集術

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出版・メディアで仕事をする人にとって必要な能力のひとつ「編集力」。しかし、ビジネスの世界の意思決定はすべて適切な情報編集の先にあると考えると、広告・マーケティングの領域においても、表現力だけでなく情報の取捨選択・整理といった編集力が必要なのではないでしょうか。本連載では、出版業界の編集者の方はもちろん、広義の意味で編集力を生かされている方に、その編集術に対する考えを聞きます。

※本記事は、月刊『宣伝会議』で連載中の「クリエイター『私の編集術』」の転載記事です。

 

コンテンツディレクター
能勢邦子氏

『anan』前編集長。『Hanako』『POPEYE』元副編集長。2018年まで約30年間マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わる。著書『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』。学習院さくらアカデミーで「ビジネスに役立つ“編集力”」講座を不定期開催。

 

伝えたいものに対して明確で熱い想いを持てているか

編集とは何か?「誰かに何かを魅力的に伝えること」と私は説明しています。

あの店のあのオムライスを魅力的に伝えるにはどんな写真でどんな言葉で表現すればいい? 雑誌、Webメディア、カタログ、SNS…、どう伝え方を変えればいい? いわば情報伝達の工夫です。

そう考えると編集術がビジネスに生きるのは当然ですよね。企画書をつくり、プレゼンテーションする。上司に報告し、クライアントにメールする。Webで発信し、SNSで拡散する。広報、マーケティング、宣伝に限らず、すべてのビジネスは情報伝達のうえに成り立っています。

冒頭に3つの要素、①何を伝えるか、②誰に伝えるか、③どう魅力的に伝えるかと挙げましたが、この3つのうち一番大切なものは、誰が何と言おうと「①何を伝えるか」です。伝えたいものはこれだ! これを伝えたい! という明確で熱い“想い”があってはじめて魅力的なコンテンツになります。これは当たり前のように思われるかもしれませんが、何を伝えるか曖昧なまま、想いのないまま発信されるコンテンツが世の中にはたくさんあります。

伝えたいもの…、自社製品でしょう? 会社そのものだよ!と思ったかた、その製品の何が魅力なのか、会社そのものの売りは何なのか、そこを明確にする必要があります。友達に「すげぇ楽しいんだ」「めっちゃヤバいよ」と話す、その熱量を持てるまで考えます。

特にマーケティングに携わるかたは、②誰に伝えるか、③どう魅力的に伝えるか、から考えることが多いと思います。顧客(読者)をリサーチして分析する。F1層、Z世代といった属性から、顧客(読者)のニーズを探る。そういったデータ化、抽象化がマーケティングでもあるわけです。

さらに言うとマーケティング業界は流れが速くて、次々に事象が言語化されトレンドになり、そして形骸化していく側面もあります。言語化、可視化したパワーポイントの資料を何度もつくり替え最適化する(言語化、可視化、最適化もトレンドワードですよね)。それだけで満足しがちですが、そもそも①何を伝えるか、そこに想いはありますか? と問いたいのです。言語化したフレーズや可視化したグラフで逆に想いを見失っていませんか。

 

ビジネスで疎かになりがちな「何を伝えたいか」という議論

私は30年間マガジンハウスで雑誌や書籍の編集をしてきました。雑誌には読者がいるので、②誰に伝えるか、③どう魅力的に伝えるか、はある程度決まってきます。なので、①何を伝えるかに専念できる部分はあるでしょう。それでも編集部が①何を伝えるか、にかける時間や労力は圧倒的に大きいです。

編集長は何カ月も前から考えに考えて特集を決め、そこに編集者が考えに考えた企画を出し、さらにそれぞれの企画をアートディレクターも一緒に詰めていく。ライター、カメラマン、スタイリスト、イラストレーター…、スタッフとも打ち合わせを重ね、取材、撮影をしていく過程で伝えたいことの解像度が上がっていく。この想いの総体が熱量になり、それが高まれば高まるほど良いページ、売れる特集ができます。

ここだけの話、私がフリーランスになって一番驚いたのが、ビジネスで発信されるコンテンツが①何を伝えるか、について意外と誰も考えずにプロジェクトが進んでいくことでした。マーケティング的な分析を繰り返し、肝心の①何を伝えるか、は外注に任せてしまう。自社製品の魅力が企業の中の人にとっては当たり前になっていて「日本屈指の技術力」「唯一無二の逸品」と言葉だけを引き継いでしまう。

 

プロジェクトの規模が変わってもするべきことは同じ

つまり、ビジネスに生きる編集術とは、①何を伝えるか、を考えること。それも今一度、改めて、個人個人が徹底的に考えることです。

徹底的に考えるというと「考えるのは苦手」「何をどう考えるかわからない」と思われるかたもいらっしゃるかもしれません。

ところが、ですね。何を考えるかというと、決して難しいことではなくて、自分の感覚を整理してみるということなのです。

その製品を初めて見たときどう思ったか、どこに惹かれたか、何が使いにくかったかなど心が動いたこと、感じたことを洗い出していきます。マーケティングが抽象化の作業だとしたら、ここで考えるのは具体化の作業です。自分だったらこう使う、ここがスゴいのよ、これを伝えたい!という想いが湧くまで考えます(モノからコトへ、自分事などもトレンドワードですね)。

この考える作業、実は習慣のようなことで、もっというとクセになるのです。だから、想いのないまま発信しない、発信する前に立ち止まって考える、この習慣づけをするだけでコンテンツの質がずいぶん変わってきます。

上司に報告する前に、上手く行かない理由を聞いてもらうのか、予算をつけてほしいと要望するのか、伝えたいことを明確にする。クライアントにメールする前に、リスケしたいのか、取りやめたいのか、伝えた
いことを明確にする。ページをつくる前に、オムライスの味なのか、映えなのか、文豪のエピソードなのか、伝えたいことを明確にする。「伝えたいこと」「伝えたいこと」と呪文のように唱えながら試してみてください。企業のコンテンツ発信などプロジェクトが大きくなっても、やることは同じですから。

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