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AJINOMOTOが描く、これからの「顧客志向」マーケティング SIMC2023レポート

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SIMC(シンク)は、広告・マーケティング界の未来の姿を構想し、明日からの実務に活きるノウハウを提供する、株式会社宣伝会議主催のオンラインイベント「SIMC」。6月に開催された今、注目のテーマを網羅したプログラムに、最前線で活躍する多数のマーケターが登壇した本イベントから注目セッションをレポートします。

2022年、味の素・執行役常務就任。2023年4月にマーケティングデザインセンターを設立するなど、「味の素社のマーケティングプロセス」の組織改革を推進し、お客様に100年先も愛されるブランド創りを目指してきた岡本達也氏。「これからの顧客志向」を掲げ、チャレンジする同社のマーケティング戦略について、取り組みを紹介します。

企業を取り巻く環境に課題 「今、何をすべきか」が問われている。

本日は「AJINOMOTOが描くこれからの顧客志向マーケティング」と題して、話をさせていただきます。

私は味の素社で執行役常務としてマーケティング全般を統括しています。1987年に味の素社に入社してから、いくつかの関係会社での経験もしましたが、社歴のほとんどをマーケティングおよび製品開発の分野で過ごしています。

まず当社を取り巻く環境がどのようになっているか、外部環境と内部環境についてそれぞれお話させていただきます。

外部環境ですが、①スマートデバイスの普及に伴い世の中に大量に情報が溢れ、消費者の「食」のマインドシェアの低下、②お客様の行動が変化して、自分のライフスタイルに合ったものしか選ばない、③検討から購入までをひとつのプラットフォームで完結するサービスが増加、④サードパーティデータを使えなくなりお客様のニーズに合った情報を届けられない、という課題を抱えています。今まさに「ブランドとして選ばれ続けるために何をすべきか」が当社にとって命題となっているのです。

次に内部環境です。こちらでは①オンラインで顧客とつながり「体験価値とセットで提供される食と、食と健康の市場」に対して当社は十分なコンタクトポイントを提供できていない、②マスから1to1マーケティングへの変化に対応できず新たな価値製品、新領域新商品を生み出す力が低下、③コミュニケーション戦略がマス媒体戦略から脱却できておらず新たなメディア・クリエイティブ開発が限定的という課題を抱えています。

オウンドメディアで顧客と直接つながり濃密な関係性を作る

このような課題を抱える中、「ブランドとして選ばれ続けるためには何をするべきか」を考え、この4月にマーケティングデザインセンターを社内に設置しました。顧客の方々と直接つながって濃密な関係を築くことが目的です。

もともと当社は「AJINOMOTO PARK」という月間800万人から1000万人のユニークユーザーが訪れるオウンドメディアを持っています。ただ現状では訪問者は様々なSNSを通して当サイトを訪れるものの主たる目的はレシピの検索で、お客様と濃密な関係を築くという状況には至っていませんでした。そこで、まずは「AJINOMOTO PARKのPOND構想化」を考えました。具体的には①コンテンツを拡充、②パーソナライズド機能を備える、③強みの栄養提案の機能を備える、の3点を行いました。この中でお客様が回遊することによって、足跡を残していただくことができます。

次にお客様の足跡を解析するために、当社では独自のアルゴリズムに基づく解析エンジンを開発。顧客とダイレクトにつながるビジネスシステムを構築しました。データでつながったお客様に価値を還元するために、その方に合った商品やサービスをご紹介できるのではと考えています。

顧客データを活かす、新たなマーケティングサイクルの構築

「AJINOMOTO PARKの POND構想化」で得たお客様のデータを活かすため、当社では新たなマーケティングサイクルを構築しようと考えています。

まず「集客と体験」により強い愛着と熱狂を生み出す強力な集客コンテンツを開発してコミュニティー型ファンベースに進化させ、次に「DEEP ID」と呼ぶお客様の興味関心インサイトを解析できるエンジンを独自で揃えて、解析した情報をもとにお客様にあった「アジャイル型プロダクト・サービス」ができるように進めています。


データ 味の素 新たなマーケティングサイクルを実現する組織構想

そして、このマーケティングサイクルを実現する組織構想が上の図です。当社は今までBtoBtoCで製品をお客様にお届けしてきました。これからもこの販売チャネルがメインですが、それとは別に「AJINOMOTO PARK POND構想化」をもとにしてお客様に直接製品やサービスを提供するチャネルを作ろうと考えています。

マーケティングデザインセンターはプロフィットセンターとサービスセンターの役割が


データ 味の素 マーケティングデザインセンター 組織ポジション

マーケティングデザインセンターは上の図にある通り食品事業部長の下に統括部門があり、その下に設置しました。お客様と直接つながってD2C、ECで製品を開発、販売をして行くというプロフィットセンターとしての機能と、それに合わせて①マーケティングの人材の高度化、②マーケティングのモデルの高度化、③全社の顧客基盤となるファーストパーティーデータの収集、④コミュニケーション戦略やクリエイティブの創出というサービスセンターの2つの側面を持ったユニークな組織になっています。

マーケティングデザインセンターには「マーケティング開発部」と「コミュニケーションデザイン部」という組織があり、各事業部の仕事のルーティンの中に、当センターのメンバーが最初から入って行くシステムを構築しています。

このシステムを使って得られた知見を活かしていくために、製品開発においては、「インサイトベースの価値提供に立ち戻る」ということが大事であると思っています。

製品/市場など「具体」で起こった事象を、一度「抽象」に落として生活者のインサイト、あるいは提供価値に立ち戻る、そしてもう一回「具体」に戻り戦力を描くという思考過程に立ち戻りたいというふうにも考えています。


データ 味の素 生活者への「インサイトベースの価値提供に立ち戻る」

PESOをワンストップで戦略構築1to1コミュニケーションを実現へ

次にコミュニケーションですが、前編のマーケティングデザインセンターの組織ポジションの図に記載しています。マーケティングデザインセンターの下にコミュニケーションデザイン部を設置することにより、クリエイティブやメディアプランニングメンバー等を集結させて、ワンストップでPESOモデルを実現できると考えています。

またコミュニケーションデザイン部のペイドメディア、オウンドメディア、シェアードメディア、アーンドメディアが事業部と一体になりPESOを推進しています。


データ 味の素 コミュニケーション組織の改編と業務スタイルの変革

コミュニケーションの質の向上にも取り組んでいます。現在、多くの皆さまは大量の情報がある中で本当に興味関心のある情報を選んでおられます。そこで当社としてもメーカー発信からインフルエンサーやUGC配信に移行することにより、生活者の方と1to1でつながるデータを大量に取得し、さらに精緻化することができると考えています。

そして、オンライン・オフラインの活動を融合して、生活者の興味関心ある情報を多面的に共有することによって数倍の効果が得られると考えています。


データ 味の素 コミュニケーション組織の進化

このような取り組みのもと、最近少しずつ成功事例を実現しています。最適のメディアミックスで、これまでの味の素社にはできなかったユニークなクリエイティブにより、「Cook Do(R)」オイスターソースが今年3月に3年ぶりにトップシェアを奪還しました。

オンラインで「食」と出会いオフラインの家族との時間を充実させたい


データ 味の素 実現したい世界;オンラインとオフラインをプッシュする

最後に2030年に目指したい世界観についてお話ししたいと思います。上のスライドは当社が今後5年程度で実現したい世界です。食の世界は、最後に「食べる」という体験がクライマックスで、その後に当然オフラインの中で「ご家族あるいはその友人の方と会話をする」ことが価値です。その価値や体験を生み出すためにオンラインが欠かせないと思っています。ここを充実させるということによって、オフラインがさらに素晴らしいものになるという世界観を実現したいと思います。そしてそれが味の素グループへの愛着につながると考えています。

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味の素株式会社
執行役常務
食品事業本部副事業本部長 兼 マーケティングデザインセンター長
岡本 達也氏

1987年味の素㈱入社。1996年から家庭用商品(「ほんだし(R)」「Cook Do(R)」「クノール(R)カップスープ」他)のマーケティング業務に従事。2014年味の素冷凍食品㈱出向し「ザ★(R)」シリーズを手掛ける。2022年味の素㈱執行役常務就任。2023年4月マーケティングデザインセンターを設立。「味の素社のマーケティングプロセス」の組織改革を推進し、お客様に100年先も愛されるブランド創りを目指す。