「ドイツで受賞の嵐!メディアリレーションズ革命」IPRN年次総会ベストプラクティス紹介

世界最大級の独立系国際PRネットワーク、IPRN(International Public Relations Network)の年次総会を、コミュニケーション・PRのコンサルティング会社Key Message Internationalの岩澤康一氏がレポート。今回紹介するベストプラクティスについて筆者は「メディアリレーションズは、 人間関係、スピード、質、あとは携帯電話があればいい。基本のキが生んだ革命」と言います。本稿ではIPRN年次総会でアワードを受賞したベストプラクティス(好事例)を紹介します。

メディアリレーションズ(メディアとの関係づくりと、結果としての、取材誘致、記事露出を目指す活動)は広報の基本といって差支えないと思います。

メディアと、そこで記事を書いたり、報道に携わっていたりする記者が、広報にとって一番メジャーな仕事相手、ステークホルダー(利害関係者)でしょう。

自分たちの組織や製品、サービスについて、望ましい形で報道してもらったり、記事に書いてもらったりすることは、広報担当者に期待される成果の代表的なものです。

しかしながら、メディアも記者も、広報担当者の思う通りに動いてくれるわけではありません。世の中のトレンドやニュースも、広報担当者のために起きているわけでは当然ありませんね。

広報担当者がメディアリレーションズで思うような成果を上げるためには、広報担当者と記者とのあいだで、互いのことを信頼し尊敬しているようなよい人間関係が必要です。また、その記者が書きたいネタを書きたいときに提供するための、情報収集のスピードと正確さ。そこに提供する情報の質がともなうことで、広報担当者にとっても記者にとっても、望ましいメディアリレーションズが成立します。

とはいえ「言うは易し、行うは難し」です。


写真 人物 TDUBのTilo Timmermann氏
IPRNプエルトリコ年次総会で受賞したTDUBのTilo Timmermann氏

「Rapid Response PR」革命がドイツを席巻

ドイツのハンブルグに本社があるTDUB社は、今年のIPRN年次総会で「Member of the Year(最も優れた業績をあげたメンバー)」を受賞しました。

これは主に、同社が2021年からサイバーセキュリティ関連のIT会社をクライアントとして実施してきたメディアリレーションズ活動、同社が提唱する「Rapid Response PR(Rapidは迅速な、Responseは反応という意味)」の成果を表彰したものです。

「Rapid Response PR」の手法によって、同社は2022年、ドイツや欧州で行われているPR関連のアワードを多数受賞しました。

世界でも有数のビジネス表彰プログラムで、毎年60以上の国と地域の企業・事業者がエントリーするスティービー賞(The Stevie Awards)のドイツ部門では、「テクノロジー」、「レピュテーション/ブランドマネジメント」、「コーポレートコミュニケーション」、「メディアリレーションズ」のPR関連4分野で、グランプリを受賞。

ドイツ国内で行われているPR Report Awardでは、「メディアリレーションズ」と「B to B」部門で受賞。

「欧州のPR事例チャンピオンシップ(筆者和訳)」とよばれる、European Excellence Awardsの2022年大会では、グランプリ候補にノミネートされました。


実データ スティービー賞ドイツ部門で、PR関連4分野でグランプリ受賞(TDUB社作成のスライドから抜粋)
スティービー賞ドイツ部門で、PR関連4分野でグランプリ受賞(TDUB社作成のスライドから抜粋)

実データ PR Report Award 2022では2部門で受賞(TDUB社作成のスライドから抜粋)
PR Report Award 2022では2部門で受賞(TDUB社作成のスライドから抜粋)

実データ European Excellence Awards 2022ではグランプリ候補にノミネート(TDUB社作成のスライドから抜粋)
European Excellence Awards 2022ではグランプリ候補にノミネート(TDUB社作成のスライドから抜粋)

革命は従来のメディアリレーションズ手法を尊重することで生まれた

どのような点でTDUB社のRapid Response PRは優れていたのでしょうか?

TDUB社からIPRN年次総会に参加していたTilo Timmermann(ティロ・ティマーマン)氏によれば、「受賞後に多くのアワード審査員と話してきてわかったことは、Rapid Response PRは、これまでに積み上げられてきたメディアリレーションズの手法を捨てるのではなく、むしろ敬意を示すことで実現した、『進化系』として評価された」とのことです。

以下、その概要です。

クライアントはフィンランド系のサイバーセキュリティ関連IT会社、F-Secure(エフ-セキュア)社。TDUB社へ支払われる月々の予算は5,000から8,000ユーロほど(現在のレートでは、日本円で約80万円から130万円ほど)。TDUB者側の担当者は3人とのことです。

クライアントの目的は、ウィルスソフトを提供するB to C(消費者向け)の会社から、サイバーセキュリティ問題のエキスパートとして信頼されるB to B(企業向け)の会社への、認知やブランドの移行でした。

そのためにTDUB社は、F-Secure社がサイバーセキュリティ業界内でも指折りの専門家集団として社会に認知されるために、主にF-Secure社の専門家であるRüdiger Trost(リュディガー・トロスト)氏を前面に押し出すことによって、業界のソートリーダーシップ(ご意見番になることで業界をけん引する存在として認知されること)を確立することを目指しました。

そこで導入したのが、TDUB社が提唱する「Rapid Response PR」の手法です。


実データ Rapid Response PRの概要とF-Secure社のRüdiger Trost氏(TDUB社作成のスライドから抜粋)
Rapid Response PRの概要とF-Secure社のRüdiger Trost氏(TDUB社作成のスライドから抜粋)

連絡開始から1時間以内に大手メディアで社名の露出にいたる仕掛けとは?

これにはまず、普段からAgenda Surfing(社会の話題、議題を頻繁かつ定期的に確認する作業)をしておいて、サイバーセキュリティ関連(ランサムウェアによる攻撃や情報漏洩など)の問題発生になるべく早く気づく体制を築いておくことが必要です。

すばやく問題発生に気づいたら、TDUB社が朝は7時から夜は10時まで携帯電話で対応可能なF-Secure社の専門家に連絡をします。

並行して、長年の人間関係づくりの結果、信頼し尊敬し合っていて、すぐに連絡できる有力メディアなどの記者へ電話連絡をして、発生した事象についての専門家のコメントが必要かどうかを確認します。

そしてF-Secure社の専門家は、同社のサイバーセキュリティ監視システムや報告事例などを参照して、記者が引用しやすいようなステートメント(記述されたコメント)を準備します。

TDUB社は再度、記者に必要な内容などを確認したのち、作成された情報をメールで記者に送付します。この際に、クライアントであるF-Secure社が情報発信元であることを書き加えます。

これらの主に携帯電話で行われるやりとりは1時間以内に終了します。そして、やり取り開始から1時間以内には、ドイツ国内の有力メディアなどにはTDUB社のクライアントであるF-Secure社の名前をともなった専門家コメントが発出されることになります。


写真 人物 TDUB社の担当者Karsten Hoppe氏
携帯電話で記者に連絡を取るTDUB社の担当者Karsten Hoppe氏

TDUB社によるRapid Response PRによって、F-Secure社が言及された記事・報道数は実施後半年で2,000件ほど、2021年末時点では5,100件以上。F-Secure社のウェブサイトが訪問された回数は月間で26億回を超えました。競合企業との市場占有率の比較において、業界内でF-Secure社が言及されたサイバーセキュリティ関連の記事は、Rapid Response PR実施前は17%、実施後は44%。時に50%を超えました。

ドイツの有力メディアであるZeit紙(ハンブルグ本社のドイツ全国紙)、ZDF局(ドイツ第二テレビ)、Handelsblatt(ドイツの有力経済紙)、dpa(ドイツ通信社)やSpiegel(発行部数がヨーロッパで最大のドイツ週刊誌)など、そうそうたるメディアでの頻繁な記事露出を獲得。

Welt紙(ハンブルグ本社のドイツ日刊紙)主催のデジタルセキュリティ関連のTVイベントへの出演など、リュディガー氏を前面にしたF-Secure社のソートリーダーシップ確立は大きな成果を収めました。


写真 人物 デジタルセキュリティ関連のイベントでTV出演するRüdiger Trost氏
デジタルセキュリティ関連のイベントでTV出演するRüdiger Trost氏/figcaption>

2022年春ごろからは、B to B向けの社名・ブランド名として、F-SecureからWithSecureへの変更を実施。名実ともに、B to B向けの会社・ブランドとしてその地位を確立しました。


TDUB社の主担当者、Karsten Hoppe(カーステン・ホップ)氏のコメントが、Rapid Response PRの本質をよく表しています。


彼によれば同取り組みは、「(ラピッド=迅速に、という)名前とは逆に、スプリント(短距離走)ではなく、マラソン(長距離走)です。スピードに加えて質も大事です。Rubbish(ゴミ)ではダメ。メールやチャットよりも電話でのパーソナル(個人的な)なやりとりによる、ピープルズビジネス(人と人とのつながりが大事なビジネス)だということです。」


メディアリレーションズの革命は、こうした基本を大事にすることが引き起こしたと思うと感慨深いです。


次回も引き続き、IPRNプエルトリコ年次総会で発表されたベストプラクティスを紹介します。ぜひご期待ください。


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岩澤康一(Key Message International代表取締役)
岩澤康一(Key Message International代表取締役)

国内/外資のファームでデジタル、グローバルな広報・PR経験を積んだコミュニケーションの専門家。TBSワシントン支局に勤務後、在シリア日本大使館広報文化担当官、日本国際問題研究所広報部長などを歴任。米アメリカン大学より国際平和紛争解決法修士号、早稲田大学よりジャーナリズム修士号取得。通訳案内士(英語)。PRプランナー(PRSJ認定)。情報経営イノベーション専門職大学非常勤講師。

岩澤康一(Key Message International代表取締役)

国内/外資のファームでデジタル、グローバルな広報・PR経験を積んだコミュニケーションの専門家。TBSワシントン支局に勤務後、在シリア日本大使館広報文化担当官、日本国際問題研究所広報部長などを歴任。米アメリカン大学より国際平和紛争解決法修士号、早稲田大学よりジャーナリズム修士号取得。通訳案内士(英語)。PRプランナー(PRSJ認定)。情報経営イノベーション専門職大学非常勤講師。

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