こんにちは。西武ライオンズ広報部長の赤坂修平です。
2週間前にコラムを更新した時は全カード勝ち越しで首位にいましたが、その後は連敗とカード負け越しが続き単独最下位。とはいえ、まだ4月。長いペナントレースこれからです。
さて前回は、企業広報とは異なる、球団とメディアの関係についてお話しました。3回目は「『攻め』とは無縁だった球団広報の意識変革」です。
現在、西武ライオンズの広報部には私のほか、9人のスタッフが事業広報、チーム広報、SNS担当といったチームに分かれて広報関連の業務にあたっています。今回はそのような体制の中で2023年以降、どのように意識を変えて、業務に挑んできたのかを振り返りました。「仕事の捉え方と、仲間をハッピーに」がポイントです。
初のキャンプ帯同で驚き「新聞、チェックしないの?」
私が西武ライオンズの広報部長に就いた1カ月後(2023年2月)。チームと共に宮崎県日南市で春季キャンプに帯同することとなりました。広報部の担当業務は一通り経験したかったため、私は前日に宮崎入りし、空港での歓迎セレモニーの対応を買って出ました。
「赤坂さん、初めてですが大丈夫ですか?」と部員も心配をしていましたが、イメージもわくので大丈夫と言ってやらせてもらいました。チームが到着する1時間前に空港へ着くと、なんと多くのファンの方々が既に待っていて、メディアの取材スペースはありませんでした。
慌ててファンの方々に平身低頭でお願いし、スペースを空けていただき、何とかその場を凌ぐことができました。ファンとチームの方が一緒になる場が初めてだったため、改めてプロ野球の人気の高さを感じた瞬間でしたが、本当に肝を冷やしました。
翌日からいよいよキャンプが始まりました。朝一番、広報担当は近くのコンビニで新聞を購入し、監督・コーチ室、談話室など所定の場所に配置していきます。
前日は空港セレモニーもあったので、多くの記事が出ていました。内容をチェックし事実と齟齬がないかを確認。役職は部長ですが、当然担当した案件です。「この新聞なら、この面に出てますよ!」ということで監督や選手の皆さんが見やすいように、新聞一つひとつに付箋を貼りました。
キャンプ2日目以降は、選手に関する記事が各紙に連日掲載されていましたが、それを広報担当がチェックしている様子がありませんでした。
最初は忙しくて確認する暇がないのかなと思い、数日様子を見ていましたが、変化はありません。どのような論調で掲載されているか、扱いはどうなのか確認をしないまま、新聞を配っているのです。
記事の共有目的は、自社または業界動向を把握し、関係者に共有することで、それぞれの業務に活かしてもらうためです。これを業界では「クリッピング」といいます。
私が若かりし広報担当のころ、掲載記事を切り貼りしてクリッピングをつくる際、部長から「これは広報部から社内の関係者に対してのラブレターだ」と言われました。何を一面に持ってくるのか、経営陣や社員がいま興味を持っている内容が入っているかなど想いを巡らせ、朝早く出社し作っていました。
広報戦略実行の前に必要だった「意識改革」
話は戻ります。ライオンズの広報担当者たちは、一生懸命仕事はしていましたが、なぜ新聞を配るのか、またその他の業務も、目的がしっかり理解できていない様子が間々見られました。
前回のコラムでお話しした通り、ライオンズは2022年の観客動員数が12球団最下位でした。事業を継続して伸ばしていくためにはファンの数を増やしていかなくてはなりません。
プロ野球事業だけで言えばKGI(経営目標達成指標)はファンクラブ会員です。ライオンズは40代後半の男性の方がボリュームゾーンですが、事業を安定して長く続けていくためには、若返りが必要です。よって今いない属性(潜在顧客層)へ情報を届ける必要があると強く認識しました。
そのためには戦略が必要です。戦略を立案するためには、網羅性や、だれに対してもある程度の納得感も必要なため、ビジネスフレームワークを用いて、現状把握と初期的な課題を分析しました。これらは経営企画を経験して得たスキルですが、この広報戦略はまた次回お話しします。
広報部のミッションは私の仕事ですが、当然全てを一人ではできません。業務を部員に振り分けてやってもらう必要があります。しかし、部員は私のことをよく知らないので、そんな人が立てた戦略を「はい、わかりました」と気持ちよくやってくれるわけがありません。戦略を説明する前に、まずは部員の信頼を得ていく必要があると思いました。
そこで親しい記者の方に数年ぶりに連絡し、立て続けにアポを取り、メディアの方々と情報交換を重ねていきました。
「NewsPicksに取材されたい」若手部員の成功体験
ある日、最年少の部員に声をかけ外へ連れて行きました。どうやら今から行くメディアにライオンズを取り上げてもらうことが一つの目標だったというのです。若い方に支持が高いNewsPicksでした。
事前に用意していた企画を担当が説明するのですが、緊張のせいか、いつも流暢に話せるのですが、この時はそうではありませんでした。しかし熱意も伝わり、取材いただく機会を獲得することができました。
実はこの企画、私には勝算がありました。なぜならWBCで右手小指を折りながら最後まで試合に出て大活躍した源田壮亮選手と、ビジネス界隈で話題の「パワーナップ」の組み合わせだったからです。
試合前、集中力を高める一環としてロッカールームで源田が仮眠をとっていたことを把握していました。それを「源田×仮眠×ビジネス」で取り上げてもらうことで、若いビジネスパーソンという今いない属性(潜在顧客層)へ情報を届けることができると踏んでいたからです。
別の担当者にも「こうすればきっと取材が獲得できるかもよ」とアドバイスし、このようなケースを積み重ね、少しずつ信頼を獲得していきました。この時、朝礼や定例ミーティングで常に伝えていたのは「後ろ向きに転ぶのはダメだけど、前向きはOK」です。
これは、チャレンジ案件や期日前にいろいろと挑戦してみて上手くいかないことは「よし」としますが、約束した期日までに担当した業務ができないのは、責任感に欠けるからです。
自分も昔はたくさんチャレンジし、その分多くの失敗もしました。若い時は「あかさかサン」ではなくジョークで「あさはかサン」なんて呼ばれていたエピソードも伝え、チャレンジしやすい環境もつくっていきました。
そして今やっている仕事は、何のためにやり、目的は何かを常に問い続けました。そうすることで、各種業務も見直しが図られ、それぞれ担当者の意識も変わっていきました。
男性ファッション誌、エンタメ誌にも選手が登場
ここまでくれば、広報戦略を広報部員にしっかり説明し、動いてもらうタイミングです。部員への伝え方にも一工夫しましたが、それはまた次回お話しします。
その後は、前述の最若手の広報担当は、今いない属性(潜在顧客層)が好む媒体に対してアプローチを続け、エースの髙橋光成投手を男性向けファッション誌『Safari』(日之出出版)への掲載に結び付けたのです。
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本日1/25(木)発売『Safari』3月号に#高橋光成
投手が登場!
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「アスリートとファッション」のコーナーで、編集部にご用意いただいたハイブランドを完璧にコーディネートしてもらいました。
いつもと一味違う高橋投手、ぜひ本誌でご覧ください!#埼玉西武ライオンズ
#seibulions pic.twitter.com/tjR8Fzd5Wh— 埼玉西武ライオンズ (@lions_official) January 25,
2024
また、ライオンズのレジェンド・栗山巧選手、そして若手選手を女性向けエンタメ誌『JUNON』(主婦と生活社)で取り上げていただく機会も生み出しました。同時に、同誌の企画「JUNON TVくじ」という選手のアクリルスタンドなどのグッズが当たる、オンラインくじ企画にも参加させていただきました。
さらに、#栗山巧
選手だけではなくライオンズの投手陣特集も!#高橋光成
投手、#隅田知一郎
投手、#佐藤隼輔
投手、#武内夏暉
投手、#今井達也
投手の5名が代表として登場しています。▼アザーカットを使用した「JUNON TVくじ」も近日中に開催予定です。https://t.co/dKz9Vxxhsj#seibulions pic.twitter.com/mfW1eYycau
— 埼玉西武ライオンズ (@lions_official) February 23,
2024
さらにTBSの番組でライオンズの公式パフォーマンスチーム「bluelegends(ブルーレジェンズ)」の密着取材をしていただくなど、目覚ましく成長していきました。
他の部員も同様に、自ら取材機会を提案する楽しさを知り、取材は捌くものではなく“獲ってくる”ものだと、意識が切り替わったと手応えを感じました。
自分も若いころ、上司に褒められることでやる気になりました。西武グループには「Good Jobカード」というものがあり、上司が直筆でよい仕事を称えるツールがあります。それを書き、みんなの前で読み上げ「本当にありがとう」と伝えて渡しました。
少し日が経ち、最若手の担当が顔をほころばせながら、私の所に小走りで歩み寄り「社長に褒められました!」と教えてくれました。ただでさえも忙しいなか、一人の若い広報人財をしっかり見てくれている経営陣の下で、同じ思いで働くことができていることを、私自身がむしろ誇りに思いました。
2024年の広報部は、仕事を「志事」と捉える
私の仕事の捉え方は「自分の仕事を仲間がやってくれている」です。それがルーティンワークであっても常に感謝し「ありがとう」と伝えています。
ルーティンワークは必要な業務であり、部の業務の基盤です。まさに一隅を照らす仕事です。また部員が案件を報告する時にデスクに来た時は、目線を同じにするため立って話を聞くようにしています。長くなりそうなら、デスクの横の袖机に促し、じっくり聞いています。自分のことは後回しでいいのです。
ですから仲間たちには感謝しかありません。ライオンズでの広報業務を通じて、スキルやノウハウを得てほしい。今の時代、一つの会社に長く勤める人ばかりではありませんが、どの会社に行っても活躍できる広報マンになってもらいたい。そんな思いで仲間と接しています。仲間たちには楽しく仕事をしてハッピーになってもらいたいです。
2024年の広報部は「仕事」を「志事」として捉えることを約束事としています。
やりがいを持ち、ライオンズを愛するファンのために業務に挑む。まだまだ自分も含めてほど遠いですが、この仲間たちと一緒だったら叶えられると信じています。
次回は、経営企画や事業マネジメントの視点を「広報」に活かした「シン・広報戦略」についてお話しします。
「西武ライオンズ広報変革記~やる獅かない2024~」バックナンバー
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