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コラム

成長企業が実践する「評価される」広報チームのつくり方

広報PRパーソンの「スキルマトリックス」をつくってみた、という話

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こんにちは、株式会社はねの矢嶋です。前回のコラムから時間が空いてしまいましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

第7回となる今回のテーマは、「広報人材の育成」についてです。

これもスタートアップに限らず、事業会社の広報マネージャーや経営陣の方から本当によく相談を受けるテーマです。

また、現場で日々頑張っている広報担当者の方からも「社内外を見渡しても、広報パーソンとしての理想的なキャリアステップがわからない」「ロールモデルとなる人が社内にいない」といった声をよく聞きます。

私もLINE、メルカリ時代、急速な事業成長に伴って広報組織が拡大していくなかで、一人ひとりのメンバーにいかに活躍の機会を提供し、成長実感を持ってもらいつつ早期に育成していくか、という点については「評価されるチーム」をつくる上でも最重要課題のひとつであり、永遠のテーマでありました。

 

一番わかりやすいのはマネージャーポジションへの登用

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第4回の「ひとり広報」の回でコメントした通り、一番わかりやすいキャリア上のステップアップはマネージャーに抜擢することでしょう。

なぜなら、自分で手を動かすのではなく、他者(配下のチームメンバー)をマネジメントしながら、チームとしての成果達成を目指すことは全く別のチャレンジだからです。加えて、実行業務から一部切り離し、経営との対話機会が増えることで視野・視座が広がり、「経営の言語」を操れるようになることも期待できます。

一方で、悩ましいのが、マネージャーポジションというのは「枠」があり、急成長中のスタートアップ企業でもない限り、急にポジションが増えるわけではない、という点です。

現場の広報担当者本人が「成果を出している」という自己認識もあり、マネージャーポジションへの昇格を期待していたとしても、既にマネージャーや担当役員がいて「枠」が埋まっている場合、昇格させようにも無い袖は振ることができません。

 

「肩書き」「ポジション」に縛られず、成長を実感できる仕組みを

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また、別の話として、時代的な変化かもしれませんが、そもそもマネージャーや役員など「管理職になりたい」という志向を持たない人も増えていますし、正社員として働きながら副業にチャレンジするなど、働き方も多様で自由になりつつあります。

そういったなかで、いかにメンバーの成長実感を引き出し、早期に育成を図っていくか。

私もメルカリ時代、ありとあらゆることを試しました。会社のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)に紐づいた広報チームとしてのMVVをチームメンバー全員で議論して策定したり、社外のゲストを招いた勉強会や他社の広報との交流会など「社外」との接点をつくることでメンバーの目線を引き上げたり、自己学習の金銭的サポートや、チャレンジングな業務アサインメントを行ったり……。

今回、その取り組みのひとつとして、私がメルカリ在籍時代にトライアルとして策定した<広報PRパーソンの「スキルマトリックス」>をご紹介したいと思います。

 

PRパーソンのスキルマトリックスとは何か

人事評価の仕組みとして、社内の等級制度を通じ、担当者の等級に応じて適切に人事評価・フィードバックを行うのが一般的かなと思います。

しかしながら、社内の等級制度は、当然ながら全社共通で定義されており、すべての職種に適用できるように抽象度が高い内容になっています。特定のポジションに特化して書かれているわけではないため、「具体的に何をどこまでできるようになったら昇格できるのか」がイメージしづらく、成長ステップのベンチマーク(モノサシ)にはなりづらい、という問題があります。

これに対して「PRパーソンのスキルマトリクス」は、会社全体の等級制度(グレード定義)の項目と整合させつつ、会社が規定する2つのキャリアパス「マネジメント」「スペシャリスト(Individual contributor)」それぞれのグレードにおいて求められるPRパーソンのスキル要件・資質を明文化したものになります。

これは、既にメルカリのエンジニアチームが策定していた「Engineering Ladder」など、先行事例がいくつかあったため、これらを参考に私が草案を作成し、マネージャー陣と何度かにわたる議論を行った末にチーム内に公開しました。

グラフ その他 Engineering Ladderの例
参考:Engineering Ladderの例
出典:「キャリアの明文化から3年間、どんな変化が? Engineering Ladderの活用と改善」

 

5つのスキルマトリクスの構成要件

機密保持の関係もあり、全文をつまびらかに公開することは控えさせていただきますが、メルカリPRチームより許可を得たうえで、一部抜粋してご紹介したいと思います。

基本思想としては、会社全体のグレード定義をベースに、PR業務に固有/共通のスキル要件・資質として以下の要件を定義しました。

  • 1) 見立て力(ポジ発信)
    →社内外の動向や世論の動き・トレンド、本質的な事業課題/経営課題を踏まえた適切な見立てを通じ、事業/経営に貢献する成果を創出するプランニング能力
  • 2)リスク対応力(ネガ抑止)
    →顕在化の有無を問わず、社内のリスク・イシュー事案に対して適切なリスク判断/評価のもと、関係部門と連携/調整して適切に対応を行うことができる能力
  • 3)プロジェクトマネジメント力(上位グレードはマネジメント力に互換)
    →自身の専門性をもとに、チームメンバーや他部門を巻き込みながら、適切なプロジェクトマネジメントを通じ、課題解決を行い、成果を創出する能力(スペシャリスト)
    →上位戦略に基づいた適切なチームマネジメントを通じ、チームとして成果を創出する能力(マネジメント)
  • 4)関係構築力(社内・社外)
    →社内外のステークホルダーと適切な信頼関係を構築できる能力。社内においては経営陣や事業部、マーケティング部門等との信頼関係構築、社外においては主にメディアとの関係構築
  • 5)基礎スキル
    →PRスキルのみならず、事業グロースや経営視点でコミュニケーションの設計をするための付随知識を有している(ロジカルシンキングやファイナンス、マーケティングに関する基本的な知識・理解)

もしかしたら、一見して「なんだ、こんなものか」と思われた方もいるかもしれません。

ポイントとしては、これらのスキル要件のどれかひとつ満たしていればOKということではなく、大きな成果達成に向けては複合的な要件が必要になる、ということです。

そもそもPRという仕事は広報チーム単体で成立するものではありません。いかにプランニング能力(見立て力)が高くても、経営陣や他部署との信頼関係が構築できていなければ彼らの協力を得ることは難しいでしょうし(関係構築力)、適切にプロジェクトマネジメントできなければ旬のタイミングを逸してしまう可能性があります(プロジェクトマネジメント力)

社外の視点で言えば、いかに良いPRストーリーが描けたとしても、それを届けるべき記者を特定し、良好な関係性が築けていなければ、アウトプットも中途半端なものになってしまいます(関係構築力)

また、事業が拡大していく過程においては、メルカリの現金出品問題やコロナ禍のマスク転売問題に見られるように、意図せぬ不適切利用や社会からの軋轢に直面することもあるなかで、潜在的なリスク・イシューの端緒を掴み、適切に対応できなければ、これまで築き上げた信頼を一瞬で失うことにもなりかねません(リスク対応力)

加えて大前提として、広報のスキルだけでなく、ロジカルシンキングやファイナンス、マーケティングなど、ビジネスパーソンとして当たり前の知識を有していなければ、経営陣や記者と対等に対話できるようになるには望むべくもありません(基礎スキル)

 

上位グレードになるほど経営や事業への高い貢献が求められる

また、上位グレードになればなるほど、求められるスキル要件は高くなります。

例えば、「関係構築力(社外)」では「自社の事業・サービスを適切に記者に説明することができる」が最低要件になりますが、上位グレードになると「シニアレベルの記者(編集委員、編集長)や有識者に対して、自社の戦略や事業説明に留まらず、同業他社や業界全体の動向など広範に意見交換ができ、頼られる関係性が構築できている」が要件になります。

また、期待成果も上位グレードになるほど、自身の担当領域に限らず、全社やグループ全体など自社はもちろん、業界や社会に対するインパクト=「アウトカム」が重要になり、メディア露出やプレスリリースの数といった「アウトプット」に対する重み付けは相対的に軽くなっていくロジックになっています。

グラフ その他 「PRパーソンのスキルマトリクス」イメージ図
「PRパーソンのスキルマトリクス」イメージ図(筆者作成)。

このスキルマトリクスの活用シーンとしては、マネージャーとメンバー間での1on1や評価面談の場で今後のキャリアについて対話する際、参考指標として利用してもらうイメージです。

このグレード別のスキル要件をもとに、各メンバーが自分のスキル特性や得意/不得意領域を認識し、さらなる成長に向けて何をどの水準までできるようになっているべきかイメージできるようにすること。さらには、それをマネージャーと目線合わせすることにより、メンバー本人の適性や志向性を踏まえた業務アサインメントがしやすくなることを効果として期待しました。

(ちなみに、スキルマトリクス内にはグレード別に私やマネージャー陣が推奨する書籍やセミナーなどを「リソース(参考情報)」としてリストアップし、上位グレードに到達するための自己学習の参考にできるような仕組みも入れました)

 

スキルマトリクスの効果はどうだったのか

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果たして、この「PRパーソンのスキルマトリクス」は効果的に機能したのでしょうか。

私は2023年の3月に退社してしまったので直近の状況はわかりませんが、少なくとも私が在籍している間においては「トライアルの最中」であり、発展途上段階でした。

ただ、「PRパーソンとしての成長」という曖昧模糊とした状態でやみくもに努力するよりも、必要なスキル要件を因数分解することにより、全てを満たすロールモデルはチーム内にいなかったとしても、例えば「プロジェクトマネジメント力」は「他部署のこの人が得意だから聞いてみよう」といったように、他部署や社外で突出した特定要素を持っている人にヒントを求めるきっかけになれば良いなと思っています。

今回はこの辺で終わりにしたいと思います。次回コラムをお楽しみに。

引き続き、ご質問をお待ちしています

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