アドタイをご覧の皆さん、こんにちは。このメディアを見られている方の中には、マーケティングやブランディングなど、物事をクリエイティブに前進させることをミッションにされている方が多くいらっしゃるかと思います。私もその一人で、Konelというクリエイティブ集団を経営しながら、プロジェクトデザイナーとして様々なプロジェクトに関わり続けています。
人工筋肉を応用した柔らかいロボットに身を委ねる「無目的室」をブリヂストンと共創したり、睡眠を持ち運ぶ未来型ウェア「ZZZN SLEEP APPAREL」をNTTグループとのコラボレーションで生み出して大阪・関西万博で発表したり、東急エージェンシーとのタッグで感情から味覚推定をしてオーダーできる「Amazon Bar」をオープンしたり、体験を伴う、そして関係者の多いプロジェクトに従事しています。
私が新卒入社したアクセンチュアで数年間、左脳を使いすぎた反動で右脳的に立ち上げたチームがKonelで、クリエイティブ産業の面白みにすっかりハマってしまってから、かれこれ15年ほど経ちましたが、実感を伴って気づいたことがあります。
成功するプロジェクトには共通点があり、失敗するプロジェクトにも共通点があるということです。
受発注の責任は50:50
その共通点の半分は、受注側(エージェンシーやクリエイター)にあります。うまくいかないプロジェクトは、課題を解釈するスキルが未熟だったり、進行管理が至らないことで、失敗の可能性を高めてしまいます。もちろん、最初からうまくできる人なんかいないので、先輩の背中を見たり、本から学んだり、経験を通してスキルアップしたり、会社から研修に派遣されたり、最近では自費でアカデミーに通う人も増加傾向にあります。
僕も20代の頃、さとなおさんが運営される「さおとなおオープンラボ」に参加して、休日に同志たちと真剣に学びあい、コミュニケーションプランニングの基礎をみっちり叩き込んでもらいました。20代の自分にとっては財布と相談したくなる金額ではありましたが、当時の自分に礼を伝えたいくらい、学びへの投資は効果がありました。
日本のクリエイティブ産業は、こういった学習機会が豊富です。今日からクリエイターを目指そう!と志を持てば、すぐに学び始めることができます。俯瞰して見れば、クリエイターといういかにも労働コストが高そうで自分のセンスで勝負をかける職業につきたい人は、得てして向上心も高いため、教育機会の需要が高く、教えるためのコンテンツの供給も多いと捉えることもできます。
他方、成否に関わる共通点の半分は発注者側(プロジェクトオーナー)にあります。プロジェクトには必ずリスクをとるオーナーがいて、多くの場合は資金を提供する事業者がそれに当たります。少なくとも3桁以上の数のプロジェクトの受注を経験してきましたが、成功するプロジェクトには、必ずいい発注者が存在していました。例外なく、必ずです。
逆に失敗するプロジェクトでは、発注者の経験不足や知識不足からそもそも互いの目線が合わずに軌道に乗らないケースが散見されます。言わずもがな、受発注の両サイドで未熟が重なるケースは大失敗につながることも少なくないでしょう。プロジェクト期間の半分を消費して、そもそものオリエンテーション内容がずれて、一から発想しなおす必要が生じたけれど、残り時間も予算も増えないという状況は、残念ながら身に覚えがある人は多いのではないでしょうか。
プロジェクトマネジメント≠プロジェクトデザイン
しかし、それは発注者が「優秀じゃない」からではありません。単純に、経験や知識が不足しているだけのケースが多いと感じます。特に日本の大企業の場合、ジョブローテーション制があり、昨日まで営業部でトップの成績を収めていた人が、急にブランド担当としてクリエイターに発注をかける立場になることがよくあります。
これまでの経験値が単純に横展開できない時に、頼るべきは先輩ですが、発注は属人化しやすいスキル領域であり、たまたまいい先輩に出会えなかった場合は、トライアンドエラーで成長するか、本に頼ることになります。そして本と出会うために書店に向かうと、多く出回っているのは「プロジェクトマネジメント」に関する書籍で、成功するプロジェクトそのものをデザインする段階から体系化されている書籍は、著しく減ります。
「マネジメント」のゴールは、決められた条件(納期・金額・品質)の中でプロジェクトをきっちり完遂することであり、それは管理の手法です。これらはもちろん重要なことなのですが、自由な発想を拡張したり、革命的なアイデアに巡り合うような風を起こしてくれることは少ないのです。管理に軸足を置く「プロジェクトマネジメント」に加えて、可能性の幅を設計的な視点で広げていく「プロジェクトデザイン」の重要性が高まっているのには、こういった背景があります。
発注スキルを学ぶ場がない
これらを踏まえて再度俯瞰してみると、目的地に予算通り・期日通りに辿り着くための「プロジェクトマネジメント研修」はよく見かけますが、目的地を高めたり予定を上回るリソースを集める視点での「プロジェクトデザイン研修」はほとんど見たことがありません。クリエイティブの私塾に通われている、勉強熱心な事業会社の方も存在しますが、数の比としては受注側に立つクリエイターの方が多いのが現状だと観察しています。
こういった現状に対して、少しでも発注者が参照できるノウハウを増やし、コツに関する議論を増やすため、この連載をきっかけに「発注」という学びの分野を提案します。
不確実性が高い時代、一社のリソースでは革新が起こせない時代、企業人とフリーランサーが横並びになる複雑な時代。こんな時代だからこそ、プロジェクトの起点をつくる「発注」の技を日本全体で高め合いませんか。プロジェクトマネジメントにおけるPMBOKのような「体系」をつくろうというつもりはありません(体系の本を開いた瞬間クリエイティビティが萎える気がするので…笑)。
まずはすでに存在する発注の達人から、その技を抽出し、美学としてシェアしていきたいと思います。発注のボールが、受注のストライクゾーンにストレートに投げられれば、ホームランの確率も上がります。
経営者やチーフクラスの方々は、強いオーナーシップを持っているので、経験則からプロジェクトデザインのスキルを体得しているケースが多かったり、外資企業で特定領域のスキルを重ねてきている担当者は発注がうまかったりしますが、ジョブローテーションで新たに着任した担当者でも成功確率を高めていくことができれば、予算以上の効果を上げるプロジェクトが増え、日本の生産性は確実に上がります。
こんな意気込みで私自身、学びながら連載を進めていきます。身の回りに発注の達人がいたらぜひインタビューさせてくださいね!
