国内の広告市場規模に大きな減少はないものの、その構造は変化。メディア企業の収益基盤は揺らぎ始めている。可処分時間の主戦場はインターネットに移り、収益の大半はプラットフォーマーに吸い上げられる構造が定着したからだ。生成AIの進展が加わるなか、メディア企業に求められる戦略について、メディアコンサルタント/コミュニケーションプランナーの松浦シゲキ氏が解説する。
※本記事は月刊『宣伝会議』11月号の特集2「広告メディアのDX 変わるマスメディア企業のマーケティング支援」の転載記事です。
生成AIがもたらす「二重の衝撃」
2024年の日本の総広告費は7兆6730億円(電通「日本の広告費」)となり、3年連続で過去最高を更新しました。しかし、数字の華やかさとは裏腹に、メディア企業が潤っているわけではありません。2023年度の総務省の調査では、休日におけるインターネットの平均利用時間が初めて200分を超過し、もはやユーザーの可処分時間の主戦場はインターネットへと完全に移行しました。
この構造変化のなかで、GoogleやMeta、TikTokといったプラットフォーマーが広告収益の大半を吸い上げ、コンテンツ供給者には「おこぼれ」のようなトラフィックとマネタイズ機会しか残されていないのが現実です。
私が20年以上、メディアビジネスに携わってきたなかで痛感するのは、コンテンツをつくる「つくり手」、それを届ける「伝え手」、そして消費する「受け手」の三者関係において、伝え手であるプラットフォーマーの力が圧倒的に強まっているということ。「つくり手」と「受け手」が一体化していたマスメディア時代から、現在はその2者が大きく分離し、その間を「伝え手」が支配する構造になっています。
さらに追い打ちをかけるのが、プログラマティック広告の単価下落です。RTB(リアルタイムビッディング)の普及により、広告在庫が過剰供給状態となり、CPMは下落の一途を辿っています。
そんな状況下での生成AI時代の到来は、メディア企業にとって脅威と機会の両面を持ちます。脅威の側面から見れば、GoogleのAI OverviewからAI Modeへの移行は、検索流入の分配構造を大きく変える可能性があります。Googleは検索流入総量の維持を示唆しているものの、AIによる直接回答の充実は、情報の一次ソースへのアクセス動機を変質させるでしょう。
特に、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)で劣るメディアは、AIに選ばれない「見えない存在」となるリスクが高まります。もとよりユーザーが検索結果の要約だけで満足してしまえば、元記事へのクリックは減少します。これは検索エンジン最適化(SEO)を軸にトラフィックを獲得してきたメディアにとって死活問題です。
また、生成AIによるコンテンツ制作の民主化は、競争環境をさらに激化させます。誰もがそれなりの品質のコンテンツを短時間で量産できるようになれば、可処分時間の奪い合いはより熾烈になるでしょう。
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