「宣伝会議のこの本、どんな本」では、当社が刊行した書籍の内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」や識者による本の解説を掲載しています。今回は、10月1日に発売した『デジタル広告の「⾒えない不正」と闘う 広告主のためのアドベリフィケーション完全ガイド』(アドベリフィケーション推進協議会著)の「はじめに」をご紹介します。
なぜ今、アドベリフィケーションが必須なのか
【事例】ブランドセーフティに係るアクシデント
2017年、大手動画共有プラットフォームにおいて国際的な過激派組織に関連する動画に多くの企業の広告が表示されていたという事態が、海外メディアによって報じられた。広告主企業のブランドを毀損する可能性があるのみならず、コンテンツを制作し共有している反社会的勢力に広告収入をもたらす可能性があること等を理由に、多数の広告主が当該動画共有プラットフォームへの広告配信を一時的に引き上げる事態となった。
出典:総務省「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」
これは、ブランド構築に寄与するはずの広告出稿が、真逆のブランド毀損を招いた悲劇的なケースです。
どうすれば、この事件は防げたのでしょうか。その答えが「アドベリフィケーション」です。これは、「ad(広告)」+「verification(検証)」から生まれた造語です。
「アドベリフィケーション」とは、デジタル広告が「実在するユーザーに」「ユーザーが視認できる状態で」「広告主が考える適切なコンテンツ(面)に」「不正のない安全な環境で掲載されているか」を検証することを指します。主に、以下のような観点で行われています。
・ 広告主企業や自治体が投じた貴重な広告予算が、しっかりと顧客の目に触れる場(サイトやアプリ)に出稿されているのか(=ビューアビリティ)
・ 反社会的組織がかかわるサイトに掲載され、それらの団体に資金が流れていないか、配信面のコンテンツがブランド価値を大きく毀損していないか(=ブランドセーフティ)
・ 誰も閲覧しないサイトへの掲載や、ボット(自動化されたプログラム)によるクリックなどで広告費の無駄遣い(=アドフラウド)になっていないか
広告主企業や自治体の方々においては、まだ「アドベリフィケーションという言葉を聞いたことがあるが詳しくは知らない」という方が多いかもしれません。そのため、まさに今この瞬間も自社が大きなリスクにさらされ、広告費を無駄に費やしてしまっている企業が少なくありません。本書はそうした企業の方々に向けた、アドベリフィケーションの“入門書”です。まずは喫緊の課題だと認識していただき、正しい知識を持つことが、アドベリフィケーションの第一歩です。
『デジタル広告の「⾒えない不正」と闘う
広告主のためのアドベリフィケーション完全ガイド』(アドベリフィケーション推進協議会著)
広告表示以外にも、自社Web サイト上の怪しい動きを検知し、ブロックするソリューションを入れるといった対策も、アドベリフィケーションの一種です。アドベリフィケーションとは、リスクを早期に発見・対策するための「“疑わしき”を検知する技術」なのです。
広告配信プラットフォームとデジタルメディアの間で働くのがアドベリフィケーション。広告出稿側の対策であり、ユーザー体験へ与える影響に配慮した対策となる。ただし広告主自体が詐欺団体、もしくは公序良俗に反する表現をする広告表示への対策は、プラットフォーム側の審査の問題であり、本書では対象外とする
かつては手作業の延長線上にあった「デジタル」は、近年、加速度的に自動化の一途を辿っています。特にここ数年ではAI 化も爆発的な勢いで進んでいます。
「“疑わしき”を検知する技術」の発達は、そうした時代の要請によって成立してきた歴史でもあります。広告代理店は、企業や自治体の広告活動において“疑わしき”を検知した上で、広告を安全に配信するために必要な対策を講じ、必要な広告枠を提供しています。また広告主の多くの予算を預かるプラットフォーマーは、疑わしきコンテンツやボット(自動化されたプログラム)には広告が表示されないようにし、反社会的勢力に広告からの利益を与えないように対策技術を日々アップデートしています。
しかし、広告代理店とプラットフォーマーが常に連携し対策を講じていても、我々の活動を欺く技術も進化してしまい、対策をすり抜ける悪質な手口も生まれ続けています。そこで2017年、この領域に関わる市場調査と情報発信を目的に、日本国内でアドベリフィケーションに関わるソリューションを提供する企業を中心に、私たちアドベリフィケーション推進協議会が発足しました。
協議会では、日本国内のみならずグローバルにネットワークのあるIntegral Ad ScienceやDoubleVerify、軍事技術を転用したサイバーセキュリティを提供するCHEQ、日本国内でアドテクノロジーを幅広く提供するSupership グループでアドベリフィケーション領域のソリューションを提供するMomentum、そして各社と強いパートナーシップで広告活動を推進する電通デジタルにより、日々の業務を通して得た具体的な知見を発信しています。
その知見を基に、アドベリフィケーションについて網羅的にまとめたのが本書です。本書は読者の皆様に、広告配信技術の視点から広告の価値や安全性に関わる市場の現状を知っていただき、その対策手法と、自社のブランドや広告費の守り方をご理解いただくことを目的としています。協議会の加盟各社が有する最前線の経験を通じて、専門知識を広く分かりやすく詳細にお伝えしたいと考えています。
もう少し「なぜ今、アドベリフィケーションが必要なのか」を解説します。それには主に次の3つの背景があります。
1. 国としても広告主に対策を求めている
デジタル広告におけるリスクには、国も注視してきました。2024年10月に「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」が総務省で発足。デジタル広告に関するガイダンス草案が作成され、2025年6月に「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」として公開されました。特に、諸問題にさらされることのコンプライアンス(法令遵守)的なリスクの高さと、それゆえの経営層の関与の必要性が強調されています。
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2. AI の進化による技術向上と、悪質手口の巧妙化
AI の台頭は、皆様が体感されていることと思います。これは広告配信技術の向上に寄与している半面、新たなリスクの拡大でもあります。新しい技術の価値とリスクの双方から、AI 活用を理解することが大切です。
3. 社会的影響が大きい企業ほど、アドベリフィケーションに積極的に予算を投じ始めている
広告出稿量が多く、自らを社会的責任が大きいと考える時価総額10 兆円を超えるような企業から、アドベリフィケーションに積極的に予算を投じ、自社ブランドやグループ企業の膨大な広告配信先の安全性を管理する動きがグローバルで始まっています。
こうした背景の下、本書は以下のように構成しました。広告メディアやデジタル広告の歴史や技術的側面をすでに把握されている方は、3章「アドベリフィケーション導入のための基礎知識」からお読みいただければと思います。また昨今の社会や技術の変化に応えるために、アドベリフィケーションやAI
を活用して広告活動にどう適用するか、組織的な広告活動のモニタリングの形とその作り方等に関心がある方は、4章以降で最新のトレンドや実務に取り入れる方法をご理解いただけます。
序章 広告主企業が知るべきこと
総務省ガイダンスのデータを交えて、広告主が現在さらされているリスクと、その対策に向けて知っていただきたいことをコンパクトにまとめました。また総務省 情報流通行政局の吉田弘毅氏、JICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)事務局長の小出誠氏に、広告主がどのように考え行動していくべきか、提言いただきます。
1章 デジタル広告の変遷
これまでのメディアとデジタル広告の変遷を振り返ります。デジタル広告とアドテクノロジーがどのように進化してきたのかがわかります。
2章 アドテクノロジーとアドベリフィケーションの共進化
アドベリフィケーションに関連する主要技術を紹介します。アドテクノロジーの進化の過程で生まれた課題に対応する形で、アドベリフィケーションの技術も発展してきたことがわかります。
3章 アドベリフィケーション導入のための基礎知識
アドベリフィケーションで計測できる具体的な指標を紹介します。併せて、近年注目されている新たな指標・ブランドスータビリティとアテンションについても解説します。
4章 アドベリフィケーションの導入と実践
アドベリフィケーションの計測を通じて日々の広告活動のPDCA に情報を組み込んでいく考え方と、KPI 設定や効果測定手法を解説します。
5章 詐欺行為者とアドベリフィケーションの攻防、最前線
進化し続けるデジタル広告の世界で生まれる新たな脅威と、それに対抗するためのアドベリフィケーション技術の最新動向、今後の可能性について解説します。
6章 攻めのアドベリフィケーション
アドベリフィケーションを“守り”に留まらず、ブランドを高める“攻め”のツールとして活用する方法を、AI の活用も交えて複数の観点から論じます。
経営層から現場の皆様まで、ぜひお役に立てていただけたら幸いです。
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