顕在化したニーズが見えづらいコモディティの時代には、ヒットの鍵はインサイトが握る――多くの人がそれを理解してはいるが、実際にインサイトを見つけるのは簡単ではない。この問題に正面から取り組み、組織全体でインサイトフルなマーケターを育てる取り組みを進めている企業が味の素だ。マーケティングデザインセンター長の岡本達也氏と、同社のマーケティング顧問で、『新版「欲しい」の本質 人を動かす無自覚な欲求「インサイト」の見つけ方』の著者である大松孝弘氏に、マーケター育成の取り組みを聞いた。
左が岡本達也氏、右が大松孝弘氏
どんな素晴らしいフレームワークも
いい加減なインサイトでは機能しない
━━味の素社では2023年にマーケティングデザインセンターを設立し、マーケティング志向の組織改革に取り組まれています。組織の立ち上げ当初から大松さんがマーケティング顧問になっていたということですが、当時どのような課題意識をお持ちだったのでしょうか。
岡本
:当社では長年使っている独自のマーケティングのフレームワークがあり、基本的にはそのフレームワークに沿ってマーケティング戦略の立案や製品開発を考えてきました。フレームワーク自体の完成度は高いのですが、固定されたものを使い続ける中で、どうしても穴埋め問題のような使い方になってしまう、という問題がありました。
つまり「グループインタビューでお客さんはこう言っていました、だからこれがインサイトです」という非常に表層的なものを入れてしまう。これは指導する側のレベルにも左右されるところがあって、上司が「それはインサイトではない。もう一度考えてきて」と言えればいいのですが、その判断ができずに通してしまう人もいるわけです。
こうした穴埋めが横行すると何が起きるかというと、お客さまの未充足を捉えられないのでヒット商品が生まれなくなる。よく理解しているブランドマネージャーがいる時期には正しくフレームワークが運用されてヒットが出るのですが、その人が異動するとまた穴埋めのフレームワークに戻って低迷してしまう。
味の素株式会社 執行役常務/食品事業本部副事業本部長 兼 マーケティングデザインセンター長 岡本達也氏
これを繰り返していてはダメだということで、2011年に家庭用商品の事業を統合した際に、マーケティング責任者だった私がさまざまな仕組みを作り、成果も出せる体制に一度はなりました。ところが2014年に冷凍食品(味の素冷凍食品株式会社)へ出向して、5年後に戻ってくるとまた“穴埋め状態”に戻ってしまっていた。それで大松さんに相談したんです。

