「読む・観る・遊ぶ」から「没入し、参加する」へ Webtoon、ゲームが書き換えるIPの“設計図”

メディアが変われば、コンテンツの「形」も変わる

本連載の第3回から第5回にかけては、Netflixに代表されるグローバル配信プラットフォームがいかにして映像コンテンツ産業にインパクトをもたらしてきたか、その脅威も含めて論じてきた。配信プラットフォームはテレビ放送という枠を取り払い、世界中へ瞬時にコンテンツを届けるパイプラインを構築した。しかし、いま起きている変化は「流通」だけに限ったものではない。スマートフォンの普及と通信環境の進化は、コンテンツそのものの「形(フォーマット)」を大きく変化させている。

従来、IP(知的財産)とは、「映画=劇場」「アニメ=TVや配信」「コミック=出版」のように特定のメディアに特化されたパッケージとして提供され、一連の「物語」を視聴・購読するものだった。しかし現在、特にデジタルネイティブ世代が中心となり、IPはスマートフォン上で「触れ」「入り込み」「交流する」対象へと進化している。

その変化を象徴する2つの代表例が、「隙間時間」を占有する『Webtoon(縦読みマンガ)』と、「可処分時間」へ深く没入させる『ゲーム・メタバース』だ。今回は、これらのフォーマットの台頭が、IPの作り方(設計図)自体をどう書き換えているのかを分析する。

Webtoon:「縦スクロール」と制作体制・ビジネスの変容

まず、マンガ市場に大きなインパクトをもたらしているのが、Webtoon(ウェブトゥーン)だ。韓国発のこのコンテンツは、単にフォーマットを「紙のマンガをデジタル化したもの」ではない。スマートフォンで読むことに特化した新しい「体験」の提示となっている。

よく知られるように、Webtoonの特徴は「縦スクロール」と「フルカラー」だ。日本の伝統的な見開きマンガが「コマ割り」という複雑な文法(視線誘導の技術)を読者に要求するのに対し、Webtoonは上から下へスクロールするだけで映像のように情報が入ってくる。この敷居の低さが、これまでマンガを読まなかった層や、右開き・左開きの文法に馴染みのないグローバル市場での急速な普及を可能にした。

そしてビジネス視点で注目されるのが、その制作体制だ。一般的にWebtoonは、脚本・ネーム・線画・着彩・背景などを分業化(スタジオ制)した「工業的生産モデル」を採用する傾向が強いとされる。これにより、クオリティを均質化し、ハイペースな更新を組織的に支えている。

ただし、この「マンガ=個人/Webtoon=分業」という対比には、注意も必要だ。Webtoonにおいても個人制作を中心としてヒットした作品は少なくない。一方で、従来の日本の見開き型マンガにおいても、故・さいとう・たかを氏の『ゴルゴ13』のように徹底した分業体制が敷かれ、作者の没後も新作が生まれ続けている事例が存在するからだ。

とはいえ、ビジネスモデルの“主流”としてスタジオ制(分業)を前提とし、IPを作家の属人的な「作品」から、市場のニーズに合わせて最適化・拡張可能な「プロダクト」へとシフトさせようとする志向性は、Webtoonビジネスの大きな特徴と言えるだろう。

ゲーム・メタバース:「観る」から「住む」へ サードプレイス化するゲーム空間

Webtoonがスマートフォンの「隙間時間」における占有率を高めているとすれば、ユーザーの「可処分時間」をいかに長く確保するか競っているのが、ゲーム、そしてメタバース的なサービスだ。

近年、ゲームは単なる「遊び」を超え、友人と集まって過ごす「サードプレイス(第3の居場所)」としての機能を持ち始めている。『Fortnite(フォートナイト)』や『Roblox(ロブロックス)』などがその代表例だ。ユーザーはゲームをクリアするためだけでなく、アバターを介して友人と会話したり、バーチャルライブに参加したりするためにそこにログインする。

このような空間ではIPの役割も変化する。従来のように物語(ストーリー)をユーザーが一方的に消費する対象となるのではなく、ユーザー自らがその世界観(ワールド)の中で(擬似的に)生活し、体験を共有するための「環境」や「共通言語」としての役割が与えられるのだ。

直近の事例で言えば、2024年10月にリリースされ世界的な反響を呼んでいる『Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)』が示唆的だ。これは物理的なトレーディングカードの「パックを開封する」「カードをコレクションする」という体験を、デジタルの演出でリッチに再現したものだ。ユーザーは対戦(ゲーム性)だけでなく、カードのイラストの中に飛び込むような没入感のある映像体験や、デジタルならではの収集体験そのものを楽しんでいる。

これは、IPが「物語」から「体験」や「場所」へと拡張している好例だ。ユーザーにとってIPは、もはや画面の向こう側にあるものではなく、自分のスマートフォンの中に広がる「生活空間の一部」になりつつある。

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日本発IPはどこへ向かう? 今さら聞けない現在地と進化論
まつもとあつし(ジャーナリスト、研究者)

ジャーナリスト・研究者(専修大学文学部ジャーナリズム学科特任教授)。NPO法人アニメ産業イノベーション会議(ANiC)理事長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現職。ASCII.JP・Yahoo!ニュース個人などに寄稿。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)「地域創生DX」(同文館出版)など。取材・執筆と並行してコンテンツやメディアの学際研究と教育を行っている。

まつもとあつし(ジャーナリスト、研究者)

ジャーナリスト・研究者(専修大学文学部ジャーナリズム学科特任教授)。NPO法人アニメ産業イノベーション会議(ANiC)理事長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現職。ASCII.JP・Yahoo!ニュース個人などに寄稿。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)「地域創生DX」(同文館出版)など。取材・執筆と並行してコンテンツやメディアの学際研究と教育を行っている。

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