「AI推進担当になったけど、もう辞めたい」、もしあなたがそう思っているなら、安心してください。それが正常です。
私の肌感覚(とXでのアンケート結果)では、自分が生成AI推進を始めた2024年7月時点でのAI推進担当は、現在約6割が退職を検討し、3割が実際に異動か退職をしています。 なぜ、これほどまでに生存率が低いのか。技術が難しいから? 予算がないから? いいえ、違います。プロジェクトが頓挫する最大の理由は、「合意形成」と「期待値調整」の失敗です。
今回は、私自身も推進初期に壁にぶつかり、「これは無理かもしれない」と悩み抜いた経験を踏まえ、この2つの罠についてお話しします。
罠①:全員と合意しようとする「民主主義の呪い」
日本企業あるあるですが、何か新しいことを始める時に「関係各所の合意」を取ろうとしますよね。セキュリティ部門、法務部門、人事部門、現場のマネージャー……。AI推進において、これを真正面からやるとプロジェクトは止まります。
なぜなら、生成AIという「得体の知れないもの」に対して、全員が最初から諸手を挙げて賛成することなどあり得ないからです。リスク管理を仕事にしている部門からすれば、AIは「未知のリスク」です。「100%安全であることを証明せよ」と言われても、確率論で動くLLMにおいてそれは不可能です。
私が直面した課題もこれでした。丁寧な説明行脚を繰り返し、そのたびに「ここが不安」「あそこが心配」と指摘され、その対応に追われているうちに時間が過ぎていく……。結果、「スピード感がない」と指摘され、板挟みで疲弊してしまうのです。
突破口は、「まずは小さく」でした。全社一斉展開を目指して全員の合意を取ろうとするのではなく、「まずはこの部署だけ」「この業務だけ」と限定し、PoC(実証実験)として進める。小さく始めて実績を作り、「ほら、こんなに便利ですよ」と数字で見せて納得してもらう。AI推進は、議論よりも「動くモノ」を見せた方が、圧倒的に合意形成が早くなります。時には「まずはやってみる」という突破力が必要です。
罠②:「魔法の杖」幻想
もう一つの頓挫理由は、経営層や現場のAIへの期待値が高すぎることです。メディアで「AIで業務が劇的に変わる!」みたいな記事を読んだ社長が、「うちもAIで革新的なことをやれ! 全社員の業務を半分にしろ!」と号令をかける。「どうやら仕事が半分になるらしい」と目を輝かせている社員。これが地獄の入り口です。
